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鍵
その手に押し付けたのは、小さな鍵。
それはただ唯一の用途のためのもので、どの鍵穴にも当てはまらない。
それは閉じるためのものであって、開けるものではなかったから。
そんな私の大切なものを君に託した。
君の細い指は鍵を結ぶ革紐に絡む。
「あげる」
私が微笑むと、君は少し困ったように笑顔を見せる。
「これは?」
「私の宝物」
透かすように掲げ眺める。少しお洒落なアンティークのそれ。鍵の先は複雑で、よく見なくても普通のとは違うと分かるもの。
「これを俺に?」
うん。そう頷けば、優しい君は受け取ってくれた。
迷惑なのは分かってる。でもこれはどうしても君に持っていてほしくて。大事にしてね、なんて作ったような笑いを浮かべて言った。
「ありがとう」
私の意図に気付かないまま、君は応えた。
どうか君がこの鍵の正体に気付きませんように。でもこの鍵で傷付きますように。
君はなんてことないかもしれないけど、私にとっては身体の一部。
存在を忘れてもいいけど、持っていて欲しいの。
だってその鍵は、私の君への恋心をしまった鍵だから。




