私は彼の隣にいる夢を見る2
夢見薬から夢現薬に名前を変えました。
「魔女の会は、魔女から人を守るために存在するにょ。そして、魔女の会は魔女を人の思惑から守るためにも存在しているにょん。
魔女の国には王族やその血族に関わる人間は入国禁止なのは知ってるにょ?」
だいふくくんは首を傾げながら聞いてくるものだから、その姿はあまりに可愛すぎて、私の心はいとも簡単に撃ち抜かれてしまいました。
その首を傾げる姿は可愛すぎです、反則ですよ。あともう少しで、だいふくくんのことを撫でくりまわすところでした。危なかったです……。
なんてことを考えながら、返事をしてなかったことを何とか我に返ることが出来た私は数回頷き、聞いてましたよアピールをだいふくくんにします。
それに満足したのか……、
「それはね、良き魔女を守るため、魔女の国を滅ぼさないために必要な役目になることが出来る魔女を絶望させ、最悪の事態を招いたことから、二度と同じ過ちを繰り返さないために魔女の会は作られ、そして王族を入れないと言う決まりが出来たにょん」
と、そう教えてくれました。
……聞きたいことを聞けないのは聞きたいことが聞けないな、そう思い始めた私はおもむろに胸ポケットからメモ帳を取り出して、聞きたいことを一つだけとりあえず書いて見せれば、だいふくくんは嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振って喜んでいて……。
……ああ、メモ帳で聞きたいことを聞いたのは英断だったんですね……。
たかがメモ帳で会話するとい言うだけなのに、だいふくくんはとても嬉しそうな顔をしていて、その顔を見た瞬間、ほんの一瞬のことでしたが、その瞬間だけ同じ場面が重なって見えたんです。
感覚ではそう、私はこの場所に前にも来たことがあるような懐かしさ、と言ったらわかりやすいでしょうか? それを感じたのは本当に一瞬のことで、よくわからないその感情は儚く消えてしまいました。
そうなったのはきっと、私は思い出すべきではないと言うことなのでしょう。
そう開き直ることにしました。
そんな私がだいふくくんに聞いたこと、それは精霊の歌姫のことです。精霊の歌姫とは、魔女の国を滅ぼさないために必要な役目に就いている魔女のことを言います。
魔女の力は五つに分かれていて、いわゆる魔術を使う魔女である属性魔女と、星の魔女、鏡の魔女、物作りの魔女、そして精霊の歌い手です。
魔力は、一度魔術や魔法を使うために消費をすると大地へと戻るためには相当な月日を必要とします、それはどの国でも同じです。
魔女の国は魔術がなければ生きていけないと言われていて、この国を魔力で濁さないために精霊に相談したところ、精霊が歌い手と言う加護を作ってくれたと言うことで、精霊の歌い手と呼ばれるようになったのが一説だと言われています。言葉の由来自体は知らない訳ではないのですが、精霊の歌い手と言うのは謎多きの魔女であってですね、研究が進んでないんです。
星々の国、科学の国には王族はいませんし、魔術や魔法の一日の使用を国で決めています。一日の使用量を超えそうになると住民達に知らせるシステムもあります。星々の国と科学の国は協力関係を結んでおり、国同士の仲も悪くはありません。
科学の国に至っては魔女の国と非常に仲が良く、協力関係を結んでいる星々の国に対しても良く接してくれます。魔女の国の人々もまた基本的には良い人ばかりなのでしょう。
そうじゃないと、あの星の魔女だってだいふくくんに頼んでまでも教えたりはしないもの。私は、彼女のことを悪い人ではないと思います。
私がそう考えていると、またまた嬉しそうにだいふくくんはぱたぱたと尻尾を振って、
