愛を教える人、色を作る人
――もし世界から色が消えたらどうする?
なんて、柄にも無く君は聞いた。
リアリストな君は、他の人に尋ねられたら「馬鹿じゃないの」と突っぱねそうだけど。
――どうして?
私は首を傾げた。見つめた目は思ったよりも真剣さを宿していた。
――なんとなく思っただけだけど。いいから答えて。
なんて、ちょっとだけ寂しさを覚える口調で言う。そんな風に言わなくてもいいじゃない、って言いたくなった。
――何もなくなる。
考えられるような事柄じゃない、けど漠然と君が居なくなることは分かって、悲しくなった。
――まあ、そうなんだけど。
不満そうな、お気に召さない答えだったのだろうか、むっとした表情に変わる。
――じゃあ君はどうするの?
何も考えてなさそうで、人一倍気を遣う君はどう思うんだろうか。
――どうもしないよ。色がなくなったところで、何も変わらない。
やけに難しく考えるね、と小さく息を吐いた。
今の君は時々ある、壊れそうな冷たい色をしている。この子は何を考えているんだろうってゾッとした。
――ただ、さ。
――ただ?
――お前が居なくならなきゃいいかな、って。
そう呟いて、寂しそうに笑って。目の奥は消えかけの炎が燻っていて、声は絶対零度ともとれる冷たさで。
私より幾らも大きい君の背中に手を回した。
――そうだね。それでいいんじゃないかな。
嬉しかったよ、そう言ってくれて。そう伝えれば、じわりと肩に染みる。
泣いていいよ、と背中を軽く叩いて促せば、我慢していたものが決壊したように泣き出した。
――いなくならないよ。
私はいつだってそうやって嘘を吐いてきたけど。
――大丈夫。
君はそんなに弱くないってことも知ってるし。
――ずっと一緒にいようね。
でも、君から貰う愛は私の知らないくらい綺麗なものだから。
――愛してる。
私の拙い愛でよければ、君にあげるよ。
いなくならないでね。
そう告げられた幼い日の私は、いとも容易くそれを裏切る。
だけどその行為が心苦しくて、ずっと後悔してきた。
少しだけあの人に似ていた君は、あの人の愛を取り零すような私の小さな手に、有り余るだけの愛をくれた。
愛を教えてくれた君に、今度は私が君に色を作ってあげよう。




