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Episode4

「レイド・クリスティン!! 死にやがれ!!」

 ブラックスカイで酒を楽しんでいたレイドは、またしてもマフィアから襲撃を受けていた。

「あ」

 横で美味しそうにパフェを頬張っていたライナの首根っこを掴み、マフィアの銃撃の盾に使う。

「痛い痛い痛い」

 身体の前面に銃撃を喰らいながら、かなり棒読みな悲鳴を上げるライナ。その訴えを完全に無視して、レイドはライナを盾にし続ける。

 やがて敵が弾切れを起こすと、レイドはライナを真横に放り投げる。当たり所が悪くて、ライナの首の骨が折れたが、全く気にしない。そのまま片手から放電して、全滅させた。

「おい、片付けろ」

「……わかった」

 レイドはカウンターに向き直って酒の飲み直しを始め、ライナは傷を再生させ、手で折れた首を元の位置に戻してから、死体の片付けを始める。ブラックスカイの裏手に大きな焼却炉があり、チェリーはそこをゴミ処理に使う。礼儀知らずな客の死体も、ここに放り込む。

「お前、ほんとひどいな」

「いくら何でも外道すぎるでしょ、あんた」

 これにはドリズもチェリーもドン引きだ。ここまでの外道行為をする傭兵が、この街に一体何人いるやら。

「あいつは俺の所有物だ。どう使おうと俺の勝手だろう? 俺が片付けるのが面倒だから、あいつに任せたんだ」

「……最低すぎだお前」

 罵倒するドリズ。レイドは気にする事なく、酒を飲んだ。

「終わった」

「よし」

 そうこうしている間に、死体を片付けて床を掃除したライナが戻ってきた。彼女も彼女で、また何食わぬ顔をしてパフェを頬張る。

「ライナちゃん。本当にごめんなさいね?」

「気にしてない。片付けは慣れてる。ムロズファミリーにいた時にいっぱいやらされたから」

 ライナはムロズファミリーにいた頃、人体実験をされるついでに雑用をやらされていた。床掃除に洗濯、ファミリーが始末した抗争相手の死体の処理もだ。だから、死体の捨て方に関しては手慣れたものである。

「……ライナちゃん。あなたウチの店に来ない?」

「大丈夫。レイドには、私が必要だから」

 ライナの置かれている状況を哀れんだチェリーが、彼女を自分の店の店員として引き抜こうとしたが、ライナはそれを断った。レイドはライナの言葉に反応し、彼女の顔を無言で見た。