「精霊の歌い手の出現は今から七百年前と言われているにょん。百年前までは問題なく過ごせていたけど、それからは不穏な動きばかり魔法の国はしていたにょん。嫌な予感はしていたにょ、まさか別世界から人を転移させるとは思っていなかったにょん。
そして何も知らないその子に、精霊の歌い手を攫わせたにょ。彼自体には魔法の国の姫が魔女の国に攫われ、取り戻して欲しいとしか言わずににょん。魔女の国の地形は壊れていき、そして精霊の怒りに触れた魔法の国の王族は滅びたにょ、責任を感じたあの子は自分で自分を罰したにょん。それが、魔女の国に王族が入れない理由にょ」
さっきまでは喜んでいたのに、今は自分のことのように悲しんでいるだいふくくんは優しい使い魔なのだなとそう思います。
そして、責任を感じて自分のことを自分で罰した彼もまた、責任感が強すぎて耐えられなくなってしまったのでしょう。
彼はきっと優しすぎて、真面目すぎたんだと私は思います。もし、彼が生きる道を選んでいたなら、魔法の国は剣士の国と争いを止めていた未来もあったかもしれません。
話を聞いて、感じたままにそう紙に書いて、だいふくくんに見せれば少しだけ悲しそうな顔が和らぎ、静かにこう教えてくれました。
「精霊も彼に惹かれたみたいでにょ、彼を魔女として転生させたにょん。それが今の魔法の会の会長なんだにょ、性別は男性だにょん。
確かに女ばかりの世界だけど、魔女と呼ばれていても、魔女にも男の人はいるんだにょ〜? 会長の実力も努力も精霊の折り紙付きだにょん。
会長は十分苦しんだにょ、攫われた精霊の歌い手は会長が自らを罰した時にとても悲しんでいたから精霊達は会長を恨めなかったんだにょん。むしろ、嫌えないことに不思議がってるくらいだにょ」
だいふくくんが、色々なことをあっさり教えてくれすぎて思わず声を出しそうになりました。危ない、危ない。
ーーどうしてそこまで教えてくれるんですか? もしかしたら、私が誰かに教えて、また同じことを繰り返すことになるかもしれないのに。
私はそう書いて、だいふくくんに見せればクスクスと笑われてしまいました。
「リィが君に負けるはずがないにょん。……なんて言ったってリィは、星の魔女なんだから。君の企みなどすぐに先読みするにょん。
それに、君が何か企んでいるなら、企みを実行する前に君をだいふくが氷漬けにしちゃうからにょ、覚悟しておいてにょん!
だいふくは物理的な攻撃ならリィよりも強いにょん、キュートなおめめに騙されてだいふくがか弱いなんて思われちゃ、怒っちゃうにょん!」
可愛らしく言ってはいるけれど、だいふくくんが言っていることは本当のことなんだろうなとそう思います。
一瞬だけこの部屋が寒くなったような気がしました。それは、きっとだいふくくんの意思で寒くしたのでしょう、自分の力を見せるために。
……それがわからないほど、魔術や魔法に疎い訳ではありませんから。
なんて考えていると、気配なく星の魔女が私の前に立っていて……、
「店で魔術を使うなと言ったでしょう? まあ大したものじゃないから別に構わないけれど。
あらかじめ用意していた薬が仕上げ段階に入ったわ、見たければその茶を飲みきってから来ると良い。それを見なければ今日は帰るか、だいふくを連れて魔女の国を観光してきてもいいわ、ただし三日後にくるように。夢現薬はそれぐらい冷やす必要があるの」
……あらかじめ用意しておいた夢現薬?
一瞬違和感を感じたが、ああ彼女は夢見が得意だとだいふくくんが教えてくれていたのを忘れてました。そこまで、正確に見えるものなんですね……。
……魔女の薬作りを見えるなどなかなか体験できることではないですし……。
「ぜひ、見させてください」
私がそう言えば、星の魔女がほんの少しの間だけ驚いたような顔を見せたのです。
私がこの店に来てから一度も顔色を変えることはなかったのに……、私何かおかしなことを言ったんでしょうかね?




