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Episode2

 地球の資源は、度重なる採掘や浪費によって枯渇しかけていた。

 新たな化石燃料や資源が、これ以上望めないと思われた時、人類はある方法を思い付く。

 ここにないなら、別の場所にある物を使えばいい。

 そうして人類は、地球に匹敵する環境を持つ惑星を探して、宇宙に大量の無人探査船を飛ばした。

 それから十年後、地球の資源がちょうど尽きた時、人類は地球と全く同じ環境を持つ惑星を見つけ、これにアナザーテラと名前を付けて移住した。

 そこから八十年かけて、人類はかつてと同じ生活を取り戻したのだが、少しずつ、ここが地球と似ているようで、実は全く違う場所なのだという事を理解する事になった。

 特別な力を持つ人間、能力者が生まれるようになったのだ。以前はこんな事はなかった。このアナザーテラにある何かが、人類の遺伝子に影響を与え、このような存在を生み出したのだ。そうとしか考えられなかった。

 最初はほんの十人程度しかいなかった能力者達だったが、一年経つごとに増え始め、その数が千人を越えたところで、問題が起きた。

 大きな力を得た者達による、犯罪行為の頻発である。

 超能力というものの認識について消極的だった政府や公的機関は、彼らへの対応が遅れ、世界各地で大きな被害を出してしまった。



 このシャインシティは、能力者達が数十人集まって、まだ超能力への対処が万全ではない、警察などの治安維持機関を殲滅したという、通称『サイキックインパクト事件』が引き起こされた場所である。

 その後、しばらくの間シャインシティは、能力者達によって支配され、超能力を持たないマフィアや、犯罪組織までがどさくさ紛れに入り込むなど、治安は大きく乱れた。

 現在は公的機関に協力的な能力者の加入や、対能力者用の装備も多数配備され、治安もある程度まで回復したが、それでもこの街を奪い返すまでには至っておらず、また回復したといっても、昼間の大通りでおおっぴらに犯罪者が暴れなくなった、というくらいだ。夜になれば、またならず者達が幅を利かせ始める。

 対能力者用の装備は今もなお、研究・開発・量産が高速で進められており、警察と能力者は毎日、対立を続けていた。




 ☆




 そんな、力を持たない者には地獄としか言えない街だが、力を持つ者にとってはとても気楽な街である。

 何せ、力さえあれば、大抵のものは手に入るのだ。金も、女も、地位も、豊かな生活も、住みやすい家も。そうなるように、最初にこの街を支配した能力者が、傭兵の制度を制定した。これを政府に認めさせる事で、身を引いたのだ。対立しているといっても、力の差は歴然だった。

 ここは、傭兵達が仕事で得た金を使って酒を楽しむ、バー『ブラックスカイ』。小さなバーだが、酒の質は良く、隠れ家的な店として、一部の者には人気だ。

「おっすチェリー」

「いらっしゃい、ドリズ」

 今日もまた、来店者があった。傭兵の男、ドリズ・ドリフター。彼を迎えたのは、この店をたった一人で経営する女性、チェリシュ・マクベリオンだ。

「一杯頼むわ」

「いつものやつね」

 ドリズはこの店の常連の一人で、いつも純度の高いウォッカを、水割りで飲んでいる。チェリシュもドリズとは馴染みであり、彼からはチェリーと呼ばれていた。

「あんたねぇ、昼間っから飲んでていいの?」

 今の時間帯は真昼。傭兵とはいえ、昼間から酒を楽しむ者は少なく、この店でそんな事をするのはドリズぐらいのものだ。今日も、昼間の客はドリズだけである。

「いつもの事だろ? それに今夜はでかい仕事があるから、今飲みたい気分なんだ。ちゃんと代金は払ってるんだから、いいだろ?」

「……まぁねぇ……」

 チェリーとしては、金さえ払ってくれれば何も問題はない。あと店の中で面倒を起こしてくれなければ。

「邪魔するぞ」

 そこへ、レイドが入店した。彼もまた、この店の常連だ。

 ただ、入店してきたのは、レイドだけではなかった。

「こんにちは」

 ライナも一緒だ。あの後、ライナはちゃんとした服に着替えている。紫のブレザーにミニスカ。白のニーハイソックスに黒のストラップシューズという、どこかのお嬢様のような出で立ちだ。二人はドリズの隣に座った。

