はじまりは、知らない天井
飾り気の無い部屋。
本が散乱し、魔法陣がそこかしこに描かれている。
ヘリオス国、王都ソレイユの王城の一角に存在する、王宮魔技師の研究所。
部屋の面積を最も占めている銀色の手術台。
その上に、金属が剥き出しで、いかにもといわんばかりの機械仕掛けの人形――ロボットが横たわっている。
そして、たった今、それが目を覚まして、
(どこだ……ここは?)
と、見たことの無い景色に戸惑う……かと思いきや、感情の色は見えない。
彼の視界に映るは天井のみ。その天井に描かれる、神が人間に天罰を下す様子だけが目に入った。
(なんだあれは。私はいったいどこに。そうだ。スマホで……ん?)
動かない。身体が。ピクリとも。
(なぜ。どうしたんだ私の体は? 動かない。動かない。手も。足も。首さえも……)
身体に力を入れる。それなのに。びくともしない。
天井の絵だけがひたすらに目に映る。
……ただの一度もまぶたに遮られることなく。
(目が――閉じられない?)
たとえ事故で体が動かせなくなったとしても、まぶたが動かないなんてことがあるだろうか? このことが、彼の身体の異常を強く訴えていた……はずである。その割に、彼に焦った様子は感じられない。
(なんだこれは。一体、何が起きているんだ? 私はなんでここにいる?)
そして、思い出す。この手術台に乗る前の自分を。
◆◆◆
彼はいつものように身体を酷使していた。
会社に泊まりこみ、徹夜五日目を乗り越えた。
出社してきた後輩の鈴木が、ぎょっと目を開き、顔を引きつらせながらあきれるように、
「小鳥遊先輩。まさか、また徹夜したんですか……もう五日目じゃないっすか……」
信じられない。という態度を全身から発していた。
後輩に気づいた彼は寝ぼけ眼で意識も虚ろなまま、全くの無表情かつ全く感情がこもらない声で、
「あっ。……。おはようございます?」
と、挨拶だか疑問だかわからない曖昧な言葉を放つ。
鈴木は、ハアと深いため息をつき、頭を抱えた。
「寝ぼけないでください。コーヒー……淹れますよ」
「ありがとうございます。すみません。気を使わせてしまって」
「いいですよ。それより、そんなに徹夜ばっかり繰り返したら、過労で死んじゃいますよ? 仕事が遅いわけでもないのに、完璧を求めすぎですよ」
「いえ。完璧を求めているわけではないですから。ただ、凝り性なだけです。それにしても過労死ですか。そうですね。でも、……」
小鳥遊は無表情・無感情のまま会話を続け、最後に鈴木には聞こえないほどの小さな声で、
「……五日徹夜しても、死ねなかったじゃないか」
と、呟く。言葉の強さとは裏腹に、その口調に感情の色は無い。まるで、どこかに置き忘れてしまったかのように。
そしてまた、後輩に淹れられたコーヒーを飲みながら仕事にのめりこむ。無表情・無感情に。
小鳥遊は、定時になると上司に無理やり退勤させられた。
どう見ても弱りきっているので、妥当な判断だ。
小鳥遊にとっては嬉しくない心遣いだが。
不本意ながらも帰路に着く。途中、コンビニによってご飯を買った。
小鳥遊としてはご飯を食べたくはない。食べなければいずれ死ぬことができるから。
けれど、それはどう考えても自殺だ。
自殺することは許されない。
苦しみながら生き続けなければならない。それが、彼に課せられた運命。彼自身にとっては、逃れられない『呪い』。
死にたいという小鳥遊の想いが通じたのか。コンビニを出て、わずか100m先の家に向かう途中、急に左胸に違和感を覚える。そして、そのまま……倒れこんだ。
◆◆◆
小鳥遊がこの手術台に乗る直前の記憶。道に倒れこんだ記憶。それを思い出した彼は、目の前に映る天井を見ながら、表情を変えずに――と言っても顔もすべて金属がむき出しの状態なので表情など作りようがないが――自らの状況を判断する。
(ここは病院か? 天井に絵が書いてある病院。こんな病院があるのだろうか。
体が動かないのは何故だ。倒れたということは病気なんだろう。けど、まぶたすら動かせなくなるような重大な病気なのか)
小鳥遊の目に映るは、天井のみ。当然、自分の身体も目に映ってはおらず、全身が金属の塊であることには全く気づいていない。
そして、いつものように思考の行き着く先は、
