百橋第一高等学校
今現在、僕は非常にまずい状態になっている。何故かって? そんな事は僕が知りたい。すこし冷静になって、今日の出来事を思い返してみようと思う。
☆☆☆☆
シャルルと取引をした次の日の朝、つまり今日だ。僕は昨日の事を思い出しながら、いつも通りけたたましい音を立てて鳴る目覚まし時計を目を瞑りながら止めようとした。すると目覚ましを止めようとした手にむにゅんとした感触がした。
(なんだこれ……柔らかいな……え!?)
ハッと目を開けると、僕の隣にシャルルが寝ていた。そして、僕の手は……シャルルの胸を鷲掴みにしていたのだ。柔らかい。見た目以上に胸があるな……ってちょっと待て!
「なんでお前がここで寝てるんだよ!?」
僕の声にも反応せずシャルルはスヤスヤと眠っていた。まったく、警戒心がないにも程があるだろう。僕はシャルルを起こさないように目覚ましを止め、学校に行く為に準備を始めた。今日の授業で必要な物をカバンに詰めて、朝食を食べてから、鏡越しに冴えない僕の顔と対面しながら歯を磨き顔を洗い学校に出かけた。もちろんシャルルは僕の部屋で放置したままだ。
何の前振りもなく突然ではあるが、僕の通っている百橋第一高等学校について伝えておこうと思う。創立から300年以上経っているらしいが、実際の創立日を知っている人がいないという謎が深い学校だ。第一高校と名前についているが、特に第二高校がある訳ではない。噂では元々第二高校や第三高校を作ろうとしたが、予算の都合で計画が中断になったやらと聞いた事や、この地域での初めての高校だった為、第一高校になった等という話もあるが、真相は謎に包まれてたままである。学校名の略称は、百一高校だ。誰が呼び始めたのか知らないが、101でいおいと読むらしい。ちなみに先生達もそう呼んでいる。
そうこうしているうちに、百一高校に着いた。この学校、裏手には山があり山菜等も取れる為、家庭科の授業等では山菜を使った料理などを作ったり、授業で山菜取りなどを行ったりたりしていたらしいが、近年になり教育委員会やら世論などの影響でそういった授業もなくなったそうだ。まぁ、そうなったきっかけは、生徒が取ってきた山菜の中に毒キノコが入っていたのに気が付かず、そのまま調理して食べた生徒が腹痛で病院に担ぎ込まれた事件があったと噂で聞いた事がある。
それはさて置き、学校の自転車置き場に着いた僕は、自転車を停めると自転車整理をしているおじさんに挨拶をした。ちなみに僕の学校の自転車置き場では、学年毎に駐輪するスペースが変わってくる。1年生は学校の裏口にある出入口付近の自転車置き場を利用するが、2年生は裏口から出入口から見て左手、学校の非常階段付近にある自転車置き場を利用し、最後に3年生は裏口から入って右手にある、正門方面の自転車置き場を利用する。自転車には学年毎にわかるよう、シールを張る義務がついているが、正直に言うと学年毎に自転車置き場を分ける理由が僕にはわかっていないが、偉い人にはなにか考えがあるのだろう。ちなみに、留年した人はシールを張り替える必要もあるそうだ。
学年毎に場所が分かれていると言えば、ロッカーもそうだ。まぁ、ロッカーの場所が分かれているのはどこの学校でも同じだと思うが。僕の学校では正面玄関から入って左手側が1年生。中央が2年生。右手側が3年生である。
僕は中央の左側手前にある【御幣島】と印刷された紙が挟まっているロッカーを開けて上履きに履き替えた。この上履きも学年毎に色が違う。現在1年生は緑色で、2年生は青色、3年生は赤色だ。これは留年した場合も入学当初の上履きを履き続ける為、買い直しをしなければ留年した事が分かってしまうが、大体は買い直さずに元々の色のまま履き続けるるが、中には留年を隠す為に買い直す人もいるそうだ。とはいえ、留年した事を知っている人は知っているので意味はないと思うのだが。
上履きに履き替えた僕は教室に向かう訳だが、ここまで来たら教室の位置についても話すべきだろう。まずロッカーがある正面玄関が中心と考え、その左側通路を抜けた先が1年校舎。中央階段を上ると2年校舎。最後に右側通路を抜けた先が3年校舎だ。それぞれの校舎は3階建てになっており、1階に2クラス分の教室がある。
ちなみに、3年校舎と2年校舎の間が体育館。1年校舎と2年校舎の間が特別授業室がある校舎。つまり、2年校舎がなぜが優遇された作りになっているのだ。学校の裏口は2年校舎側にあるのも付け加えておこう。
校舎の話はさておき、僕は自分の教室である2年5組に着いた。教室の扉を潜ると、いつものようにユウダイが居た。関係ない話だが、僕はユウダイよりも早く学校に来た試しがない事に気が付いた。
以前に学校の近くにあるパン屋で、焼き立てのパンを買いたいが為に早起きして開店時間の朝七時に着き、購入したパンを片手に教室に入った時も、何故かこいつだけは居たのだ。もしかしてだけど、毎日こんな早くから来ているのか? と思って聞いてみた所、そうではないらしい。たまたまその日は朝早くに目が覚めた為、僕よりも早くに学校に着いていたらしい。本当に理解に苦しむ。朝早くに起きたなら二度寝すればいいんじゃね?