「おい、レイドが女を連れてきたぞ! 雨でも降るんじゃねぇか!?」

「雷なら落としてやってもいいぞ」

 案の定、ライナの事を指摘されて、レイドは不機嫌になった。

 いや、この状況で指摘されないのは逆におかしいので、ある程度覚悟はしていたのだが、やはり実際に指摘されると気分が悪い。

「ドリズの冗談はさておいて、どうしたのその子?」

「私はライナ。ライナ・メルクトール」

 チェリーに訊かれて、レイドは今までの経緯を簡単に話した。

「なるほど、それは災難だったわね」

 この災難という言葉は、二人に向けて掛けた言葉だ。誘拐されたライナも災難だし、助け出した挙げ句引き取らなければならなくなったレイドも災難である。

「どんな傷を負っても再生出来るし、死んでも生き返れる能力か。便利だな。もしかして処女も治ったりして」

「バカ」

 突然下ネタを吐いたドリズに、チェリーは少し怒って罵倒した。

「治るよ。ちなみに七回貫通された」

「……それは知りたくなかった情報だな……」

 淡々と答えるライナ。しかし、答えを聞いた側としてはとても楽しい気分になれず、ドリズの気分が悪くなった。いや、ライナを抜いた三人全員の気分が悪くなった。

 事実、ライナはムロズファミリーにいる間、ありとあらゆる人体実験の数々を受けた。処女も治せるとわかってからは、性的な暴行も受けていたのである。

「お前のせいだぞドリズ」

「……ごめんな、嬢ちゃん」

 聞きたくなかった話を聞かされてレイドは怒り、流石に謝るドリズ。

「ううん。大丈夫」

「けどせっかく助かったんだから、もうこの街から出た方がいいぞ? 今はまだ昼間だからいいが、夜になったらこの街に安全な場所はなくなる」

「ドリズ。説得ならもうしたぞ」

 その通り。この街がどれだけ危険な場所かは、とっくの昔に説明した。帰る所はないかもしれないが、それでもこのシャインシティに留まり続けるよりはずっといいと、説得もした。

「レイドは私の恩人。レイドが残るなら、私も残る」

 しかし、この一点張りで、譲ろうとしない。

「ほう、恩義は通すってわけかい。なかなか献身的で健気な子なんじゃねーの?」

「健気かどうかはわからないけど、献身的って昔よく言われた。私、この力で怪我した人や病気になった人を、たくさん治してたから」

 ライナがこの力に気付いたのは、家族全員でドライブに出掛けた時の事だ。

 帰る途中で、バスの横転事故に巻き込まれ、激痛で気を失った。

 目が覚めてみれば、辺りには自分と同じように事故に巻き込まれ、死傷者が大勢出ていたのだ。それはもう、地獄絵図としか呼べない光景だった。

 ライナは治癒能力を持っていたので、急いで負傷者達を助けようと、能力を展開した。この頃のライナの力はまだ弱く、能力の有効射程も短かった。それでも、何かせずにはいられなかったのだ。

 だが彼女の力は、なぜかとんでもなく強化されており、負傷者達は全員回復。明らかに死んでいた人間まで、復活した。

 巻き込まれたはずなのに、自分に手傷が全くないと気付いたのは、治療が終わった後だった。

 それから、ライナは自分の力を遺憾なく使い、怪我人や病人を治療して回った。なぜ突然自分の力が強化されたのか、理由は不明だが、たくさんの人から感謝され、その人達の笑顔を見ると、そんな疑問は吹き飛び、ライナも笑顔になった。

