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Run away!3

嘘をついても許される日。

作者: 貴幸

こんな嘘があればいいのに。

エイプリルフールに関わりなんて、ある日が来るとは思わなかった。



「ハルト!起きてハルト!」


「起きない、眠たい、めんどくさい。」


まだ起きる時間じゃない。

…誰が起こしに?


「は!?」


俺は飛び起き上がる。


「わっ」


目の前に懐かしいその姿がうつった。

あまりに近くて目が飛び出しそうになった。


「……サエ?」


「ハルト!!!久しぶり!!!」


抱きつかれる。

その懐かしい匂いに胸がしまるのを感じる。


「何…何で…」


心臓の鼓動の早さに自分自身が戸惑ってしまっているみたいだ。


「だって私が死んだ事実嘘なんだもん。」


「…は?」


嘘も何も、俺が目の前でサエがバラバラにされるのを見た。

意味がわからない。

しかしその目の前にいるサエは俺をさらにきつく抱きしめてくる。

本物じゃないとはわかっていてもどうにも離せれない。


「そりよりさ、ハルト、やっとまた会えたの、思いっきり話したいし、遊びたいし、話したいし、出かけたいし、走りたいし、あとね!」


「落ち着け、とりあえずはなれろ。」


もしかしたらカナが変装してるのか?

いや、匂いまで同じにする事なんてできないだろ。

…なんで俺は匂いまで覚えてるんだ。


「いやだよ、せっかくハルトとまた会うことが出来たんだもん、離したくない。」


「それは俺も同じだけど…。」


暖かい。

なんとなくこの夢みたいな時間に涙が出そうになり、目頭が熱くなっている事を感じた。


「ハルト、笑って?ほら。」


そう言うと頬にそっと口をつけられた。


「!?!?!?」


触れられた所が異常すぎるほどに熱くなる。

い、今サエは何をしたんだ!?


「何よ、照れちゃって。口にして欲しかった?」


「バカ!何いきなりしてきてんだよ!」


「だってハルト私の事好きなんでしょ?」


思考が固まる。

こいつ、いつの話をしているんだ!?

なんで覚えてるんだ!忘れろ!

いや…でもサエも…俺の事…


「そ、そうだよ…悪いかよ…」


「嬉しい!私もハルトのこと好きよ?」


面と向かって言われると困る。

確かめるように口を合わせた。

サエの表情が昔より、大人びて見える。

成長でもしたのだろうか?

死んで病気という概念がなくなったのか?

そんなサエに戸惑う。

どう相手をすればいいのやら。


「別にいつも通りでいいじゃない、どう?胸は大きくなったかな。」


「お前考えてることわかるのかよ…」


俺の手を掴みその手を胸へとよせた。

柔らかい感触が俺を襲う。

大きくはなっていないがそれ以上にサエの無防備さに驚く。

襲われたいのか!?

今なら俺はなんだってできるぞ!?


「別に襲ってくれても良いよ、ほら。」


首の後ろに手をまわされる。

首筋をなぞられてぞわぞわとしてしまった。


「…ほらじゃない。」


何がしたいんだ、俺の心臓が破裂する。


「…ハルト大きくなったね、でもピアスはまだ開いてる」


「穴の内側とかどうなってるんだろ…」


「エグいとこ見るなよ。」


こんな、他愛のない会話をしていていいのか?


「サエ、親には会わなくていいのかよ。」


「嫌だなあ、ハルト。私を研究所や売ったのはその親よ?」


「は?」


突然突きつけられる事実に愕然とする。

一気に現実に引き戻された。

病院が売ったんじゃないのかよ。


「病院じゃないよ、無駄に金のかかる我が子を諦めて病気の解明、そう、将来の為に売られたのよ。」


「…って言うのは嘘で面倒です無駄に金のかかる我が子を諦めてお金にして、良い理由も一石二鳥…。」


サエは俺の胸に顔をうずめた。

サエは本当に笑顔以外の表情を見せたがらない。

今だってそうだ、涙で服が濡れてる。


「サエ、笑えよ。」


「そうだね、ハルトに会えたのに。」


「顔見せろって。」


「いや…。」


身体を持ち上げ、身体全体を抱きしめる。


「この方が落ち着く。」


「ハルト…」


今なら全部受け止めてやるから。

さっきまであたたかく感じていたサエの身体が、冷たい事に気づいた。

いや、気のせいだ。

これに気づいてはいけないんだ、きっと。

落ち着けと自分に言い聞かせる。

大丈夫、そうだ、死んだなんて嘘だ。

だって今日はエイプリルフールなんだ、死んだ事なんて嘘なんだ。


「嘘だよ。」


ほら…。

サエは俺からはなれ、俺の手を握った。

悲しそうな、笑顔で。


「生きてるわけないじゃん、嘘だよ、嘘。今日あった事は全部嘘。」


「やめろ、サエ。」


「ハルトだって見たでしょ?私がこの世の物じゃなくなるところを。私が、真っ赤な血で染まるのを。ハルトの目みたいに…真っ赤に…」


「サエ、もうやめろ、何も言うな、今言ってる事だって嘘だろ?」


俺もサエも何かを察してしまった。

…別れの時というものを。


「俺、サエにまた会えて本当に良かった。ありがとう、サエ。」


「私も。」


ダメだ、泣きそう。


「ハルト、笑って、私また涙で別れるのは嫌。」


「…そうだよな。」


精一杯、笑ってみせる。

それが下手な笑顔だとしても。


「ハルト、大好き、大好きだよ。」


「俺も好き、大好きだ。サエ、さよなら、またきっと会えるって信じてるから。」



「…信じてるから。」






びっくりするくらい、部屋が静まりかえった。


「笑えるわけ…ないだろ…」


涙の粒がボタボタとシーツに落ちる。


「ダメだなあ、俺。」


こんな嘘、無ければいいのに。

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