(重大な病気……か。これなら、すぐに死ねるんじゃないのか? この人生を終わらせることができる。『呪い』から開放される……)
このまま死ねるのではないかという思い。自分の願いが達成されるかもしれないという状況。常人なら、喜びや期待が目に宿る。しかし、彼の目には感情が宿らない。一貫して、無感情・無表情。
すると、彼の目の前が天井ではなくなる。
期待と不安の入り混じった声で、彼を覗き込む者が現れた
「目覚めましたか?」
(え……)
小鳥遊は思わず息を呑む。いや、驚いたというには感情の揺れが小さすぎる。状況が理解できずに、混乱しているといったほうが正しいだろう。
目の前に、現われた奇妙な女。いや、少女か。
間違いなく美少女に分類されるであろう顔立ち。幼気な顔とは対照的に大人の女性を感じさせるボディライン。見慣れない、幾何学的な模様が入った蒼い服。
だが、それ以上に目を惹く――真っ白な髪、青い瞳、それに……猫耳。
(なんだこの少女は……。コスプレなの……か? ここは病院ではないのか?)
目の前の衝撃的な映像に混乱が勢いを増す。そのせいで、彼女の発する言葉はまるで耳に入っていなかった。
そんな小鳥遊を尻目に、不安そうな顔で、一つ一つ丁寧に確かめるようにロボットの顔――つまり小鳥遊の顔――を値踏みする少女。
「ふむむむむ。うーん。視覚センサーは問題なさそうなんだよなあ」
眉を八の字にして、困ったなあ、という表情を全面的に表す。それが、演技ではなく、彼女生来の気質によるものだということがよくわかる。
「あとはうまく魂回路が作動しているか。ねえ、なにか反応してみてくれないかな。認識番号はわかる?」
そこまで話を聞き、小鳥遊がやっと重大な事実に気づく。あまりにも自然に聞こえていたために、理解が遅れてしまったのだ。
少女が話しているのは……日本語ではない。英語ですらない。聞いたこともない言語で少女は話していた。
にも関わらず、小鳥遊は彼女の言葉を正確に理解していた。常人なら思わず嫌な汗をかくような状況。しかし、彼は何も感じない。ただただ疑問に思うばかりであった。
「あれ~? おかしいな。言語はすべて入力してあるから話せるはず……。はあ、結局また失敗かあ。まあ、魔晶石を交換したくらいじゃだめか。センサーは働いていそうなのに、どうしてもこの魂回路だけが作動しないなあ」
訳が分からない。小鳥遊はそう思った。
状況を把握しよう。少女に話を聞けばいいのだ。
とはいえ、あきらかに日本人ではない。彼女の言うことは理解できても、小鳥遊が話すことはできるのだろうか?
いや、待てよ。
話そうにも、そもそも身体は動かない。が、声が出るかは試していなかった。
ものは試しだ。やってみるか。そんな気持ちで口を開く、
「アタナハ、ダレデスカ」
(え……)
またもや感情無く息を呑む。声が出たからではない。
小鳥遊自身は、日本語で話しかけたつもりであった。だというのに、その口から発せられたのは全く異なる言語。
口から出る言葉が、勝手に翻訳されている。会話に問題はないが……普通なら驚愕と気味の悪さに襲われるだろう。もちろん、彼がそれを感じることは無い。また一つ理解できないことが増えただけにすぎない。
そして、少女が小鳥遊の発した言葉に反応する。
「なっ」
彼女も息を呑んでいた。小鳥遊とは違い、あからさまに驚き、動揺している。まるで、お化けを見たかのように表情を凍らせる。
沈黙がその場を支配した。
やがて、彼女の固まっていた表情がだんだんと溶かされ、しまいにはだらしなく頬をゆるませたふにゃふにゃの笑顔になり、
「……あなたは、誰ですか? ですって……うそ! すごい! ついにやったのね!」
異常な興奮と共に、喜びを言葉と身体で表現する。その目には涙が宿っていた。
「やったのね!」という声とともに、小鳥遊の視界から彼女は消えていた。彼からすれば、少女が何をやっているかは全くわからない。小刻みよく床を踏んでいる音から、小躍りしていることが推測できるだけだ。
「ついに起動に成功したわ! 魂を持つロボット! これで、私の研究成果が王様に認められる。お父様たちの耳にも入るに違いないわ!」
(……え? いまなんて言った。王様? いや、それよりも、ロボットってなんだ……?)