 だが、ある日の事。ライナの能力を知ったムロズファミリーが押しかけてきて、ライナの両親に、彼女を買うと言ってきたのだ。

 当然断った。自分達の娘は、金などで売れないと。いや、どんな事をしても渡せないと。ライナ自身も拒否した。

 しかし相手はマフィアだ。欲しいものは力で手に入れるのが流儀であり、信条。ライナの両親は殺され、ライナは無理矢理養女にされてしまった。

 自分が何をしても死なないとわかったのは、ムロズファミリーで、非人道的な実験の数々を施されてからだった。

「お父さんとお母さんも生き返らせたかったけど、頭を殴られて気絶して、気付いたらムロズファミリーにいて……」

「……嬢ちゃん。やっぱり、今すぐこの街から出た方がいい」

 ライナの生い立ちを聞いたドリズは、なおさらシャインシティから出る事を勧めた。

「どうして? 私、ここにいたい」

「嬢ちゃんの能力は便利だ。それに見た目もいいから、また狙われる」

 こんな少女がいたら、どんな組織も、喉から手が出るほど欲しがるだろう。能力を抜きにしても、その見目麗しさで、高値で売れる。ここはそういう場所だ。

「大丈夫。レイドが守ってくれるから」

 ライナは笑顔を見せた。

 それを見て、ドリズとチェリーは、ゆっくりとレイドを見た。この男が守る? そんな事は、とても信じられなかったからである。

「まぁ、ここまで俺を頼ってくれるんだ。守ってやるさ。それに、いろいろと使い道はある。例えば――」

 レイドがライナの使い道について、話そうとした時、


「レイド・クリスティン!! 死ね!!」


 店のドアが乱暴に蹴破られ、マシンガンを持った男が二人、突入してきた。

「うっ?」

 持ち前の反射神経でいち早く反応したレイドが、片手でライナの服の襟首を掴み、男と自分の間に割り込ませる。

 男達は構う事なく、マシンガンを発砲。レイドを狙った弾は、全てライナの顔面と胸と腹に命中した。

 弾切れを起こしたのを見計らって、レイドはライナを放す。蜂の巣にされたライナは崩れ落ち、顔面から床に激突する。と同時に、レイドはライナをいましがた掴んでいた片手から、放電。男達を消し炭にした。

「とまぁこんな具合に、盾に使える」

「「守ってねぇじゃん!!」」

 いたいけな女の子、守るどころか弾よけに使った。あまりの外道的行いに、ドリズとチェリーは本気で怒りかけた。

「ひどいなぁ……」

 と、ライナが言った。今彼女は、顔面が潰れたトマト状態になっているが、能力のおかげで再生しつつある。傷は塞がり、流れた血も身体に戻っていっていた。

「マジで生きてる!? つーかグロいグロい!!」

 まだ再生が完全に終わっていない状態でこちらを向いて話すものだから、ドリズはモザイク修正待ったなしのグロ画像を見せられてしまい、状況を察したライナは、大人しく再生が終わるまで床に伏せている事にした。

