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僕と魔法と黒猫と  作者: 幸乃兎莉
第一章
4/12

長かった一日

毎週月曜日更新!!見てくれている方がいるかは分りませんが、頑張っていきたいと思います!

今回で『日常の崩壊』は終了です。ここまでは殆ど導入のようなものです……。


 現在の状況を説明しよう。シャルルの唇と僕の唇が重なり合っていた。


……なぜこうなった!?


 僕は必死にシャルルから逃れようした。しかしmシャルルは僕を逃がさぬように、その華奢な腕を僕の首に回し、更に腰に手を回して、むさぼるように僕の唇を奪う。次第に体が熱くなり僕の体から何かが失われていくような感じがした。


 数分後……いや、実際にはものの数秒だったかもしれないが、シャルルは満足したのか俺から唇を離し、シャルルは自分の真っ赤に熟れた果実のよう唇をペロッと舐めた。


「な、な、な、何やってんだよ!?」


 僕は声を震わせながら問いかけた。おそらくだが、恥ずかしさと怒りにより僕の顔は茹蛸のように真っ赤になっていたに違いない。今の僕の感情の変化により新しい魔物が生み出されてもおかしくないのではなかろうか。いや、生み出されるに違いない!そして生まれた魔物はきっと何物にも負けない強力な魔物に違いない!


「ん? 何をしたかといわれてものぉ……約束通りに取引をしたのじゃが、何か問題でもあったかのぉ?」


「問題でもあったのかじゃねーよ! 僕の、僕の……ファーストキスがっ! 僕はな、観覧車の一番上で、初めて付き合った彼女と夜景を見ながらすると心に決めていたのにっ!!」


「なんじゃ、接吻は初めてじゃったか。にゃはっは! それはすまぬ事をしたのぉ。しかし、ユウトの反応は、まるで乙女のようじゃの」


 乙女よりも繊細な心の持ち主の僕を捕まえて、なんて言い草なんだこいつはっ!? と、喉元まで言葉が出かかるが、僕はグッと堪えた。そんな事で怒っててもこいつのまたペースにハマるだけだな。ここは冷静に今起きた事を判断する為に質問をしよう。


「乙女よりも繊細な心の持ち主の、僕を捕まえてなんて言い草だっ!!」


「にゃはっは! まぁまぁ、そう怒るでない。こんな麗しい美少女と初めての接吻が出来たのじゃ。そうそう出来る体験ではなかろうて」


 た、確かに美少女だが、自分で言うな!! くそ、結局は我慢出来ずに思った事を言ってしまった。ここは冷静になって、質問を開始しし、今の状況と現状を把握しよう。深呼吸だ、すーはー。


「まぁキスはもういいよ。いや、良くないけど、それを言ってても先に進まないし。それで、なんで僕は突然キスされたんだ?」


「はて? それは前に言わなかったかのぉ……初めに伝えていたと思うが取引じゃよ」


「キスするなんて聞いてねーよ!」


「あぁ、それは言っておらんからのぉ。にゃはっは! まぁ、そんな事より」


「そんな事って『まぁ、待つがよい」


 シャルルは僕の言葉を遮った後、両手を出した。すると、シャルルの両手に光の渦のようなものが生まれた。


「な、な、なんだこれ」


 シャルルの両手にある光の渦は、次第に光り輝き何かの形を成していく。その形は僕が普段からよく目にする。そう、まるで……本だ。


「ふむ、これはまた珍しいのぉ。ユウトの魔道具は魔導書のようじゃのぉ」


 出てきた物は高校の教科書程度の大きさの本だった。教科書と言ってもピンからキリまであるので、わかりにくいだろうから、もっと具体的に言えば、A4サイズの厚みのある本だ。

