バニラアイス
なんでこんなときに思い出すのかな。
僕は一人歩きながら、前髪を弄った。
少し日差しが強かったからかもしれない。
どちらかといえばアウトドア派だと話していたからかもしれない。
でも、あの日とは全く違う。
場所も、季節も、同伴者も。
匂いや空気に少したりも被ることなんてなかった。
ただ、あの時には知りもしなかった道を当たり前のように帰っていただけ。
この瞬間まで忘れて、ただの思い出としてしまっていたはずなのに。
長い道のり。
狭い土手沿いの道。
川の微かな匂い。
当時好きだった石集め。
突っ込んでいった赤トンボの群れ。
寂れたコンビニと市場。
当時流行った吸うタイプのバニラのアイス。
暑くて頬に当てていたら汗でしょっぱくなったパッケージ。
馬鹿にした笑い。
楽しげな声。
絶えない会話。
名前も知らない場所。
宛のない旅。
帰らない人。
戻らない現実。
知ってる、僕は過去を美化しすぎなんだ。
でもこんなに儚くて、寂しくて、でも綺麗で大切な思い出なんて、他に知らない。
泣きたくなるけど、誰にも言えない僕だけの過去。
それが僕は大切で、とても憎い。
いつまでも捕らわれ続けている僕が、とんでもなく馬鹿で可哀想で悲しいと思う。
それなのに今こうして必死になって思い出して、一つも忘れていないか確認してるなんて。
泣きたくて、仕方がなかった。