少女から発せられる言葉に逃せないものを見つけた小鳥遊は思わず口を開き、
「ロボット?」
と、声を漏らす。
するとまた、小鳥遊の目の前に少女の顔が来る。大粒の涙をいまも流している。よほど嬉しかったのだろう。涙ぐんだ声で――しかし、明るさと期待に満ちた声で、
「そう。キミはロボットよ。起動させた私が、生みの親になるのかな。……よし、これから私が、きみの母親として色々と教えてあげるからね」
と、にっこり笑いかけてくる少女。
(母親……だって?)
ドクンッと心臓が鼓動するような感覚。今までの異常な状況にも全く感情を動かすことの無かった小鳥遊の心がわずかに揺れ、その瞳に恐怖が宿る。身体が震える気がした。
実際は、指一本すら微動だにしていないが。
(何を言っているんだこの少女は。よりにもよって、母親だって? 冗談だよな。そもそも親になる年齢じゃないだろう。15,6歳だろうか? ……。落ち着け。大丈夫。もう克服したことだ。今は状況の整理をしないと)
初めて露見した感情を静かに納め、彼は情報を得るために話を続けることを選択する。
「ロボットッテ、ナンデスカ?」
「うん。君はロボット。識別番号Ω07。あー。そうか。そもそもロボットがわからないかな? ロボットっていうのは機械で作られた自律して行動する――」
「ソレハ、ワカリマス」
「え? ……そっか。ある程度の知識もデータとしてインプットしたから分かるのね」
「ワタシガ、ロボット? ジョウダンハ、ヤメテクダサイ。 ワタシハ、ニンゲンデス」
少女は人差し指をあごに当てながら首をかしげ、それからポンっと左手の手のひらを右の握りこぶしで叩きながら話を続けた。
「うん? ふむむむむ。……あっ。そうなのね。魂があるということは、自分を人間だと思い込むということ。予想外の事態だけど、研究のかいがありそうね」
目は爛々と輝き、新しいおもちゃを見つけた子供のような顔で小鳥遊に笑いかける。
(え? 何を言っているんだ? 私がロボット? 人間だと思い込んでいる? さっきの母親発言といい。おちょくっているのだろうか)
「ワタシハ、ニンゲンデス」
当然のことを確認するかのように、極めて落ち着いた口調で小鳥遊が主張する。それを聞いた少女は焦ったような、困ったような表情で、
「そう……思うのよね。そうね、自分の体を見てくれる? データと照らし合わせれば、君が人間かロボットかすぐにわかるでしょう?」
見てくれと言われても動けるはずがない。依然、小鳥遊の身体は指ひとつ動かすことが出来ない状況であることには変わりないのだから。
「カラダガウゴキマセン」
「ああ、そうか! ごめんね。念のため身体の制御回路を切っておいたんだった。今からつなぎなおすね」
そういって彼女は、ガチャガチャと工具を鳴らし、身体を動かすための作業を行う。
…………
しばらくのち、彼女が、
「これでどう? 身体、動くでしょ?」
と、自身満々に、ドヤッ、とでも吹き出しがでそうな顔をする。小鳥遊は疑問をもちながらも、少女の言葉に従って左腕を動かしてみる。
「アッ。……ウゴイタ。 ……エ?」
またまた感情無く息を呑む。彼の目の前にある左腕。彼が動かしたのだから、彼の腕であることは間違いない。
その腕は銀色の骨に、白と黒の繊維でできた筋肉がついていた。
あまりにも現実離れしすぎた状況。思わず、
「ウソデショウ……」
と、目に映るものが信じられなくなる。だが、それも一瞬。小鳥遊はすぐに身体を起こして、全身を確認してみることにした。
彼の意思どおりに動く。間違いない。彼の身体だ。
見慣れた部分は一つもない。間違いない。ロボットだ。
「ホントウニ、ロボットニ、ナッタノカ……」
「なった。というわけではないの。あなたはたったいま生まれたの。人間からロボットになったわけではなく、生まれつきロボットなのよ。」
「ウマレツキ……」
(どういうことだ?)
