祝福されなかった子
小さな背中が目に入った。
「どうしたの?」
笑顔で問いかければ、しゃがんでいた君はそっと笑った。
普段の笑顔とは違う、声を出さずに静かに。
「ほら見て」
ぱっと手のひらを広げると、色とりどりの花びらがあった。
白い花びらをつかむ。甘い匂いがした。
でもそれは造花で、君は少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「ツクリモノだけど、ホンモノみたいでしょ?」
青、赤、黄……。幾つかの色の花びら。それでも同じ色は一つも無かった。
男性にしては小さな手に敷き詰められたそれを、私の鼻先に持ってくる。
ふんわりと香る、どこか懐かしい匂い。
花びらを飛ばさない程度の風が吹いて、その匂いを辺りに運んだ。
彼はその匂いに紛れ込ませるように、ぽつりと呟いた。
「青いバラは"奇跡""祝福"なんて言うけど、そんなことない」
青い花びらをつまむ。彼は地面にほとりと落した。
そして私を見上げて言う。
「あっちゃいけないものなんだよ」
その時、強い風が吹いた。青以外の花びらが散っていく。
彼は青の花びらを再びつまみ上げた。
「こうやって逃げていく」
手元に残るのは青と、私の持つ白だけ。
私は白の花びらをそっと彼の手の上に乗せた。
「私は逃げないよ」
君は違和感しかない大人びた顔を見せた。
周りに引っ張った線は、自己防衛の壁だった。
貼り付けた笑顔も、すべては自分の為だった。
それがいつの間にか重荷になって、自分を苦しめていた。
だってこれは、皆のために。
そんな言い訳も虹に溶けた。
作り上げたキャラもいとも容易く壊された。
ねえ、いかないで。
一人、また一人、傍から消えていく。
鬱陶しいという目が包む。言葉がもう聞こえない。
手のひらを返したように去っていく人影。
怖いとも伝えられず、笑顔でいるしかなかった日々。
ただ心の中で叫んだ。
小さなSOSは届かない。
一番信頼していた人すら気づけなかった。
唯一縋ったのに、その人は手を優しく解いて笑った。
口が何かを象ろうとする。
お願い、言わないで。「いらない」なんて言わないで。
彼は赤を塗りたくって、世界から青を消した。
「これでいいんだ」と笑って、また日常が動き出した。
それが嫌で私は、私の白い花びらにちょっとだけ青をのせた。
何を言われてたって、私は君が好きだよ。




