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気力をなくした元バーテンダーが地獄あたりでバーをやるハメになりました  作者: 高山シオン


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生前のこと・辛い別れ

 白い粉はジョークでも何でもなく、本物のヤバいクスリだった。そのせいで西馬は数日間に渡る取り調べを受ける羽目になった。

 強制的に検査もされた。尿検査を受けたし毛髪も持って行かれた。でも何も出なかった。


(当たり前だ!)


と思う一方で、万が一にでも何か出たらどうしよう、とヒヤヒヤしていた。


 初めての留置場で、西馬はどうして自分がこんな目に遭っているのだろうと考えていた。消えた女。残されていたクスリ。この二つを結びつけずにいることはできなかった。

 でも何で自分だったのか。こんなハードボイルドな目に遭わされたのが。おかげで文章までも若干のハードボイルドになってしまっている。次あたりから、いつものペースを取り戻さなくてはと思いつつも。


 結局、ただクスリを持っていただけ、使用した痕跡もないし、誰かに売ろうとしていた証拠も見つからなかった。それに初犯だったから、執行猶予がついた。


「オンナには気を付けろよ」


と熟年の刑事に言われて、西馬は娑婆に出てきた。

 とりあえず自宅マンションに戻ろう。ふわふわと現実味のない足取りで電車を乗り継ぎ、部屋に戻った。ひどく疲れていた。ベッドに倒れこむと気を失うみたいにして眠りに落ちた。


 目が覚めると、部屋の中は真っ暗だった。知らないうちに夜になっていたのだ。昼間に眠ってしまい夜を迎えると、何故か絶望的な気持ちになることがある。西馬は両手で顔をこすり、ため息をつき、部屋の明かりをつけた。

 床に落ちたスマホの充電が完全に切れている。それを充電器にセットすると、LEDのランプが小さく灯り、やっと現実に戻ってきたような気がした。

 汗ばんだ服を脱ぎ捨て、熱いシャワーを浴びる。しばらくザーザーと頭からシャワーをかぶり続けた。


(あの女はどうして俺を……)


 それだけが腑に落ちない。何か目的があったのだろうか。店の客だった、それだけの関係しかない。はずだ。

 タオルで体を拭き、下着だけを身につけて冷蔵庫を開けた。たいして空腹は感じていないが、何かを腹に入れなくてはやっていられない。それにビールがあった。飲まなくてはやっていられない。缶を開けると、グラスにも注がずに直に飲んだ。


 スマホの電源を入れると留守電が入っていた。日付けは、まさに西馬が警察に逮捕された当日だった。

 メッセージの主は、クミコさんという女性で、西馬が子供の頃から慕っていた叔父さんの妻だった。しっかりとした女性で、西馬にとっては姉貴みたいな存在だった。

 イヤな予感がした。ビールの缶をテーブルに置くと、西馬は留守電を再生した。そして予感は当たった。感情を抑えたクミコさんの声が伝えてきた。


「――亡くなりました。このメッセージを聞いたら、いつでも良いから電話をください」


 西馬はすぐにクミコさんの番号にコールした。しかし出なかった。電話を切ってしばらくすると、クミコさんから電話がかかってきた。


「今までどうしてたの!?何回、電話してもつながらないし、心配してたのよ?」


 クミコさんに問われて、西馬は戸惑った。本当のことは言えない。


「叔父さんは……」


 口の中が乾いてうまく声が出なかった。


「お店の準備してて倒れたみたいなの……。そのまま……」


 クミコさんが小さく呼吸を整えるのが聞こえた。


「明日、身内だけでお葬式するから来てね」


「分かりました」


 電話を切った後、西馬は全身の力が抜けていくのを感じた。どうして今。ビールを飲み干して缶を握りつぶした。泣きたいのに涙が出ない。ただ歯を食いしばるばかり。


 こんな辛いことはないだろう。 

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