糸
糸を引く。
私の目の前を横切る糸は、何を隔てているの?
ベッドの縁に腰掛ける。携帯の光だけが部屋に広がる。
乾いた部屋の空気に、喉の奥がへばりつく。
私はベッドサイドの水をとった。蓋を開けて、流し込む。
携帯の画面に目をやると、開いたままの返信画面。
いつから、とか考えたらきりがなくて。
どうして、とか考えても仕方がなくて。
たったすこし跨げばいいだけの隔たりも、何故か越えられない。
私から壊せばいいのに、壊せない。切れない糸が怖くて、私は逃げ出すんだ。
貴方は絶対に自分から乗り越えようとはしないから、私が動かなきゃ良くも悪くも変わらない。
電話しようと、電話帳を開いた。少し画面に触るだけなのに、指がそれ以上降りなくて。
「意気地無し」
ぽつり、と呟く。
返信画面を再び開いても、何を書いていいかわからなくて止まる。
もうてっぺんはとっくに過ぎていた。
こんな時間に、そう思うと踏ん切りがつかなくて、携帯を脇に退けた。
また出来なくて、この関係をずるずる引きずるんだ。
「別れよう」のたった一言なのに。
今まで以上に喉が渇いて、また水を飲む。
水がすっと消えていくように、思い出も、情も、全部消えていけばいいのに。
連絡をとるのは諦めた私は、布団にくるまりながら溜め息をつく。
また明日、明日こそ。
手繰り寄せても変わらない糸、私が切らなければ。
指で切るフリしても、勿論切れない。




