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ファイナイト

作者: こーや

『『題名:フィニット      ユウキ


お題:夕焼け、破片、戦争、墓、水滴、大正ロマン、交差点、白、妖、帽子、糸、主従、アンティーク、失、妖精


 ある日の文学部。ちょっと肌寒い季節。空は快晴。オレンジ色の夕焼けが窓から差し込んでいる。光は影を作り、それは人間の形をかたどっていた。一人はセーラー服に長めのスカート、そして長い髪。もう片方は学ランに長ズボン、短い髪。

 短い髪の少年がもう一人に向かって紙の束を差し出しながら、何やらしゃべっている。

「先輩、ヤヨイ先輩。できました。ちょっと読んでみてもらえます?」

「あら、ユウキ君早いわね。分かったわ」

 そう言うと、ヤヨイと呼ばれた長髪の少女は、紙の束を受け取り、読み始めた。

 彼女が原稿を読む様子を緊張した面持ちで見守る少年。

 一ページを慎重に読むヤヨイ。二人の顔を夕焼けが照らした。


 そして、最後の一行を読み終えたヤヨイは顔を上げる。

 そして、言葉を飲み込むように、目を閉じた。

 ユウキは息をのんだ。彼女は自分の小説を読んでどのような感想を抱いたのか?

 面白かったのか? つまらなかったのか?

 ユウキは震える声を意識しないようにしながら尋ねた。

「……先輩。どうでしたか……? 僕の小説は……? 面白かったですか……? つまらなかったですか……?」


 ヤヨイはゆっくりと目を開けると言った。

「面白かったわ」

「ヤッター!」

 僕は喜んだ。

                       完』


「……という小説を書いたんですがどうスか? ヤヨイ先輩」

 ユウキはドヤアアアアといった表情で尋ねる。

 ヤヨイは受け取った原稿を最後の一行まで読み終えると、眉を顰めて落胆の言葉を発する。

「ええ……なによこれ」

「何って小説ですけど」

 ヤヨイはため息を漏らす。

「いろいろ言いたいことはあるけど、まずココ。二文連続で〈そして〉が続いてる。あと三人称書きなのに、一人称が混ざってるとこがあるわよ」

「あ、ほんとっスね。そこの文章は後から足したんですけど、無意識の内に〈そして〉って入れちゃったみたいっス」

「はいはい。あと、個人的な意見だけど、展開が弱いわね。〈先輩に原稿を褒めてもらった〉〈嬉しかった〉しか書いてないじゃないの。もっと他に書くことはないの? ユウキ君、あんなに入部した時にはSFが書きたいとか、戦争ものが書きたいとか言ってたのに」

 ユウキは少し考えてから、パソコンに向かう。

「分かったっス。すぐできるっス」



『  題名:その言葉が       ユウキ


 ウー、ウー、という警報の音が鳴り響き、辺りは騒然としていたが、彼らは通常運転だった。

 ある日の文学部。ちょっと肌寒い季節。空は快晴。オレンジ色の光が窓から差し込んでいる。

光は影を作り、それは人間の形をかたどっていた。一人はセーラー服に長めのスカート、そして長い髪。もう片方は学ランに長ズボン、短い髪。短い髪の少年がもう一人に向かって紙の束を差し出しながら、何やらしゃべっている。「先輩、ヤヨイ先輩。できました。ちょっと読んでみてもらえます?」「あら、ユウキ君早いわね。分かったわ」そう言うと、ヤヨイと呼ばれた長髪の少女は、紙の束を受け取り、読み始めた。彼女が原稿を読む様子を緊張した面持ちで見守る少年。一ページを慎重に読むヤヨイ。二人の顔を夕焼けが照らした。


 最後の一行を読み終えたヤヨイは顔を上げる。

 そして、言葉を飲み込むように、目を閉じた。

 ユウキは緊張した面持ちで言う。

「どうでした? 僕の小説」

 ヤヨイが口を開こうとした……そのとき。

 窓の向こうから、爆音が鳴り響いた。

 爆音は何度も続き、次第にこちらへ近づいてくる。

「な、なんスか……?」

 そして、すぐ近くから今までになく大きな爆音が聞こえてきたかと思うと、文学部の窓ガラスが一気に割れた。

 割れたガラスの破片が弾丸の様な速さで部屋へ飛び散る。

「ユウキくんっ危ない!」

 ヤヨイとユウキはもつれ合うようにして倒れる。

 倒れたヤヨイの後頭部から血がどっと流れた。

「先輩!? ヤヨイ先輩!」

 ヤヨイは薄っすら目を開けて言った。

「ユウキ君……今まで楽しかったよ……君の小説…おもし……ろ……」

「先輩―――!」


 ユウキは、冷たくなったヤヨイを丁寧にどける。彼はは先輩の亡骸に、そっと朝顔の造花を置く。そして彼は、先輩の小さな墓と、大きな悲しみを背に、文学部室床下にある防空壕へ避難した。

                       完』


「なによ、この世界観」

 先輩は文句ありげに腕を組んで言った。

「日本が第十四次世界大戦に巻き込まれたという設定です」

 僕がそういうと、ヤヨイ先輩は眉を顰めて言った。

「……そう、わかったわ」

 言葉とは裏腹に、文句を言いたそうな顔だ。

「じゃあ、最初に鳴った警報は、空襲警報ってことになるのかしらね?」

 おお、そこに気付くとはお目が高い!

