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気力をなくした元バーテンダーが地獄あたりでバーをやるハメになりました  作者: 高山シオン


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衣領樹の下で

 そんな群集の姿を、西馬はよくできたVR映像でも眺めているみたいに、ひとり突っ立っていた。


「ピヨピヨ」


 ひよこが近づいてきても見向きもしない。ひよこが鋼のくちばしを見せつけて、悪魔面しても反応もしなかった。


 彼が眺める巨木の枝に、次々に布がぶら下げられていく。どうやら、人間たちが着ていた服らしい。にやにやした顔の巨大な爺が、服をぶら下げて何かを測っている。


「ああやって生前の罪の重さを測っているのだ」


 地響きのような低い声に振り返ると、牛頭が立っていた。ホルスタイン柄のマッチョ。


「ほとんど罪を犯していなければ橋の上を歩いて渡れる」


 牛頭が指さした方を見ると、なんかすごく光っているものがある。


「う。眩しい」


 思わず目の前に手のひらをかざした。


「お前のように罪深い人間がまともに見ると眩しくて目をやられるのだ。う」


 西馬が見上げると、牛頭が頭を振りながら目をしばしばとさせている。眩しかったらしい。さっきから、ちょいちょい人間らしい姿を見せる。それにしても、ずっとここにいるんだろうに、目が慣れないのだろうか。

 当の牛頭はというと、西馬の視線に気がつくや、ばふぅっと鼻息を吹き出して怒った。


「何を見ているのだっ!」


 吹っ飛ぶ西馬。そのへんにいた、ひよこたちも数十羽、ピヨピヨと吹き飛ばされた。とばっちりもいいところだ。同朋じゃなかったのかよ。


「え、えへん」


 牛頭が咳払いをしている。どうやら、さっきの鼻息は照れ隠しだったらしい。照れくさいとプリプリしちゃう、みたいなやつだ。


「あの橋は金銀七宝でできているのだ。ごく少数の人間しか渡れない」


 西馬が目を細めてみると、たしかにギラギラと眩しいそれは橋の形をなして、川の向こうまで続いている。バブリー・ブリッジ。その上を微笑みながら渡る数人の老若男女がいた。


「ちょっとやらかしちゃった人間が渡るのはそこだ」


 牛頭が指さしたのは川の中だった。しかし、流れはさほど早くなく、水も深いところでも膝の下までしかない。まるで川遊びだ。ただ、橋の上を渡るのに比べたら、だいぶ大変そうではあった。


 すると、眺める西馬の頭上から、おどろおどろしい牛頭の声が降りかかってきた。


「そして、お前が渡るのはな、もう決まっている。あそこだっ!」


 次の瞬間、西馬の体は宙に浮き、ものすごい勢いでぶっ飛んで行った。

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