「この……!!」

 どうやら、刺客は先程の二人だけではなかったようで、もう二人乗り込んできた。

 だが、今度はレイドより先に、ドリズが拳銃を抜いて迎撃した。レイドの剣戟には及ばないが、彼の銃撃も充分速く、何もさせずに二人を撃破する。

「ここで騒ぐんじゃねぇよ。せっかくの酒が不味くなるだろうが。そんなに騒ぎたいってんなら、あの世で好きなだけ盛ってろ」

 そう言って、ドリズはウィスキーを飲み干した。

「悪かったな。今の連中は恐らくムロズファミリーの残党だ」

 レイドはドリズの気分を損ねてしまった事に謝る。

「親父が死んだのはお前のせいだって? とんだ逆恨みだな。殺したのは別の誰かだろうに」

「いや、たぶん俺が依頼報酬に勝手にいろいろ持ち出したからだ」

「……そりゃお前が悪い。今からでも返してこいよ。取りすぎた分だけでも」

「断る。きっちり報酬を払わない方が悪いし、迷惑料や換金手数料込みだ。取りすぎって事はない」

「お前なぁ……どうしてそんなに金にがめついんだよ?」

 ドリズは呆れた。レイドとの付き合いは昨日今日から始まったわけではないが、その守銭奴っぷりにはいつも呆れるばかりだ。

「この世界で金より信用出来る物はない。表でも、裏でもな。お前だって傭兵だろ? 何をいい子ぶってる」

 傭兵は、他人を殺して引き換えに金をもらう仕事だ。必ずしも殺すとは限らないが、それでも一度の仕事で死人が出る可能性は高い。

「どうせやるなら、金は多く集めた方がいい。事実、金はいくらあっても困らない」

「そりゃそうだけどよ……」

 レイドが言っている事は、傭兵の考え方としては、正しい。だが、ドリズは何か、釈然としないものを感じていた。

「びっくりした。ライナちゃん、本当に死なないのね」

 チェリーはといえば、襲撃よりもライナの不死性に驚いている。あれだけの弾丸の嵐を受ければ、常人は即死間違いなしだ。しかしライナは平然と起き上がり、受けたダメージを全て回復している。

「……よかった。破れてない」

 ライナは服の心配をしていた。彼女が着ている服は、今朝、レイドにねだって買ったものだ。ムロズファミリーが用意した服を、長く着ていたくないらしい。以来、いたく気に入っている。

 だから破損するととても困るのだが、彼女の服は全て、治安が悪いこの街で生きる為に、破れにくい素材で作られている。対能力者用の素材ではあるが、通常の物理攻撃に対しても、高い防御力を持つ。

