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僕と魔法と黒猫と  作者: 幸乃兎莉
第一章
9/12

新たな魔法

 シャルルの言葉と同時に、魚の魔物は水鉄砲を放った。

 シャルルは右腕で水鉄砲を打ち払うと、地を蹴り魔の者に肉薄した。

 シャルルは魚の魔物を、その爪で切り裂こうと右手を振りかざすと、2度目の水鉄砲を魚の魔物が放った。


「くっ!」


 零距離から放たれた水鉄砲をシャルルは、攻撃に転じていた右手を咄嗟にガードに回した。

 シャルルに水鉄砲が当たり弾け、シャルルの体は宙を舞った。

 しかし、シャルルは器用に空中で一回転し着地した。


「雑魚と侮り油断したわい。頭に血も昇っておったし、ちと早計じゃったかのぉ」


 シャルルはため息交じりに再び地を蹴る。

 しかし、魚の魔物も二度目は簡単に血被けさせまいとばかりに、床を濡らしていた水を槍のような形状にし、シャルルに向け放つ。


「ちっ、邪魔くさい奴よのぉ。こうも動きを阻害されるとやりにくくてかなわんのぉ……」


 シャルルは紙一重で魔の者の攻撃を交わしながら毒を吐いた。

 ちなみに、シャルルの動きを阻害しているのは攻撃だけではなかった。

 それは雨に濡れたシャルルについた水滴が原因だ。

 雨の水滴はシャルルの全員至る所に染み込んでしまっている。

 その水の重さを魚の魔物は変化させていた。

 分かりやすく言うと、少量の数的であっても大人3人分程度の重さになり得る。

 土砂降りの雨の中を濡れ、更に先ほど食らった水鉄砲も加えられ、想像以上の重さに耐えながらシャルルは戦っているのだ。

 常人であれば、その重さだけで潰れてしまう程の……。

 しかしシャルルは、攻撃地点の予測をしていたかのように紙一重で避け続けた。


 シャルルが防戦一方で攻めあぐねていると、魚の魔物に変化が現れた。

 魚の魔物を構成している水がブクブクと沸騰したような音を立てて膨張し始めた。


「むっ……こいつはちとまずいかものぉ……」


 シャルルが呟くと同時に、魚の魔物は爆発した。そして……


――そこに大きなヤ貝殻が現れた。


 現れた貝殻は、大の大人を一人包み込める程の大きさ。

 その白い貝殻の中には青に白の模様が入った生物らしきものが居た。

 見た目はヤドカリそのものであった。


「ふむ、成長しおったか。……めんどうじゃのぉ」


 シャルルは水の槍を躱しながら独り言ちると同時に、一本しか襲ってこなかった水の槍の数が二本、三本と徐々にその数を増やしていった。


 シャルルは迫りくる水の槍を躱しながら、ヤドカリに肉薄する、と同時に回し蹴りを入れた。

 しかし、ヤドカリは白い貝殻にシュルリと籠り、シャルルの攻撃を防いだ。


「ちぃっ! 思った以上に固いのぉ!!」


 シャルルは毒づきながらながら後ろに飛び退いた。

 すると、シャルルがいた場所に無数の水の槍が突き刺さった。


 更に、ヤドカリの殻に無数の小さな穴が空いており、そこから水鉄砲をシャルルに向けて放った。

 シャルルは紙一重で躱し続けるが、増える水の槍と無数の水鉄砲により徐々に追い詰められていった。


「仕方ないのぉ。かような雑魚相手に使いとうなかったのじゃがな……」


 シャルルは小さくため息を漏らしながら指を鳴らす。

 すると、シャルルを中心にして黒炎が巻き起った。

 シャルルに迫っていた水の槍は黒炎の壁に遮られ蒸発し、更には辺りの水分も蒸発させていった。


 シャルルは黒炎の中心に現れた棒を握り黒炎を振り払うように振るう。

 振るったその手には、装飾があまり施されていないにも拘わらず、禍々しい雰囲気を放つ大鎌を握っていた。

 シャルルは自分の背丈に合わないその大鎌を軽々と振り回すと、ピタリと止めて構えた。


「さてと、反撃といくとするかのぉ」


 シャルルは地を蹴り大鎌を引きずるようにしてヤドカリに肉薄した。

 そして、その大鎌を水平に振るった。

 ヤドカリは水の壁を作りガードしようとしたが、大鎌は水の壁もろとも


――ヤドカリの貝殻をまるで豆腐のように切り裂いた。


 上下に分かれたヤドカリは、暫くビクンと脈打つと、ズルッと音を立てて上部の貝殻が地面に落ちる。

 そして、その身を水に変えバチャンと床に水が広がった。

 ヤドカリが水になった場所には、真っ二つに分かれた青色の宝石のような物だけが残った。


 シャルルは床に落ちた青色の宝石を拾い上げると、悠斗に目を向けた。


「まったく、とんでもない馬鹿と取引をしてしもうたようじゃのぉ……」


 そう言いながらシャルルは青色の宝石を口に入れゴクリと呑み込んだ。


 ☆☆☆


「ん……う~ん……」


「おぉ、やっと目を覚ましたか」


「あれ? シャルル?」


 僕が目を覚ますと、シャルルが心配そうに僕を覗き込んでいた。