「レイドがあなたを必要としてる?」

「だって、私を盾として使ってくれるのって、私が必要だからじゃない? もしそうじゃなかったら、別の物を盾に使うか、普通に避けてる」

 言われてみれば、確かにレイドなら銃弾くらい避けられる。肉盾を使うより、そっちの方が効率的なはずだ。

「……でも、なんか違うと思うなぁ~……」

「まぁいいじゃねぇか。この子が満足してるならさ」

 チェリーは何だか納得出来なかったが、ドリズの言う通り、ライナがそれでいいと自分で決めているなら、無理に引き離す必要はないだろう。


 と、


「レイド・クリスティン!!」

 今度は青年が入ってきた。四人はまたレイドを殺しに来た刺客かと思っていたが、この青年は銃を持っていない。ならば能力者かと思ったが、何もしてくる気配がない。

 他の三人が警戒する中、レイドだけが、また酒を飲み始めた。

「おい、お前にお客さんだぜ」

 ドリズに促されて、レイドはようやく酒を飲むのをやめる。

「何か用か」

「……ああ」

「ならさっさとこっちに来て言え。外気が入ってきて、せっかくの酒の匂いが消える」

 レイドはウザそうに、青年に対して言う。だが、青年はバーのドアを閉めず、レイドに言った。

「レイド・クリスティン!! お前に決闘を申し込む!!」

「「はぁ!?」」

 これにはチェリーも、ドリズも驚いた。ライナも、目を見開いて驚いている。

「……お前、気は確かか?」

「もちろんだ。俺と戦ってくれ」

 青年の言葉を聞いて、レイドは考えた。数秒考えて、答えを返した。

「いいだろう。ただし、簡単には勝てると思うなよ」

 青年の挑戦を受ける事にしたレイドは、飲んだ酒の代金をチェリーに渡し、店から出て行った。

「……レイド、ああいう事を受ける人だったんだ」

 ライナにとって、かなり意外な光景だった。彼女としては、青年の挑戦を断り、青年がなおも食い下がり、とうとう怒ったレイドが青年を殺してしまうと思っていたのだが。

「俺も、あいつについてはわからねぇ事が多いんだよなぁ……」

 ドリズもそれなりに長くレイドと傭兵をやっているが、それでもレイドの趣味等、完璧には把握していない。

 というのも、過去について触れようとすると、レイドが極端に嫌がるからだ。しつこく何度も聞こうとした結果、殺され掛けた事もある。

「レイド・クリスティン。戸籍や家族等、一切の素性が不明の謎の男」

 チェリーがタブレットを出して、二人に見せる。彼女は情報収集も得意で、情報屋として傭兵に提供する事もある。そんな彼女ですら、レイドについて詳しい情報は、何も掴んでいない。

「ここまで何もないと、まるで突然この世界に現れたみたいに思えるわ」

「おいおい……いくら能力者が存在する超科学世紀のアナザーテラとはいえ、別世界からの来訪者なんて流石にあり得ないぜ? SF映画の見過ぎだ」

 マルチバース、パラレルワールド、四次元。別世界があるという理論は多数存在するが、いずれも机上の空論の域を出ず、実証はされていない。マルチバースだけは、宇宙航行が出来るようになった時点で、かなり信憑性を帯びてきているのだが、やはり実証はされていないのだ。

 だから、別世界の存在はこの時代においても、SF扱いされている。しかし、レイドは本当に、過去どこにいたのか、どのような生き方をしていたのか、一切わからない。それこそ、別世界からやって来たとでも言わない限り、説明がつかないのだ。

「ライナちゃん。レイドのやつ、何か言ってなかった?」

 チェリーはライナに訊く。もしかしたら、ライナ相手には何か、口を滑らせているかもしれない。

「……わからない。でも……」

「でも?」

 ライナにも何か言ってはいないようなのだが、気付いた事があるらしい。チェリーはさらに追求した。

「レイド、いつもイライラしてる。どうにもならない何かがあって、それにずっとイライラしてるみたいな、そんな感じがする」

「……やっぱりあなたも、そう感じたのね」

 それは、チェリーもドリズも、既に知っている情報だった。

 レイドはいつも余裕そうな顔をしているが、彼と少しばかり長く過ごしていればわかる。その顔の裏で、彼はいつも何かに対して苛立っているのだ。

「あいつが傭兵になった理由は、金の入りがいいからって聞いたが、実際には違う。あいつは人殺しを、八つ当たりに利用してるんだ」

 名言はしていない。が、戦っている時の顔を見ればわかる。戦う相手を斬り殺す時、あるいは電撃で消し炭に変える時、レイドはまるで悪魔が浮かべるような顔をしているのだ。

 ドリズは、あの顔を知っている。既に故人となっているが、彼の仕事の同僚の一人に、殺しが大好きな殺人狂がいた。その男が言っていたのだ。ストレスを発散したい時は、ギルドで出来る限り派手に暴れられる仕事をもらって、思い切り殺すのだと。

 そして、その男と一緒に仕事した時、レイドと同じような顔をしていたのだ。結局その男は、身の程をわきまえずに大掛かりな仕事に挑み続けた為、傭兵になってから僅か二年で死んでしまった。いずれレイドも、彼と同じ死に方をするのではないかと、ドリズは心配している。

「私、ちょっと見てくる。チェリーさん、パフェありがとう」

「毎度。気を付けてね」

「うん」

 ドリズの話を聞いて心配になったチェリーは、パフェを食べた料金を払い、急いでレイドを追い掛けた。

「……大丈夫か?」

「死にはしないでしょ」

 心配するドリズに、チェリーはこれ以上ないくらい説得力のある言葉を掛けた。



 ☆



 一方、レイドと青年は、人気のない公園にいた。シャインシティは危険な街なので、ホームレスすらいない。

「俺はディック。半年前に傭兵になった者だ」

「ほう。で、なぜ俺に決闘を挑んだ?」

 青年は名乗ったが、彼の名前にはさして興味などなく、自分に決闘を挑んだ理由を、単刀直入に訊いた。

「理由は簡単だ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 気合いを入れて吼えるディック。すると、レイドはディックの中からサイキックエナジーが湧き上がってくるのを感じた。

(能力者か。いや、これは……)