「ひどいよレイド。いくら私が死なないからって、盾に使うなんて」

「死なないからいいだろう? それ以外に俺の役に立てる事なんて、お前には出来ないんだからな」

「……立てるもん」

「……何?」

 ライナは無表情で膨れながら、レイドに反論した。

「実験がない時は雑用をやらされてたから、ご飯作ったり掃除したりとか出来るもん」

「そうか。で、それがどうかしたか? それぐらいなら俺にも――」

「嘘。インスタント食品しかなかった。ゴミ箱にもその殻しかなかった。今朝捨てた」

 ライナの反論に、レイドは言葉を失う。代わりに、ドリズが大笑いした。

「こりゃ一本取られたな! レイド、お前の負けだ」

「ちっ……」

 舌打ちするレイド。と、今度はチェリーが呆れた。

「そんな事だろうと思ってたわ。こんな奴と付き合ってたら可哀想だから、これ、私からのおまけよ」

 チェリーはいつ作っていたのか、ストロベリーパフェをライナに出した。

「わあ……!」

 目を輝かせるライナ。パフェなど数年食べていなかったし、やはりこういうところは年頃の少女だ。

「さて、ライナちゃんがパフェを食べてる間に、ろくでなしのレイド君には、働いてもらおうかしら。あそこに転がってる死体を片付けてきて」

「何で俺が……」

「あんたを狙ってきた連中なんだから当然でしょ? 自業自得よ。ああそれと、アレもよろしくね」

「……ちっ」

「俺も手伝ってやるよ。一応死体の量産に協力しちまったわけだからな」

 レイドは仕方なく、ムロズファミリーの残党の死体を片付けに行く。ドリズも協力し、十数分後、二人は戻ってきた。

「終わったぞ。アレもやっておいた」

「はいありがとう」

「……チェリーさん。アレって何?」

 さっきからレイドとチェリーがアレアレ言っているので、気になったライナは尋ねた。

「ああ、ウチの裏手に納屋があってね、そこにバッテリーがあるわけなんだけど、レイドに充電してもらったのよ。ウチって何かと電気使うから、節電しようと思ってね」

 なるほど、とライナは思った。レイドは電気人間。サイキックエナジーが続く限り、いくらでも発電出来る。それを利用するのは、とてもいい手だ。

「情けない役回りだがな」

 対するレイドは、あまり機嫌が良さそうではない。

「いいじゃない。代わりにお代はタダにしてあげてるんだからさ」

 どうやらレイドは、チェリーの節電に協力する代わりに、ここでタダ酒を飲んでいるようだ。

「あ。そういえば……」

 ドリズは何か思い付き、ライナに訊く。

「ライナ。お前、銃を使った事は?」

「ない」

「だろうな。だが、それはまずい。この街で生きるつもりなら、最低限自衛の技術は身に付けておかないとな」

「それには私も賛成ね。これ、特別サービスよ。持っていきなさい」

 ドリズの言葉に賛同したチェリーは、カウンターの下からグロッグ17を一丁とマガジンを三つ取り出し、ライナに渡した。

「いいの?」

「いいのいいの。それと、私は武器の開発や整備もやってるから、何か作って欲しい物があったら相談しなさい。お代は頂くけどね」

「こいつの腕は確かだ」

 レイドがチェリーの技術力を評価する。何せ、彼がライナに渡した電磁シールド発生装置を作ったのも、チェリーなのだ。

「その銃もちょっと改造しててね。能力者にも通じる特別製だから、護身用としては申し分ないわよ」

「ありがとう」

 ライナは遠慮なく、グロッグを受け取った。

「でも撃った事ないんだよな……そうだ。今夜俺、仕事があるんだけどよ、一緒に行かねぇか?」

「えっ?」

 ドリズはライナを、自分の仕事に誘った。

「俺の仕事は、戦い方も知らないお嬢ちゃんにはかなり厳しいが、幸いにもお前さんは能力のおかげで、死を恐れる必要がない。一緒にやれば、上達も早いってもんだ」

「そんな事をして大丈夫なのか? 今夜が仕事なんだろう?」

「大丈夫大丈夫。俺はギルドの上役どもに顔がきくからな」

 ドリズは能力者ではない。だが、レイドと同じくAランクの傭兵である。ランクが高い傭兵は、ギルド側から重要な依頼をされる事もある。彼はそういった依頼に積極的に参加し、ギルド上層部にコネを作っているのだ。だから、多少の無理はきく。

「えっと……」

 ライナは悩んだ。銃をくれた事に礼を言いはしたが、本心ではこんなもの、使いたくない。しかも今夜いきなり実戦で鍛えるとなると、全く心の準備が出来ていなかった。

「私、戦いたくない」

 だから、本心を言って拒否した。

「お前さんは優しい子だからな。だが、こればっかりは聞けない」

 ドリズにとって、これは想定内の言葉である。人を助ける事を生きがいにしていたのだから、人を傷付ける事などしたくないだろう。

 だが、この街で生きる為には、死なない能力だけでは足りない。絶対に、戦う為の力を身に付けなければならないのだ。そうでなければ、ライナ自身が苦しむ事になる。

「お前はムロズファミリーで、屈辱の限りを受けてきたんだろう? お前に戦う力があれば、あんな雑魚どもは簡単に追い返せた。両親も死なずに済んだ。お前が今ここにいるのは、他ならないお前のせいだ」

 レイドがドリズの考えに賛同した。きつい言い方だが、その通りなのだ。

 今の時代、一般の家庭であっても銃は手に入る。ライナが戦う力を身に付け、戦う意思を磨いてさえいれば、今のような悲劇は起こらなかった。

 シャインシティが極端なだけで、争いは少しずつだが、世界を侵食しているのだ。そう考えると、戦わないという選択肢は、最初からなかった。

「そしてお前は、世界で最も争いに侵食されているこの街に住む、俺の隣にいると言った。なら、覚悟を決めろ。嫌だというのなら、今すぐ出ていけ」

 辛辣な言葉を掛けるレイド。

「……わかった。私、やる」

 だがライナは、それだけは嫌だったようで、この街に留まるため、戦う事を選んだ。

「よく決めたな。そうと決まったら、ちょっとギルドに行って、手続きしてこないと」

 ドリズはそう言って、席を立った。

「代金は払っていきなさいよ」

 と、チェリーが待ったを掛けた。

「すぐ戻るからいいだろ?」

「そうはいかないわ。裏社会とはいえ、ここは店よ。目的の物と引き換えに、代金を払う。それは守ってもらわなくちゃ」

「わかったわかった。払えばいいんだろ」

 めんどくさそうにしながら、ドリズは代金を払い、ギルドに向かった。

「あの人すごく優しい。レイドと大違い」

「……まぁ、面倒見はいい奴だ」

 仕返しのつもりか、ライナが少し、トゲのある言葉を言った。レイドは気にしていないふりをし、チェリーは笑いをこらえていた。


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