地獄ひよこ
ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁ!
人間たちは悲鳴を上げ、取り乱して我先に逃げ出そうとした。
やられる!復讐に燃えるホルスタインに殺られる!怖い!ヤバい!怖い!ヤバい!
みんな、いっぺん死んだからこそ、今ここにいるのだという事実を忘れている。大パニックだ。
「皆の者、出てこぉい!」
牛頭が怒鳴った。その声は地響きとなり、空気をふるわし、逃げ惑う人間たちがバタバタと倒れた。起き上がってさらに逃げようとする者。踏んづけられて泣き出す者。腰をぬかして、もらしちゃう者。みな、それぞれに恐怖の渦の中にいた。
怒り狂ったホルスタイン(体はマッチョな人間)が無数に現れて、人間たちは取り囲まれ、刃向うこともできず……あわわあわわ。
と、思ったら。
「ピヨピヨ」
え!?
「ピヨピヨピヨピヨ」
あれれ?
恐怖のあまり、ギュッと目をつぶり頭を抱えていた人間たちが、おそるおそる目を開けて、周囲を見回し始めた。そして、あまりの予想外の光景に目を見開いた。
なんか地面が黄色い。そして、もふもふしている。もふもふと、うごめいている。ひよこだ。ひよこがいっぱいいるのだ。そいつらが口ぐちに言っているのだ。
「ピヨピヨ」と。
人間たちは一斉に和みだした。
若い女が、ひよこを手のひらにのせた。
「わー……かわいぃー……んぎゃぁ!」
ひよこのくちばしが突然、鋼に変わって女の手のひらを突き刺したのだ。思わず手を振る女。ひよこはピヨピヨ言いながら、華麗に宙返りして着地した。
「ピヨピヨ、ピヨピヨ」ひよこの鳴き声。なんか可愛い。声だけは。
それに混じって、あちこちで人間たちが悲鳴を上げて、逃げ惑う。騒然。またもや大パニック。
「ぐわはははははは!我が同朋よっ!」
え?ひよこが?牛の同朋?意味が分からない。
「追え!追うのだ!今こそ哀れな男たちの恨みを晴らすのだ!卵を産める女(雌鶏)に生まれなかったばかりに、ないがしろにされた恨みをな!」
「ピヨピヨ、ピヨピヨ」
「えぇー!?ご無体な!」
「時代劇かっ!」
「ピヨピヨピヨピヨ」
人間たちは追われて、気がつくと巨木の下に集まっていた。