「おお、そこに気付くとはお目が高い!」

「あのね、説明文と会話文で同じことを書かなくてもいいから」

 何故分かった。

「あと何よ、造花の朝顔って。なんで持ってんのよ」

 ああ、僕は実際に内ポケットから朝顔の造花を取り出して見せた。

「この学ラン、中学のと同じものなんですけど。中学卒業で使ったヤツがそのまま入ってたみたいです」

「……そう。まあ、筋が通るなら構わないわ」

 先輩はとても不服そうだ。


「じゃあ、いったいどうして私達は避難しなかったのかしら? ご丁寧にも文学室に防空壕はあるみたいだし」

 開き直った口調で言う。

「えっとそれは……。警報が鳴っても逃げ出さない現代日本を風刺した訳ではなくてその」

 そいえばココ、描写はしたけど何も考えてなかった。

「あと、冒頭四行目以降、どうしてこんなに詰めてあるの? 読みにくいじゃないの」

 それは、コピペした文字で紙を使うことに罪悪感があっただけなのだが……。

「まあいいわ。今日はもう時間だし帰りましょ」


 俺と先輩は、帰りの準備を済まし、ヤヨイ先輩と二人並んでゆっくり歩く。

 お互い他愛のない話なんかをしていた。

「先輩、来年の受験先は?」「ユウキ君はどうしてこの学校に?」「あと、どうして一人称変わってる?」

 お互いの他愛のない話なんかをしながら、もう少しでとある大きな交差点に差し掛かろうとしていた。

 この交差点を渡ったら先輩とはお別れだ。

 俺は、名残り惜しい気持ちを抑えられないでいた。

 すると、天に願いが届いたのかも知れない。


 ポツ……ポツ……。


 と小粒の水滴が俺たちの頬を濡らす。

「雨……っスね」

 空を見上げると、真っ黒な雲が空を覆いつくしていた。

 俺と先輩は急いで、雨の凌げそうなところに避難した。

「いやーそれにしても急な雨っスね」

 そう言って横を向いた俺は息を呑んだ。

 濡れた髪、制服。走ったせいで荒くなっている呼吸。そして、肩が触れそうな距離。

 俺は、そんなヤヨイ先輩を見て、運命の赤い糸を感じられずには……。


「待って」

 先輩がこっちを向いて、無表情で言う。

 何すか、今いいところなのに。

「おかしいわ」

「何がっスか?」

「冒頭では、〈快晴〉と書かれていたのに、急に真っ黒な雲が出てくるのはおかしい」

 えっ。まあ確かに。

「そうよね?」

 彼女はそう決めゼリフを放つと、指をパチンと鳴らした。

 すると、今まで空を覆っていた真っ黒な雲が、どんどん純白に変わっていくではないか。

 なんだこれ……先輩は神様で無ければ妖怪か何かですか…?


 ……空は晴れても、俺のこの恋心は晴れなかった。

 だから、だから、俺はヤヨイ先輩にこの手紙を渡すことにしたんだ。

 いつも彼女に読んでもらうような、小説の形式で。



『題名:残りのお題処理      ユウキ


「ヤヨイ先輩、好きです。」

と帽子を被ったアンティーク機械青年は、いかにも〈大正ロマン!〉と言ったハデな着物を着て、妖精との主従関係を失いながら言った。

                        』

                 フィニット 完』


「……どうです? 何度も同じ表現がありながらも、結局はループなんかはせず、〈有限〉である小説。だから、英語で〈有限〉を意味するフィニットと言う題名を付けました」

 ユウキはドヤアって感じの表情で言った。

 ヤヨイは読んでいた原稿をパタンと畳んだ。

 そして、静かに目を閉じて言った。

「まあ、最後の雑な処理とか、色々ツッコミたいところはあるんだけど。頑張ってここまで書いたんだから、褒めてあげる。面白かったわ」

 ヤヨイはニコッと笑って言った。

「先輩……! 僕、僕、そう言ってもらえると嬉しいです!」

 ユウキの目が輝いた。

「あと一つだけ。覚えておきなさい? ユウキ君。〈有限〉を意味するfiniteは〈ファイナイト〉と読むのよ。フィニットじゃなくて」

「……せんぱ――――――い!」

 放課後の文化部にユウキの叫び声だけが響いた。


                ファイナイト 完


スクールラブに惹かれてきた方には申し訳ございません……。もっと訳の分からない何かです……。でも、ユウキ君は、きっと人の欲しい言葉を察して、与えてあげることができる。そんな、素敵な先輩に惹かれることになるのではないでしょうか。だから、スクールラヴなんじゃないでしょうか。(適当)

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