僕は臆病者。……だけど、1
僕と君の関係は、顔見知り。
僕は研究のために図書館に通い、君はその図書館で働く司書、それぐらいの認識だった。……とある日から、君が挨拶をし始めるまでは。
それからは会ったら話す知人のような関係になった。……なんでそうなったのかは自分でもよくわからないが、気づいたらそんな関係になっていた。
そんな関係は第三者の目から見れば、恋人同士に見えるらしい。
……何を基準にそう見えるんだ?
と、そう聞いてみたが、好奇心だけで動いていると身がもたないぞと先輩から言われて聞くにも聞けなかった。
……なんと、人間の心理は難しいことだろうか? 歴史ばかりを勉強してきた僕には、人間の心理ほど難問なものはない。
が、別に彼女のことは嫌いではないので好きに噂させておこうと思う。
先輩が言うには? 下手に否定すると余計、噂は広がるらしいんだ……。何故だ、理解出来ん……。本人が違うと言ったら、そうなのではないのか?
……人間の心理は難しい。ますます、人間の心理についての謎は深まるばかりだぞ。……さらによくわからなくなってきた。
先輩が言うには? こういう時は、司書には彼氏がいて、その彼氏を誤解した時に否定するんだと言われた。その時になったら、口下手な僕の代わりに先輩が誤解を解いてくれるらしい。どうやら、本人が誤解を解くとなると、場合によっては修羅場? とやらに巻き込まれてしまうことがあるんだと。
なあ? 修羅場ってなんだ?
一種の修行場所だって先輩が言ってた。それは、先輩の比喩だとはわかってるんだが、それを追求したらな、先輩に僕は知る必要はないって言われてしまったんだ。……何故だ?
……やはり、修羅場とは精神を鍛えるための修行場なんだろうか……?
「先輩? 修羅場に巻き込まれるとどうなるのでしょうか? さぞ、鍛えられるのでしょうね……」
そう呟けば、周りの同僚たちはむせて、何かに取り憑かれたかのように笑い出したのだ。……何か、可笑しな事を言っただろうか? 何故、そんなに笑われなければならないのかよく分からん。
先輩は優しい笑みを浮かべて、
「お前は今のままでいてくれ」
と我が子を見るような目でそう言われてしまった、何故だ……?
だから、
身近にいる異性である女性司書に聞いてみたんだ、……恋とは何だ? と。
彼女はその質問を聞いて頬を赤らめた。
……体調でも悪いんだろうか?
一瞬で熱を出せるんだろうかと思いつつも、いつも思いつまった時に冷静になるために使う魔石を彼女のうなじに当ててみる。……これで少しは良くなるといいんだが。
この魔石は、体内の熱を吸収する魔石である。この前、研究のために魔女の国に行った時に星の魔女から譲ってもらった品だ。とても重宝していて、このおかげで最近は研究に長い時間行き詰まることが少なくなったため、研究は順調に進んでいる。……有難いことだ。
僕にとっては、重宝するものであっても彼女の熱には敵わないらしい。
彼女の熱は一向に下がる兆しは見えず、むしろ赤みが増す一方だ。
……風邪ではないのか?
風邪と症状が重なるのは熱の上昇だけであり、だるそうな風にも、咳や鼻水も出ていないようだし……。ならば何故、ここまで頬を紅潮させてしまっているのだろうか?
…… ん? もしや…… ‼︎
僕は怒らせるような無神経な事を言ってしまったのではないだろうか?
良く、星の魔女にも言われるんだ。
お前は無神経で、鈍感すぎるんだと。
……そこまで恋とは何か? そんな質問を聞かれるのが嫌だったのか……。
何故だろう?
そう考えた時、訳も分からず、胸がズキリッと痛んだような気がした。
初めて感じた痛みだった。




