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My Little Rainbow  作者: kanoon
21/32

振袖

鞠が転がる。

金の模様がくるくる。

草履を僅かに鳴らして鞠を拾いに。

手のひらより少し大きめの丸を持ち上げ、顔を上げる。

顔の見えない誰かが笑う。

私も微笑み返す。

「所作が綺麗ね」「品がある」

これまで何度も言われてきた言葉の通りに、私はいつも綺麗を心掛ける。

会釈をすれば、誰かも返す。


「寒いですね」


よそ行きの細い声。

誰かは私の声を聞いて、少しびっくりして。

何故だろう、分からないけど。

安心したように頷いた。


寒いですね。


聞いたことのあるような、ないような。

ぐちゃぐちゃに混ぜられた記憶の中の、作られた声が響く。

すり足で、数歩近付く。

けれども誰かには届かない。

困ったように笑った誰かは、首を横に振った。


「そっちにはいけませんか」


こくりと頷く。

このままで、と示されたのでそうすることにした。

冷たい風が二人を包んで、私は肩を竦めた。


真紅が似合いますね。


マーブルの声を聞いて、私は体を見る。

赤の鮮やかな振袖には、桜のはなびらが散りばめられていて。

照れ隠しに笑ったら、誰かは嬉しそうにしていた。


『ーー!』


私を呼ぶ声がする。

周りを見渡しても見つからない。

何となく仕掛けは分かっていた。


「あの、」


ほんの少しの出逢いなのに、何故か心地よく思ったこの空間を壊せなくて。

私は戸惑いながら誰かに声をかけた。


お行きなさい。


微かに混じる、ノイズ。

びりり、と音が揺れた。

だけど私は動けなかった。


行きなさい、ーー。


叱咤するような口調。

私は小さく頷いて、唇を噛んだ。

手元の、着物と同じ色合いの鞠を見る。

そして誰かを見やる。

ころり、と音もなく鞠が手から離れる。

誰かの足元に、私は越えられない壁を越えて辿り着く。


「あげます」


ありがとう。


笑った誰かはしゃがんでからそれを拾った。

それを見届けた私は、つま先をくるりと回す。

さらさらと足を運ぶ。

数歩進んで振り返ると、誰かは手をあげて。


貴女は自慢の……


風が誰かを隠していた影を、一瞬だけ攫った。

瞬きをすると、そこは元の場所で。

誰かは居なくて。


「ああ、なんてことだろう」


姿が分かった今、耳に残るのはその通りの声。

そして幸せそうに、けれど泣きそうだった顔を思い出して、私も泣きそうになるのだった。

この前、成人式の前撮りをしたので。

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