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車窓
揺れる、揺れる。
私の目は何を映すの?ガラス越しに見える青空が眩しい。
緑が広がる。記憶とダブる。
いつとか、どこでとか、覚えてるわけじゃなくて。同じわけでもなくて。
だけど既視感。
待ち望んだ景色に、胸が踊る。
逃げ出した私を待っていてくれる世界。
狭いのに自由なこの中で、忘れていった数々のものを取り戻せるかな。
揺れる、揺れる。
目まぐるしく変わる景色が、徐々に安定してくる。
乗り物酔いしそうな早さで過ぎていった景色はもう私の前には現れない。
携帯のバイブレーションが響く。
ごめんね、私疲れちゃった。
返信もせず、会話ツールを閉じる。
すぐに貴方の声を聞きたくなるだろう。貴方に会いたくなるだろう。
でも暫くは、何も考えずに。
ゆったりとした時間の流れに身を任せて。
揺れて、止まる。
席から立ち上がる。
少しの荷物を持って、1回だけ外を見て出口に向かう。
溝を飛び越え、別世界に来たようだ。
空気を大きく吸う。
青々とした、爽やかな匂い。
キャスターを転がして、目的地に。
後ろを振り向けば、現実行きの電車。
改札を出れば、車窓から見えた桃源郷。
ただ逃げたいだけ。




