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~閻魔大王の命をうけ、使い魔の黒猫に睨まれながらなんとなく今日も店を開きます~

やる気のない人物紹介


西馬……元バーテンダー。なんだかんだあって職を失い、なんだかんだあって地獄に落ちた。


閻魔大王……こんにゃくが好き。


黒猫……名前がない。閻魔大王の使い魔。



プロローグなんだかよく分からないやつ


「なに。お前、ほんっとに行ったことないのか!?えーなんで?バカじゃないの?バーカバーカ。死ね!!」

 ビリビリビリビリ。窓ガラスという窓ガラスが全部、強度の限界にチャレンジってぐらいに震えた。そのぐらいでっかい声だったのだ。


「死ね!!」が。


 これがもしマンガだったら立体的でヒビの入った文字の塊が、すっごい勢いでぶつかってきて、その場にいる人たちはみんなぶっ飛んでる感じだ。

「あの……」

 両耳に当てた手を、おそるおそるどかしながら、西馬がぼそぼそと答える。彼はバーカウンターの中に立っている。

「わたしはもう死んでいます……」

「は!?」

 これでもかってぐらいに目を見開いた後、仏頂面で頬杖をついたのは閻魔大王だった。言っておくけど閻魔大王の仏頂面なんで、相当な「仏頂面ぐあい」だ。

「はい正解!そうですそうです、その通りです。お前は死んでます。死んだからこっちの世界に来たんです。地獄に落ちたんです。そうですそうです。ここにいるわたしがお前を地獄に落としたんです。はい、すみませんでしたすみませんでしたー」

「いえ……」

 とりあえずグラスを磨いてみたりする西馬。あれ?このグラスさっきも磨いてたような気がする。


「あー!つまらん!」

 閻魔大王はグラスをつかむと酒を飲んだ。ぐびぐび。飲んでも飲んでも、ちっとも顔色が変わらない。

「すみません……」

 西馬は空になったグラスに酒をそそぐ。閻魔大王お気に入りの「こんにゃく焼酎」だ。

「なんで行かずに死んだんだ、お前は」

 閻魔大王がまた言った。

「あーワシがもし人間だったら絶対に行ってたなー、こんにゃくパーク。こんにゃくの聖地群馬。人間の男女はこんにゃくを投げ合っていちゃいちゃ楽しむのだろう?そぉれぇ!やめろよぉ!絶対に楽しいに決まっている!それを人間のお前が!行かずに死ぬとは罰当たりな!」

 ビリビリビリビリ。

 西馬はまた両耳に手を当てていた。もはや目もつぶった。関係ないけど。


「閻魔大王様はこんにゃくがお好きだから」

 どこからともなく声がする。カウンターの下あたり。誰かが入れるような場所ではない。

「そんな閻魔大王様のことがわたしは大好き」

スタッと音を立ててカウンターに飛び乗ったのは一匹のシュッとした黒猫。

「ほんっとに、お前はかわいいな」

「ほんとうのことを申し上げたまでです」

 猫ならではの生まれ持っての猫なで声。閻魔大王もニヤニヤデレデレ。黒猫の頭を撫でては、また、ぐびりと飲む、こんにゃく焼酎。

 気持ちよさそうに目を細める黒猫。しかし、西馬が頭を撫でようと手を伸ばすと一変。

「シャァッ!」

と、真っ赤な口を開けて牙をむき出した、かと思ったら長い鉤爪でバリッ!西馬の手の甲を思い切り引っ掻いた。と思ったら、ご機嫌な顔で閻魔大王に撫でられている。すごい豹変ぶり。びっくりする。


 カランコロン。


 入り口のドアにつけられたドアベルが鳴る。

「閻魔大王様お時間です」

 獄卒が呼びに来たのだ。そろそろ裁判所を開かなければいけないから。

「うむ」

 閻魔大王の表情が一気に引き締まる。しかし直後。

「いってらっしゃいませ、閻魔大王様」

 黒猫の声に思わずとろける閻魔大王。

「うん!行ってくる!」

 とか言っておきながら、ルンルンの軽い足取り。かと思いきや、獄卒を振り返ったときには、いつもの閻魔顔に戻っていた。


 カランコロン。


 ふたりが出て行ってしまうと、

「はぁ~」

と、長い溜息をついたのは黒猫だった。

「あーダル。寝るわ。起こしたら殺すからな」

 そう言い残すと、カウンターの片隅のお決まりのふかふかクッションの上で丸くなってしまった。

「だから、わたしはもう死んでいるのですが……」

 西馬の声だけが空しく漂って消える。今夜も長ぁ~くなりそうだ。


 


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