夢を食う烏
この街は、お菓子の街だ。
甘い、しょっぱい、辛い、酸っぱい、なんでも御座れ。至る所に散乱している味覚は私をどこまでも満足させてくれる代物である。
この街は、何不自由ない街だ。
雨を凌ごうとすれば屋根があり、強風に煽られない為には地下に続く階段がある。
この街は、バイキングの街だ。
お菓子の国だと思っているとそこには果物や動物の肉までも落ちている。何でも御座れなバイキングである。
この街は、飽きない街だ。
アトラクションには事欠かない。ビルとビルのすきまを迷路のように見立てて遊んでいたり、人間様観察をしたり、何故か薄くなってしまった人間様の頭へ糞を命中させたりする。これが以外と難しいのだ。
この街は、征服欲をかき立てられる街だ。
人間様は我々との知恵比べをしているようだ。どうやったら我々をつかまえられるか試行錯誤している。だが、人間様がこしらえた仕掛けでは我々を捕まえる事は無理だろう。そして我々は人間様の知能を甘く見ている。もしかすると、この世を我が物顔で歩いている人間様を征服する日も近いのではないかと思われる。
この街は、よくとけ込める街だ。
人間様が何を好き好んで我々の糞と同じような色合いの街並みに仕立てたのかは、未だに理解出来ないままであるが、それによって我々の糞はビルやコンクリートと同化しどこに糞をしても気にならなくなってしまった。そして、黒を好む人間様に我々が近づいても何だか妙に溶け込んでしまうのだ。それは我々が愛する黒という色を人間様が真似するからに違いない。ただ一つ違うのは、我々は黒という色に誇りを持っているが、人間様は黒という色に埃が付く事を嫌う。そのくせ黒を着ていると何も考えなくて良いから楽だなどと言う。たまに埃や猫の毛を粘着質の多いテープで取れば良いだけの話だと。
この街は、障害物が多い街だ。
かなり高くまで飛ばなければ、我々に自由はない。地上には人間様にとって必要なものが溢れかえっているからだ。我々にとってはただのゴミなのだが。
この街は、卑猥な街だ。
女は肌をみせびらかし、男は目をギラギラさせ女を品定めしている。その間に私は佇み、欲望に固められた人間様の行動を逐一追っていると、決まって朝食を吐き出しそうになってしまうのだ。
この街は、歩く生肉の街だ
どこもかしこも肉の行列である。皮膚の下に隠された甘く艶かしい肉は、私を花園へと誘い出し血液のシャワーを浴びる事になる。そして私は不自由になった身体を弄び、フラフラと車に轢かれそうになる。スーパーは毎日肉の大安売りをしているし、焼肉屋はどこも低価格競争で大忙しだ。
この街は、ブラックの街だ。
いつかそう声高々に叫んでみたい。我々のものだ!と人間様の頭上から糞を落としながら、地球を真っ黒に染めてみたいものだ。