 シャルルはその本を両手で掴むと、そのまま僕に差し出した。


「受け取るが良い。それが、お主の魔法を使う術になろう」


「これが……?」


 僕はシャルルから本を受け取った。触って見なければわからなかったが、表紙はザラザラとした荒めの砂のような質感だった。そして、まるで羽のように本の重さを感じなかった。中を開いてみるとほとんどが白紙のページであった。唯一文字が書かれたページには赤い文字で【Й】とだけ書かれていた。


「なんだこれ?」


「それがユウトの魔道具じゃ。つまりは魔法を使う為の道具じゃな。しかし、魔導書とは本に珍しいのぉ」


「さっきも珍しいとか言ってたけど、どうゆう事だ? 魔道具って奴はこの本の他にもあるのか?」


「魔道具一般的に多いのは指輪や腕輪等じゃな。じゃが、他の魔道具はお主には使えぬ。取引によって生まれる魔道具は、その人間と取引をする相手によって変わるのじゃ。つまり、妾とユウトが取引をした事により生まれたものが、その魔導書という訳じゃ。しかし、どうにも扱いに困るの」


「え? 扱いに困るって、この魔導書ってやつだったら何か問題でもあるのか?」


「問題ではないが、妾にも扱い方が分からんという弊害があるのぉ」


「大問題じゃねーか!! つまり、この本の使い方が分からないって事だろ? 何か解決策とかあるのか?」


 この本の使い方が分からない。つまり、取引をしたのに、俺は魔法を使い方が分からないって事になる。ダメだ、そんなのは絶対に許さねぇ。俺のファーストキスを生贄にし、魔法使いの俺を召喚する! 絶対にだ!


「そうだのぉ。通常であれば、魔道具の持ち主が自然に扱い方を知ると言うのじゃがのぉ……ユウト、お主は本を手に取っても何もわからんかのぉ?」


 シャルルはそう言いながら、俺に手にある本を指さした。自然と使い方が分かる……なんてご都合主義なんだ。しかし、俺にはこの本の使い方がさっぱりわからねぇ。もしこの本が魔法を使う為の本なら、本に書かれている文字がキーになるんだろうけど……まず読めねーしな。


……あ、そうだ。


「なぁ、この文字ってなんて読むかわかるか?」


「ふむ、どれじゃ?」


 シャルルはそう言いながら、本を覗き込んだ。ふわっとした香りがして、ドキドキする。じゃない、顔が近くてさっきのキスが……じゃない、本を覗き込んだシャルルにわかるように、僕は本に書いている。「Й」の文字を指さした。


「なるほど。これはファイじゃな。精霊語で火を意味する言葉じゃ」


「ファイ?」


 僕が疑問を浮かべながらオウム返しすると、体から何かが流れ落ちた感覚があった。そして突然、本に書いていた【Й】の文字が赤く光り出した。


「な、なんだこれ! どうなってるんだ!」


「お、落ち着くのじゃ! まだ慌てるような時間じゃないはずじゃ!」


 僕たちが慌てていると、突然本から火の玉が現れた。先ほど魔の者が放っていた火の玉とそっくりな物だった。その火の玉は僕の正面に向かって真っすぐに飛んでいった。


 火の玉が地面に激突すると激しい音と共に、激突した場所には黒い焦げ跡が残った。そう、炎狗が放った火の玉とまったく同じなのだ。


「え!?なんだこれ!……どうゆう事だ?」


「ふむ、妾にも原理はさっぱり分からぬ。じゃが、ユウトが魔法を使った事、という事には間違いないようじゃ」


 僕たちが会話をしている間に、本に書かれていた文字の光は消えていた。そして、文字の色が赤色ではなく黒色で書かれていた。


「この文字を読み上げたら、魔法が発動するのかな……?」


「わからぬが、おそらくそうじゃろう」


「もう一度やってみてもいいか?」


 僕はシャルルに確認をすると、シャルルは首を縦に振った。それを見て僕は「ファイ」と小さく口にする。……しかし、先ほど同じように文字が光る事もなければ、火の玉が出てくる事もなかった。