 何故か全身が痛む……むしろなんで僕は寝ていたんだ? 状況を把握する為に身を起してみた。


「うわ、なんだこれ」


 目の前に移ったのはめちゃくちゃになっている体育館だ。

 ところどころ床が濡れていたり、壊れていたりしていた。他にはボール入れの籠がこけて、中に入っていたであろうボールが散乱している。


「これやったのシャルルか?」


「戯けが! 妾が来た時からこうなっておったわ!」


 ん~シャルルは後から来たのか……つまり僕の方が先にいたって事か。


 あ……


 そうだ。思い出した。僕は魚の魔物に追いかけられて体育館まで逃げてきたんだ。

 そしてボールや雑巾とかを使って戦ったんだ。

 その後どうなったかわからないけど、魚の魔物がいないって事はつまり……


「なるほど! 僕は魔物に、魔物に僕が勝ったんだな!」


「はぁ……底抜けの馬鹿よのぉ……」


 その後、僕はシャルルから一部始終を聞いた。

 シャルルが助けに来なかったら危く死んでいる所だったらしい。

 次から学校に行く時は魔導書も持っていく事を義務付けられた。

 まぁ、これは仕方ないよね。

 その後の追加条件がシャルルを学校に連れて行く事だったが、これは丁重にお断りをした。

 代替え案として、シャルルに学校付近で待機してもらう事でお互いに妥協をした。


 そして、異空間から現実世界に戻る前に、サッカーゴール前まで僕は身を引きずりながら移動した。

 シャルルの謎の力で痛みはある程度和らいだのだが、完全に直すまでの時間はなかったのだ。

 そして、現実世界に戻りキーパーとしての役目を果たそう意識を変えた瞬間、サッカーボールが顔面に当たって僕はまた意識を手放した。


 ちなみに、魚の魔物から食らった水鉄砲で、またもや僕のお尻付近は破けていたようで、ユウダイを含むクラスメイトに数日間いじられる事になったのは、また別のお話で……


 ☆☆☆


 その日、学校帰りにシャルルと二人で公園に立ち寄った。

 

 公園のベンチに腰掛けながらシャルルが持ってきてくれた魔導書を開くと、そこには見慣れない【∮】と【¢】の文字が、【Й】が書かれていたページとは別のページに追加されいた。


「また変な文字が追加されてるな」


 僕が独り言ちると、僕の肩越しにシャルルが魔導書を覗き込んできた。そして【∮】の文字を指さした


「ふむ、これは精霊言でアクアじゃのぉ」


「ふ~ん。これでアク、もごっ!な、何をするんだよ!」


「戯けが! こんな所でもし魔法が発動したらどうするつもりなんじゃ!」


 辺りを見ると遊んでいる子供の姿とそれを見守るお母さん達ががちらほらと見える


 ……僕が迂闊でした。


「わりぃ……で、その言葉の意味は?」


「ふむ、アクアは水を意味する言葉じゃな」


「はぁ……つまり、水の魔法って事なんだろうな……」


 火の魔の者を倒した時からあった火の魔法【Й(ファイ)】。水の魔の者を倒した後に出てきた水の魔法【∮(アクア)】。つまりこれって……


「魔の者を倒すと魔法が追加されていくのかな?」


「ふむ、今までの流れで言うとそうじゃろうな。後もう一つの文字は【ラ】じゃ。これは魔力を増幅する意味を持つ言葉じゃのぉ」


「魔力を増幅する?」


 単純に考えると、アクアとラを組み合わせると普通のアクアより強力な魔法になるって事なのか?


「まぁ、おそらくはお主が考えている事で合っているじゃろうな」


「なるほどな。でも困ったな……これからこの一文字だけを言葉にする事が出来ないのか……」


「その点は心配するでない」


 シャルルは僕の横に座りながら話し始めた。


「この【ラ】という精霊文字は、これ単体で効果を発揮するものではないのじゃ。他の魔法を意味する言葉の前につけてる事によって効果を発揮する。ただし、精霊たちは言葉だけでの魔法の使役は出来んのじゃがな。基本的には魔道具にかのような精霊文字を描く事で効果を上げる、もしくは効果を得るのが普通なのじゃ」


 う~ん……ちょっと難しい話になってきたな……


「ま、なんにせよ。お前の食事も兼ねて、いっぱい倒して色々魔法を覚えてみるかぁ」


「おぉ!! 期待しておるぞ!」


 僕が前向きな発言をするとシャルルは嬉しそうな声をあげて、僕の上にポスンと座ってきた


 やめて、お母さん達の目が痛い……僕はロリコンじゃありません!


「と、とりあえずそろそろ家に帰ろうか」


「ふむ、そうじゃの! 今日の晩御飯を楽しみにしておるぞ!」


 ちなみに余談だが、食後に板チョコを食べさせると目を輝かせて食べていた。

 その後、定期的にチョコレートをねだるようになり、僕の財布に冬が訪れるのはそう遠くはないだろう。

すみません。来週はお休みします。

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