night flight
馬鹿だなあ。
二歩後ろに下がって君をそっと見る。
なんでもない、ってにっこり皆に同じ笑顔を向ける。
転んで出来た傷口から入り込んだのは、誰かが落した「絶望」と「後悔」と。
その足元は街灯の光も届かなくて真っ暗。
中には沢山のものが溜まって膿んでいく。
その前に切り捨てなよと告げたって、君は首を横に振るばかり。
大丈夫、って普段通りのトーンで言う。
馬鹿だなあ。
声に出す。
何か言った?
君は振り向いた。
私はううんと言って黙り込む。
言いたいこと全部飲み込んだ私も、君と同じなんだろう。
気の利いた言葉なんて思いつかないくらいに馬鹿だから、私は何も言わない。
足元に転がってきた小石を、少し不貞腐れた顔で蹴とばした。
もう二歩下がって君を見る。
周りの人たちがボロボロと離れて、毀れて、消えていく感覚。
胸をおさえた私は、何を言いたいんだろう。
胸をおさえた君は、何を言いたいんだろう。
私の「未来」が、音を立てて割れた気がした。
さよなら、って言葉はきっとすぐそこ。
じゃあ、ここで。
私はみんなに声をかける。
またね、とそれぞれの表情で返答がくる。
君の顔を盗み見た。
何考えてるか分からない、読めない。
私も君そっくりに作った笑顔で。
ばいばい。
最後に見た君は、声の出ない中で笑っていた。
「night flight」
君を覆い隠すすべてが夜の街に消えていく。
ネオンは影を色濃くして、本物も贋物も分からなくして。
味方なんて、どこにもいない。
皆自分が大切なだけ。