 ただの能力者ではない。それはすぐにわかった。レイドだからわかった。

 ディックが全身に、青い雷を纏ったのだ。

「俺はお前と同じ、電磁力使いだ。あとはわかるだろう!?」

 ディックは問い掛ける。レイドがディック雷を見て、懐かしそうに目を細めたのには気付かなかったらしい。

「俺を倒して、電磁力使いとしての実力の高さを証明する、か。いいだろう、来い」

 レイドは全てを理解し、この新参者の挑戦を受ける事にした。

「まずは小手調べだ!!」

 そう言って、ディックは右手から、電撃を飛ばす。レイドは身じろぎすらする事なく、真正面からこれを受けた。

 結果は、無傷。

「流石だな。ならこいつはどうだ!!」

 今度は左手から、また電撃を飛ばす。先程と同じ攻撃に見えるが、違うのは、即座に右手で再び電撃を飛ばした事だ。

 二連続で電撃を受けたが、結果は、またしても無傷。数こそ多いものの、威力は変わらないのだから当然だ。

 レイドは何も言わず、無表情でディックを眺めている。

「……はぁっ!!」

 それを見て腹を立てたディックは、また連続で電撃を飛ばした。

 右から、左から、右足から、左足から、はたまた両手から、次々と電撃を飛ばす。

 だが、いくら電撃を受けようとも、レイドは無傷。揺らぎすらしない。

「同系統の能力者と対峙した時、基本的にはダメージは入らない。だが、出力が相手を上回れば、ダメージが入る。お前はそれを狙っているようだな。で、力の差は理解出来たか?」

「くっ!」

 ディックがやろうとしていた事を言い当てるレイド。

「まだまだ!!」

 しかし、ディックは諦めない。力を解放し、電磁力を発生させ、近くにあったジャングルジムに干渉して持ち上げる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 さらに電磁力を操作して、目の前にジャングルジムを持ってくると、内側に向かって電磁力を強める。すると、強烈な電磁力に耐えられなくなったジャングルジムが、折れ曲がり、ひしゃげ、収縮し出した。

「はぁっ!!」

 やがて出来上がった巨大な鉄の塊を、再び電磁力を用いて高速でレイドに飛ばす。

 レイドは、先程のように棒立ちのまま何もしないという事はしなかった。棒立ちのまま、電磁力を発生させ、鉄塊を真正面から受け止めた。

「くぅぅぅぅぅ……!!」

 ディックは電磁力を強め続け、鉄塊を押し込もうとする。

「また力比べか?」

 しかし、それに合わせてレイドも電磁力を強め、全く押し込めていない。

「懲りん奴だ」

 レイドは一気に電磁力を強めて、鉄塊を押し返した。

「うわっ!!」

 自分が飛ばした時より速く、目の前で寸止めされた事で、ようやく押し返された事に気付き、尻餅をつくディック。

「さっきからお前、自分の力に任せたゴリ押ししかしないじゃないか。それで俺に勝てるなどと、よくもまぁ思ったものだ」

 そう言いながら、レイドは電磁力で鉄塊を解体する。折れ曲がったパイプは伸ばし、切れたパイプは電熱で溶接し、ジャングルジムの形に戻して、元あった所に置く。力だけでなく、精密な制御まで完璧だった。

「その力もこの程度。傭兵稼業なんてさっさと廃業して、発電所でも働くんだな。お前みたいな雑魚は、間違いなく早死にする」

 ディックの実力を酷評して、レイドは踵を返し、ブラックスカイに帰っていく。面白い展開を期待して受けてみたが、期待外れもいいところだった。気分が悪い。帰って酒の飲み直しだと言うレイド。

 だがその時、ディックがまたレイドに、電撃をぶつけた。

「……まだ何か用か?」

 当然無傷。だが、気を引くには充分で、レイドは立ち止まって振り返る。

「行かせないぞ。俺は今夜、お前を殺しに来たんだ!!」

 ディックが指を鳴らすと、茂みや物陰から、武装したチャラい感じの若者達が現れる。

「こうなったら、俺達で協力してお前を殺してやる。お前を殺せば、俺達の力は証明されるんだ!」

 決闘の勝ち負けに関係なく、ディックはレイドを殺すつもりだった。決闘に勝てばそのまま殺す気でいたし、負ければ待機させていた仲間達と袋叩きにする。そういうつもりで、レイドを呼び出したのだ。