他にも自転車が壊れた時に、遅刻しないよう早くから家を出て学校に着いたのが六時半だった時も、何故かユウダイは教室に居た。その時の理由は……まぁなんだ。部活動の為とかなんとか言ってたな。至極まともな理由だった。
うん。よくよく考えてみたら部活の朝練とかで早く来ているから、帰宅部の僕より早く来ているんだろう。朝練がない時も習慣で来ているんだ、きっと。そういう事にしておこう。
僕は自分の席に座ってから、いつものようにユウダイと話し、暫くすると授業を知らせるチャイムが鳴った。今日の1時間目は僕の苦手な古典だ。いや、苦手じゃない科目なんて存在はしていないんだけどね。
僕は教科書に漫画を挟んで1時間目をやり過ごした。ちなみにこの漫画はユウダイに借りた漫画である。借りた漫画は机の中に置いてもいいと許可を得て、昨日から置きっぱなしだ。
ユウダイは漫画を貸し借りをする良き友人であるが、たまにユウダイは何故か学校にエロ本を持ってきて僕に貸そうとする時がある。女子からの視線が痛いので、それだけは勘弁してくれと何度言っても、忘れた頃に持ってくるのだ。前回持ってきてから一か月は経つかな……そろそろ持ってきそうで怖い。
1時間目は漫画で、2時間目も漫画、3時間目も変わらず漫画を読んだ。そして4時間目は苦手な体育の時間だ。こればっかりは避けて通る事が出来ない。3時間目である歴史の授業が終わると、クラスのみんな一斉に体育館に設置されている更衣室に向かっていく。もちろん僕もだ。
体育の授業は2クラス合同で行う。昔は1クラス毎に行われていたが、少子化に伴い1クラスの人数が少なくなった為、今の形式に変わったそうだ。ちなみに1組と2組がセットで3組と4組がセット。そして僕たち5組と6組がセットで授業を行う。
別段6組に仲の悪い奴がいる訳でもないし、仲のいい奴がいる訳でもないが、6組はなぜが格好の問題児と呼べる不良が集められているクラスなのである。一般生徒である僕は、この授業が一番息が詰まるのだ。ちなみにユウダイは、6組の生徒とも仲良くしている。ユウダイが6組の生徒と会話している時も、何故か僕に話を振る事があるので、6組の生徒に絡まれる事が多く、迷惑を被っている訳だが……いや、悪い意味で絡まれてる訳でもないし、絡んでくる人が嫌いって訳じゃないんだけど、怖いんだって。
それはさて置き、今日の体育の授業は裏山と校舎の間にあるグラウンドでのサッカーだ。ここ数回の体育の授業でリフティングの練習やら、三角コーンを使ったドリブルの練習などをしていたのだが、今日はクラス対抗で試合形式で授業を行うらしい。僕は何故かゴールキーパーに任命された。ま、動かなくて済むからいいんだけどね。
先生がホイッスルを鳴らして試合が開始された。初めは5組側ボールから始まった。ユウダイがドリブルで一人をかわして、クラスで唯一のメガネ君にボールを鋭いパスした。メガネ君はメガネ君のくせに運動神経が良く、ユウダイのパスを受け、ちゃんと自分のドリブルしやすい位置にボールを落とした。そして流れるようにドリブルを始めると、突然メガネ君は姿を消した。
……え?
ハッと周りを見渡すと、メガネ君以外の生徒やユウダイも先生もみんないなくなっていた。そして、校舎やグラウンドの色も白黒に変わっていた。ハッと後ろを見ると裏山の色も白黒に変わっていた。これは昨日シャルルと入った異空間と似ている。いや、似ているじゃなくて……まったく同じだ。
異空間に入ったという事はつまり、魔物がいるって事だ。魔物がいるって事はつまり……僕が襲われる可能性があるって事だ。なら対抗手段として、昨日もらった本を使うべきだろう。よし、とりあえず教室に戻ろう。
僕は全力で走り出し自分のクラスに向かって走りだした。2年校舎に辿り着くと1階、2階と順に階段を登り、教室の扉を勢いよく開けた。そして自分の席にあるカバンを漁る。だが……
……本がない。
慌ててカバンの中身をひっくり返し探すが、一向に見つからない。一旦冷静になって、今日一日の事を思い出してみよう……
☆☆☆☆
ここで冒頭に戻る訳だが、本当にやばいぞ。重大な事を思い出してしまった。
――今日の授業で必要な物をカバンに詰めた――
つまり、あの本は授業で必要じゃない。だから、持ってきていないんだっ!!
くそ、現状を打破する為には、家に帰って本を確保するか、シャルルの助けを待つかどちらかだ。
シャルルを待つにしても僕の現状を知っている訳がない。となると、残された選択は、家に一旦帰る事だな。よし、帰ろう。
そう思い外を見ると、突然大粒の雨が降り始めた。なんてタイミングだよ! 傘持ってきてねぇんだけど!? と、心で悪態をついていると、モノクロだった世界に色が灯る。天井や床、机に至るまで、全て青く染まっていた。そして……窓の向こうに、角の生えた魚のような物体がふよふよと浮かんでいた。
――これってもしかして、俺、死ぬんじゃね?――
月曜日に間に合いそうにないので、火曜日に更新します!