彼は自身の中で状況を整理し始めた。
会社帰りに倒れた。目が覚めたら、見慣れない場所にいた。
目の前には謎の言語を話す、白髪で青い瞳の猫耳少女。
たったいまロボットとして生まれたらしい。
これから導き出されるのは、おそらく……。
どうやら――異世界に転生したらしい。
ロボットとして。
(うそ……だろ)
立ちすくむ。視線は床をさまよう。
一瞬。
瞳に、うすいながらもハッキリとした不安が宿る。
(転生してまで、私は生かされるのか。死ぬことが許されないのか……。永遠に、この呪いが続くのか)
違う世界に来てまでも、前世の記憶に縛られる。これからも『呪い』という鎖から逃れられないことに絶望する。彼の視界が真っ黒に染まっていく。もはや、何も考えられない……。
そのとき、小鳥遊はブチっという音が聞いた。おそらくは、彼の中で張り詰めていたものが切れてしまったのだろう。
体中に気だるさを感じ、彼は、そのまま、気絶した。
…………
…………
「あ、目を覚ましたね。大丈夫? ええと、ごめんね。色々調整しようとしたら、つい取れちゃって」
と、舌をペロッと出しながら、はにかんだ笑顔で謝罪してくる。どうやら、気絶したわけではないらしい。
少女が、彼の身体となっている、ロボットの動力源を引っこ抜いたのだ。
考えれば当然である。ロボットが気絶するはずがない。
(状況はわかった。まだまだ不明なことは多々ある。しかし、私はこの世界で生きなければいけないのだろう。それが私に課せられた運命――呪いなのだ。ならば、やるしかない……か。
まずは、情報の整理だな。そもそも、この少女は誰なんだ。ロボットの製作者。つまり、私の身体を作ったのだろうが)
「アナタノ、ナマエハ、ナント、イイマスカ?」
「私? 私の名前はラピス。ラピス・ラズリーよ」
自身の名前に誇りを持つかのように、少し胸を張るラピス。「それとね」といって、言葉を続ける。
「君の名前も決めてあるの。オメガよ! 識別番号のΩ07からとったの。素敵でしょ」
「イヤ、ワタシハ……」
否定しかける。だが、彼の前世の名前がこの世界で通用しない可能性が十分にある。それに、自らの名前に執着するほどの想いを持ち合わせてはおらず、
「ナンデモアリマセン。ワタシノナマエハ、オメガ、デスネ」
あっさりと名前の変更を受け入れたオメガ。そのオメガに対し、ガッツポーズをとりながら、
「そう、オメガよ。これからよろしくね。二人で魔物をがんがん狩ってやろうね。」
と、少し鼻息を荒くしてこれからの目標を掲げるラピス。
「マモノ?」
(マモノって……魔物だろうか? やはりここは異世界なのだな……)
などとオメガが考えていると、ラピスがにんまりとした笑顔で、新しいおもちゃを与えた子供の反応を見るような目で、
「魔物の知識はインプットしたはずだよ?」
そう言われて、オメガは目を瞑り記憶を探ってみる。
……思い出せる。
知らないはずなのに、思い出せる。
彼の脳裏に(と言っても脳は無いが)ラピスが入力したデータが映し出される。
魔物とは――
人に対して明確な敵意を持ち、体内に魔核を有するもの。それが魔物。
魔物を統治するものとして魔王が存在する。地域毎に異なる魔王が統治する。
魔王が統治しない魔物もいる。ダンジョン魔物だ。ダンジョンでは、魔王の代わりにダンジョンマスターが、魔物を統治している。
敵意はあっても魔物が人の地域に侵攻してくる事はほとんどない。もちろん、人の活動領域に現れる魔物は存在するが、その数は多くない。