「そんな事だろうと思っていた。だがいいのか? ここから先は、本当に命の取り合いになるぞ」

 しかし、レイドにとっては想定内だった。自分の力を過信する新参者は、負けを決して認めない。自分の勝ちを証明する為なら、どんな事でもする。例えそれが、自分の力と関係ない方法だったとしても。

 だからレイドは訊いた。本当にこれでいいのかと。ただ決闘をするだけなら、命を取るつもりはなかった。だが本気で殺しに来るというのなら、こちらも殺しに掛かる。生かしておいたところでメリットなどないし、むしろデメリットしかない。そういう相手として認識する。本当にそう認識していいのかと、確認した。

「当たり前だろ? あんたも傭兵なら、殺し合いに躊躇ったりするなよ」

 自信たっぷりに言うディック。能力勝負では敵わなかったが、これだけの人数で挑めば勝てると、本気で思っているのだろう。

「そうだな」

 愚問だったと自嘲するレイド。この手の馬鹿は、何を言っても聞きはしない。ここは無法者の街、シャインシティだと思い出した。

「じゃあやるか」

 レイドは剣を抜く。それを合図に、ディックの仲間のチンピラの一人が、RPGを発射した。それを真上に跳躍して、回避するレイド。

 その時だった。

「レイド!」

 タイミング悪く、レイドを探しにライナが来たのだ。しかも、ちょうどRPGの射線上に。

「あ」

 もちろん、弾頭はライナの胴体に着弾し、爆発した。気の抜けたような声を上げて、爆発に巻き込まれるライナ。

「あ」

 レイドも思わず呆気に取られる。

「あなたに首ったけ~」

 遅れて、全身をバラバラにされて首だけになったライナが、何か言いながら飛んでいった。

「……すまん」

 着地してから、なぜか謝るレイド。

「お前の仇は俺が取る!」

 そして、ライナに攻撃した事で動揺しているディック達に、斬り掛かっていった。

「死んでないんだけどね」

 未だに首だけのライナが呟いた。

 もちろんレイドは知っている。仇を取ると言ったのは、気分だ。

「死ね!」

 チンピラがマシンガンを撃ってくる。レイドはそれをかわして、チンピラを斬った。

「これでどうだ!!」

 と、レイドはいつの間にか包囲されていた。多数のチンピラが、一斉に発砲してくる。

「……」

 レイドは全く慌てる事なく、電磁シールドを展開、弾丸を防ぐ。しかし、防がれた弾丸は電圧で蒸発する事も、弾かれて地面に落ちる事もなく、空中で止まっている。

 おかしいと気付き始めたチンピラ達は発砲をやめるが、もう遅い。

「フッ……」

 受けた弾丸を電磁力で空中に貼り付けていたレイドは、電磁力の向きをチンピラ達へと変更し、一斉に跳ね返した。

「うわあああああ!!」「があああああ!!」「ぐわあああああ!!」

 跳ね返された弾丸をその身で受けて、倒れるチンピラ達。もう残っているのは、ディックだけだ。

「こうなったら、俺の全力を見せてやる!!」

 さっき完膚なきまでに力の差を見せつけられたディックだったが、どうやらまだ全力を出したわけではなかったようだ。

 自分の中のサイキックエナジーを全開にし、そしてそのエナジー全てを、雷へと変換する。生み出した電気の量は、原子炉二基分にも相当するという、莫大なエネルギーだ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 その雷で、頭上に巨大な雷球を作り、レイドに向かって投げつける。

「……ふっ!」

 対するレイドは、剣を掲げて少し気合いを入れた。

 たったそれだけの事で、レイドの頭上に、ディックの雷球の十数倍もの大きさの、紫の雷球が出現した。

「なっ!?」

 ディックの雷球はそのままレイドの雷球に激突したが、ほんの少しも散らす事が出来ず、ディックの雷球だけが一方的にかき消された。

 眩いばかりの雷光が周囲を照らし、夜のシャインシティを昼間に引き戻した。これだけの電力の雷球を、たった一呼吸で作り出したレイドの力は、もはや怪物と形容する他なかった。

「散々ぶつけてくれたな。これはお返しだ」

 そう言ってレイドは、掲げていた剣を下ろす。それに合わせて、雷球は飛来し、ディックに命中。炭に変えた。

 レイドが電撃を無傷で受けていた事からわかる通り、電磁力使いは電撃に対してかなりの耐性がある。無論ディックにもそれはあるが、その耐性を完全に無視した。理由は、単純な力の差。力さえあれば、耐性に関係なくダメージを与えられる。