「ふむ……何も起こらぬようじゃの?」


「そうだな。そうなると、この文字の色が関係しているのかも知れないな。わかんねーけど」


 そう、分からない事だらけだ。わかった事と言えば、この本を使って空を飛ぶ事は少し難しいという事だ。いや、危ないからね。もしも仮に、この本にまたがって空を飛べても、突然本から火の玉が出てきたら、僕のおしりは火傷待ったなしだからね。僕のおしりの安全を確保する為にも、やめておいた方がいいだろう。


「ふむ、もう一度見せてもらってもよいかのぉ?」


「ん? いいぞ。ほら」


 そう言ってシャルルに本を渡した。シャルルは「ふむ」と言いながら、本の表表紙、裏表紙と交互にまじまじと見ていた。そして、本を開らこうとした。「ふむ」と再度呟き、突然体が仄かに光ったと思ったら「ぐぎぎぎ」と女の事は思えない声を出して力を込めている。いや、ちょっとまって。


「何してんだよ!? 破けたらどうするんだ!」


 僕はシャルルから本を無理やり奪い返した。なにやってんだ、こいつは。


「ぬぅ。ユウトはこれをどうやって開いたのじゃ。全然開けぬぞ!」


「どうって、普通に開いただけだけど。ほら、こうやって」


 僕は普通に本を開く感じに、特に力を込める事もせずに開いた。


「な、何故じゃ! 妾の時はびくともしなかったのに!」


「え、知らねーよ。てか、こうやって開いてみたら?」


 僕は表紙を人差し指と親指でつまみ、本を宙ぶらりんにして見せた。


「ふむ、わかった。貸してみよ」


「なんで偉そうなんだよ。ほら」


 そう言いながら僕は宙ぶらりんの状態で、表紙を開いた状態で渡した。しかし、シャルルに魔導書が渡った瞬間、本が閉じ弾かれたようにシャルルから魔導書が離れた。シャルルは再度を魔導書の表紙を開こうとするが、何故か表紙が掴めない様子でまた「ぐぬぬぬ」と唸っていた。


「ふむ……もしかしてじゃが」


 シャルルはそう言いながら僕を見た。


「これはお主以外が持っていないと、中が見る事が出来ないようになっているのかもしれぬな」


「いやいや、お前が不器用で表紙をめくれないだけじゃねーの?」


「たわけが。妾はこう見えても結構器用な方じゃわい」


 シャルルは弧を描くように僕の方に本を投げた。僕は比較的運動神経抜群……な方ではないので、かろうじで本を受け止める事ができた。いやいや、人の物を投げるとか本当にやめてほしい。


「まぁ、これで魔法も使える事が出来るようになったのはわかったし、取引は成立じゃな」


「ま、そうだな。どういう原理で魔法が使えるかとかは、今後検証とかが必要だとは思うけど」


「それはまた妾と、先ほどのように魔物と戦えば異空間で実験やら検証やらは出来るじゃろう、さてと」


 シャルルがこちらを振り向いた瞬間に、突然ガラスが割れたような音がした。すると異空間だったモノクロの世界の空からガラスの破片のような物が降ってきた。


「この異空間もそろそろ崩壊するじゃろう。このままここに居たら異空間に取り残されてしまうじゃろうから、急いでここから出るぞ」


「そう言うのはもっと早く言ってくれぇ!」


 そう言いながら僕達は全力で異空間から脱出した。シャルルは基本的に後から説明する事が多い。今後付き合いが長くなりそうだから、気を付けた方が良さそうだ。


 異空間から脱出した僕たちは、そのまま帰宅した。余談だが、初めの炎狗が放った火の玉のせいで、僕のズボンは焼け、穴が開いてしまっていたようだ。ちなみに穴が開いた場所は、お尻の部分だ。妹が爆笑しながら僕のおしろを指さしていて初めて気がついた。本当にもう勘弁してくれ……


 こうして、僕の長かった一日が終わったのだ――

毎週月曜日更新!!

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