ただし、200年に1回。魔物が群れをなして侵攻してくる。これを『大災害』という。
それが起こるのは、この惑星ダスカロスに、衛星であるテヴォメノスが再接近する年のこと。このときに備えて、少しでも魔物の領域を減らそうと軍やハンターが活躍している。
――。
(ふう。一気に情報が頭に浮かんできた。くらくらするな。だが、便利だな、この機能。得たい知識をどんどん思い出す)
などとオメガが考えていると、期待した目でラピスが見つめていた。相手がびっくりするのをいまかいまかと待ち受けている子供のような目だ。
知らない知識を思い出すというのは確かに驚愕の体験だろう。驚きが態度に表れるのは自然なことであり、ラピスもそれを期待していた。しかし、残念ながら相手はオメガ。便利だとは思っても、驚くことはない。
ラピスの期待をよそに、オメガは淡々と、
「マモノニ、ツイテハ、ワカリマシタ。マモノヲ、コレカラ、トウバツニ、イクノデスカ?」
次の行動を確認する。粛々と効率よく話を進めようとしているのだ。
そんな態度のオメガに、ラピスは残念そうに顔を少し俯かせ、わずかに頬を膨らませた。だがそれも一瞬。すぐに顔をあげ、真剣な声で、
「今すぐに。という、わけじゃないけどね。まずは、王様にオメガを自慢、もといお披露目してから――」
ハッと何かに気づいたようにラピスが固まる。
じろじろとオメガを見る。上から下までじっくりと値踏みし、
「お披露目の前に外皮をつけて、その片言の言葉をなんとかしないとね。パーツもシステムも修復が完了しているから、後は取り付けてアップデートするだけ。今日はその作業をしましょう。」
やるべきことの優先順位を決定した。
「あっ。アポ取らないと。うまく取れれば明日にでもお披露目して、明後日から魔物討伐の訓練をしようね。」
訓練。
当然である。オメガは生まれたばかり。いくらロボットとはいえ、すぐに魔物と戦えるはずも無い。
しかも、ラピスは知らぬが、ロボットに入っている魂は格闘技や武術の経験など全く無い人間。訓練無しの実践など到底不可能である。
「クンレンデスネ。タシカニ、ドウヤッテ、タタカエバイイノカ、マッタクワカリマセンカラ。ヨロシクオネガイシマス」
(外皮をつけるってことは、見た目が人間みたいになるのだろうか。今の身体はザ・ロボットだからな。それにこの声もどうにかなるらしい。話しにくくて不便だからありがたいな)
「アポ取ってから、作業を開始するね。一度動力を切るよ。目が覚めたときにはカッコいい身体にしてあげるからね!」
「ワカリマシタ。オトナシクネルトシマショウ。オヤスミナサイ」
「おやすみなさい……だなんて。ロボットのセリフとは思えないわね」
くすっ。と柔らかな微笑がオメガに向けられる。
「おやすみ。オメガ。生まれてくれてありがとう。これから母親として頑張るからね」
(……また母親……か)
ラピスはこの身体の製作者なのだろう。だから、オメガの母親というのはある意味正しい。
それが事実だとしても、オメガがそれを簡単に受け入れることは無い。
オメガ(小鳥遊)にとって、母親は、ただ一人。
人生の指針を示し続けてくれた人。自分に呪いをかけた人。
それが、母親だ。
オメガの視界がぼやけてくる。ラピスが作業を開始して、オメガの機能が停止するようだ。
機能が停止している間、オメガは夢を見た。
転生前の夢。
彼が呪われた日の夢を。
本日のみ二話投稿。できれば二日に一話のペースで投稿していきます。