「こんなものか」

 炭となったディックに、剣で追い打ちを掛ける。剣は苦も無くディックの首をはね飛ばし、残った身体は完全に崩れた。

「レイド」

 そこへ、再生を終えて元通りの姿になったライナが戻ってくる。それから周囲を見回して、ライナは問い掛けた。

「みんな殺しちゃったの?」

 雷球が消えて、街の風景は夜に戻ったが、周りは見える。そこら中に死体が転がっていて、それはもうひどい有様だった。

「誰か一人でも生きているように見えるか?」

 全員死んでいる。そのつもりでやった。だが、これは彼らが自分で選んだ末路なのだ。

 と、ライナが目を閉じた。次に、レイドはライナのサイキックエナジーを感じる。

「おい、何をしている?」

 レイドの問い掛けに、ライナは答えない。

 やがて、転がっている無数の死体が光り出し、映像を早回しに逆再生するかのように、傷が塞がり始めたのだ。炭になって崩れていたディックの身体も、ひとりでに組み上がり、元の色に戻る。

 ものの数秒で、さっきレイドが殺したはずの者達は、全員生き返った。

「驚いたな……本当に死者蘇生が出来るのか」

「だからそう言った。といっても、私の力で生き返らせられるのは、死んでから二十四時間以内の死体だけだけど」

 ようやく答えるライナ。レイドとしては半信半疑だったが、彼女は本当に、死んだ者を蘇らせる力を持っていた。制約があるとはいえ、凄まじい力だ。

「こ、これは……?」「俺達、生き返ったのか!?」

 困惑するディックとチンピラ達。そんな彼らに向かって、レイドは言った。

「お前達を生き返らせたのはこの女だ。よかったな、生き返れて。また俺に殺される前に消えた方がいいぞ」

 それを聞いた瞬間に、チンピラ達は蜘蛛の子を散らすように、大慌てで逃げ出した。死んでから生き返るという、本来なら絶対にあり得ない体験をしたのだ。二度と再び、死を体験したいなどとは思わないだろう。

「これで終わったと思うなよ!! この街にいる奴は、どれだけ強くても必ず破滅する!! お前も、例外なくな!!」

 最後にディックが、捨て台詞を吐いて逃亡した。

 負け惜しみのように聞こえるが、その言葉はある意味ではこの街の真理だ。最上級ランクの傭兵や、それに近い者達も、大勢消えていった。この街に生きる限り、破滅の可能性は常に付きまとうのだ。

「……破滅ならもうした」

 レイドは、ディックが逃げていった方角を見ながら呟いた。

「そして今も俺は、地獄を見続けている」

「えっ?」

 ライナはレイドを見た。今彼が、自分はもう破滅したといったような気がするのだが、どういう意味だろうか。気になったライナは、レイドに訊いた。

「破滅したってどういう意味?」

「お前が知る必要はない。知ったところで、どうにもならん。俺だけが知っていればいい事だ。それより、なぜ奴らを生き返らせるなんて面倒な真似をした?」

 レイドは質問に答えず、逆にライナに訊いた。

「命まで取る事はないって思ったから……」

「奴ら、間違いなくまた俺の命を取りに来るぞ。お前は死なないから構わないだろうが、俺が死んだらどうするつもりだ?」

「……ごめんなさい」

 ライナは謝る。そこまで考えていなかった。彼女と違って、レイドは年も取るし、死にもする。少しでも自分が死ぬ危険を減らしたいレイドとしては、余計な真似だったのだ。

「でもレイドが死んだら、私が絶対に生き返らせるから……」

 それなら、責任を取ろう。ライナはそう思った。自分のせいでレイドが死んだら、責任を取って自分が生き返らせる。そう、ライナは約束した。

「……馬鹿馬鹿しい。ブラックスカイに戻るぞ。今度こそ酒の飲み直しだ」

「うん」

 レイドは一応機嫌を直してくれたようで、ライナを連れてブラックスカイに戻る。

(レイド・クリスティン。不思議な人)

 なぜかライナの心は、レイドに惹かれる。謎に包まれた、不思議な男。ライナは彼の事を、もっともっと知りたいと思った。




 ☆





 公園から離れた場所。

 そこに、死体の山が出来ていた。積み上がっているのは、レイドを襲撃した者達の屍。

「どこにいるのだ。命のオリジンソウルを持つ者よ」

 死体の山を見上げながら、黒衣の男は呟いた。

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