表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気力をなくした元バーテンダーが地獄あたりでバーをやるハメになりました  作者: 高山シオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/47

衆合地獄のあやしい女

 一本角、デコ目、トラパンツが働く等活地獄の、さらに2段下にあるのが衆合地獄という場所だ。殺生や盗みや邪淫をすると落ちることになっていた。

 いたるところにアルプス山脈、ヒマラヤ山脈、立山連峰に八ヶ岳といった感じの大きな山があり、川があちらこちらに流れていた。

 あー、なんか、空気のキレイな高原のリゾート地ふうだ。地獄じゃないみたい。


「んな訳ねぇだろっ!」

 体の大きな獄卒がカメラ目線で突っ込む。きっと劇場版〇魂を観てきたのだろう。


 ただ残念なことに、山は可動式だし、川は赤銅色をしていた。風景を楽しむような人間はひとりもおらず、みんながみんな、血相を変えて必死で逃げ惑っていた。

 さらに、あちこちに臼が転がっており、杵を持った獄卒が餅つきをするみたいにペッタンペッタンやっている。

 正月?正月なのね?地獄にも正月が来るのね?……ということではない。

 獄卒は逃げ惑う人間をとっ捕まえて、臼の中に放り込んでペッタンペッタンしているのだ。

 地獄絵図。ここは地獄だから。


「んもぉうぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 地響きのような声をあげたのは牛頭だった。三途の川にいた牛頭とは別人(別牛)だ。


「きゃーーーーーーーーー!」


 牛頭に驚いた人間たちが、バラバラと我先に逃げ出した。牛頭は、ばふんばふんと鼻息をまき散らしながら、どんどん追いかける。さながら闘牛だ。


「ぶるひひぃぃぃぃぃぃぃぃん!」


 牛頭よりは、ややキーの高い雄叫びを上げたのは、馬頭だった。体がマッチョな人間で頭が馬だった。


「うわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 馬頭に驚いた人間たちも、我先に逃げていく。待ち構えていた獄卒が、人間たちを臼の中にポンポンと放り投げて餅つきならぬ、罪人つきをやっているのだった。


 いたるところに、怪しげに枝を伸ばした巨木が生えていた。枝には肉厚の、艶のある葉が生い茂っている。

 緑が目にまぶしいぜ……とか、言っている場合ではない。


 ひとりの男が木の下を通りかかった。


「ねぇ~ん」


 どこからともなく、夜の誘惑に似た甘い女の声が聞こえてくる。男が立ち止まる。耳をダンボにする。


「こっちよぉ」


 声のするほうを見る。巨木。その木のてっぺん近く、枝と枝の隙間から、ちらりちらりと、いかにも男をじらして楽しむ悪女のごとく、匂いたつような色っぽい女がひとり、手招きをしているのが見えた。

 それはそれは、三大欲求のひとつに直に働きかけるような光景だった。

 男が生つばを飲む。


「早くこっちに来てぇ~ん。私と〇×Д★↑ш◆◎Юф¶♪(放送禁止)しましょう~」


 誰の耳にもそうとしか聞こえない、あからさまな誘惑の言葉。さらに、女の着物がするっと肌蹴て、艶のある白い肩がむき出しになった。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 男は目の色を変えて、木の幹に飛びかかった。大脳新皮質とか、その辺の理性を司る部分は全て、一瞬にしてシャットダウンした。

 待っている、女が俺を待っている。頭の中はピンクでいっぱい。あんなことやこんなことや、でんぐり返ったり、それからえーとえーと。想像が膨らみ、ふんがふんがと鼻息が荒くなる。ピンク色の照明にギランギランのミラーボール。フィーバーフィーバー、大フィーバー。

 だから、男は気がつかなかった。枝という枝に生い茂っている葉っぱという葉っぱの全てが、鋭い刃になっていることに。

 男が手を伸ばす。激痛。見ると血が流れている。刃物が刺さっている。


「ねぇ、早くぅ。もう待てないのぉ」


 女が顔を火照らせて、瞳を潤ませる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 男は再び枝にとりつき、ガシガシとてっぺんを目指す。その手に、腕に、体に、刃と化した木の葉が、容赦なく突き刺さり、切りつけていく。しかし、本能の化身となった男は、血みどろになりながらも、木のてっぺんに向かって、猛り狂う野獣のごとくに這い上がって行った。


「うぁぁぁぁぁぁ!」


 勝利の雄叫びを上げて、女を抱きすくめ……ようとしたら誰もいない。キョットーン。本気のキョットーン。

 すると、再び、


「ねえ~ん。こっちよぉ~」


 女が誘う声がする。男が振り返る。今度は、木の根元だ。


(女が木の根元で、俺の《ピー。放送禁止》を待っている!)


 男は木を降りる。その体に、再び刃と化した木の葉がザクザクと突き刺さる。それでも本能に勝てず、男は突き進んだ。ようやく木を降りると、また女はいなくなっていた。

 再び、木のてっぺんから男を呼んでいる。男は再び木登りを始める……。


 これは「刀葉の木」といって、それぞれに女の獄卒がいて、色気で男を呼びよせては痛めつけているのだった。


 そんな木の一本に、やたら美しい女がひとり座っていた。美人すぎて特徴がないパターンの顔だった。男を呼びよせては誘惑し、男が木を登ってきたところで根本に瞬間移動し、また男を呼びよせては、木のてっぺんに瞬間移動し、そんなことをずっと繰り返している毎日の中で、ちょっとずつバグを起こし始めていた。


 女はため息をついた。その気だるげな様子に男がまた燃え上がって、血みどろになりながら木を登ってくる。目は血走っているし、おなかのあたりにモザイクがかかってるし。(グロい描写にならないように)その様子を横目に見る。それもやっぱり誤解を生んだ。


(ヤベェ、色っぺぇ流し目!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ)


 女は木の根元に移動する。木のてっぺんで男が目標物を失って慌てている。


(くっだらねぇ)


 女は黙って男の姿を見上げていた。服が破れて、尻が丸出しになって、やっぱりモザイクがかかっている。(R18指定にならないように)

 男はしばらくキョロキョロした後、木の根元に女がいることに気がついたらしい。エロの流れに身を任せて、ずるずると滑り降りてきた。

 刀葉の木の葉は、下から登ってくるときには刃が下を、上から降りてくるときには刃が上を向くシステムになっていた。どっちにしても悲惨な目に遭うのだ。

 男が地面に辿りつきそうな頃合いで、今度は木のてっぺんに移動した。


 女は改めて自分を見た。透けるような白い肌、ほどよい体の膨らみに、腰のくびれ。すらりと長い手足、細いしなやかな指。これらのものは何のために施されたのだろう。


(くっだらねぇ)


 女は宙を見た。

 巨大な山並みが地響きを立てて動いている。体の大きな獄卒が罪人つきをしている。他の獄卒は巨大な岩を持ち上げて、放り投げている。おどろおどろしい光景。空も赤く黒くどんよりとしている。


 無残に骸骨になった男が、木の根元へと落ちていくのが見えた。しかし、ほどなくして、他の男が挑んでくる。終わりがない。


(あーなんか、なぁ……)


 女は再び宙を見た。すると怪しく暗い空に、ぽつりと針の穴のような、小さな光のようなものが見えたのだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