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一人だけでいい
私は貴方のものだから。
貴方も私のものになってくれますか。
貴方の胸に手を寄せる。
その鼓動ひとつ取り零さずに、私のものになったらいいのに。
「ここにいる」
ぼつりと呟いた言葉は、貴方の胸に当たって砕けた。
「うん……?」
眠たげな様子に、私はくすりと笑った。
寝起きは幼いところ、普段は大人っぽいところ。全部私のもの。
「私のもの」
「うん……起きるの?」
寝ぼけた掠れ声は空気に溶ける。
私と貴方を隔てる空間は、二人の言葉が混じって。
「まだ早いから、寝ていいよ」
「ん」
目を閉じる。柔らかい髪を撫でた。
大型犬みたいにすり寄ってきて、可愛くて笑みが零れる。
「大好き」
ぎゅっと抱き締められる。
大人しく抱き枕にされておく。
「おやすみ」
大好き。
だから、私以外の貴方のことが好きな人なんて消えればいいのに。
――そんなこと、口に出して言わないけど。
ぐるぐる、どろどろ。黒くて苦い、醜い気持ちが私の中に溜まっていく。