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四話 帰る場所

太陽に嫌われ、血を渇望する肉体を嫌悪し、忌々しき力を呪った。


英雄と気取りの幼い心は、一瞬にして醜い被害者の心理に摩り替わった。


家族を遠ざけ、血を憎み、すべてから逃げた。


逃げて逃げて逃げて、逃げついた先がここだった...。




ふらりふらりと、巡回をしているお巡りさんに咎められない程度に徘徊してから家まで帰ってくる。

川原とかかれた標識、戸口の上で優しい明かりがともり俺を出向かえる。

お帰りと言っているようなその光に頬を軽く緩めてから。


「ただいま...」


と誰かに聞こえるでもない呟きを漏らしてから、静かに扉をあける。

しんと静まり返った廊下、リビングからもれる細い光と微かなテレビの音声だけが家主の所在を主張している。


「起きているのか?珍しいな...」


無表情真面目を一貫している愛莉が起きているのは珍しい。

時刻はすでに日にちをまたいでいる、面白い番組でもやっていたのだろうか。

と考えながらリビングの扉を開けると、淡々とニュース番組を垂れ流すテレビと、ソファの上で横になって目を瞑っている愛莉の姿が見えた。


「眠っているのか?起きろ、風邪をひくぞ」


ソファの横に立って呼びかけながら軽く肩を叩く。

う~ん、起きない。

身じろぎはするのだが、一向に目を覚ます気配は無い。

といってもこのままにしておけば間違いなく風邪を引くだろう、だいぶ温かくはなってきたが季節的にも夜はまだまだ寒い、寝冷えでもされては大変だ...。


「はあ、しゃ~ないか」


片手に持っていた、コンビニの袋をテーブルの上に置いてから、愛利の首と膝裏に優しく両手を差し込んで、よっと持ち上げる。

所謂、お姫様抱っこという奴だ、今目が醒められたら死ねるなコレ...。

という、最悪の想像は一向に目を覚まさない愛莉のおかげで回避できたのだが。


軽いな...、同じモノを食べているはずなのだが、どんな身体の構造になっているのだろう。

羽根でもついているのだろうか?

しかも、何かいい匂いがするし柔らかい。


と言った感じに、滅多に触れる事の無い女性の身体にドギマギする羽目になった。

平常心平常心と口ずさんでから、起こさないよう慎重に愛莉の部屋のベットまで運んで行く。


「よいしょっと......、はあ~」


ベットに乗せて、そのままベットの横にへたり込んでしまった。

精神的にも肉体的にも影と戦ったときよりも大きい倦怠感に悩まされながら、愛利の寝顔を覗きこむ。

いつもの無表情と違い年相応のあどけない寝顔だ、端正な顔筋とさらさらの髪の毛。


うわ~、まつげ長いな...


年齢の割に少し幼い体つきと、健康的な程度に白い肌を妖しく彩る赤い血管っが...。

血管がケッカンガ......血ガ......。

ジッと愛莉の首元を見つめる、其処に噛み突き歯を立てて血を吸いだして......。


其処まで考えて、自分の思考を振り払うようにあわてて部屋を出る。

乱暴に扉を閉めてしまったが、愛莉が起きてしまったかもしれないと考える余裕も無く逃げるようにリビングを目指す。

距離にして数十歩の距離が今はひどく遠く感じた。

何とか身体を引きずるようにリビングに駆け込んで思いっきり扉を閉めてから、そのまま床にズルズルとへたり込んだ。


ひどく、喉が渇いていた......。




赤ちゃんに飲ませる人間の母乳は血液に近い成分らしい。

だからという訳ではないのだろうが、俺はこの忌々しい力を行使した後はいつも何故か牛乳が飲みたくなる。

それが、川原家を万年牛乳欠乏状態に追い込んでいる原因であるため、俺が出かける時はいつも牛乳を買ってくるのを頼まれるのが日課であった。


とりあえず渇きを癒すために、牛乳をラッパ飲みする、ゴクゴクゴクと半分ぐらい牛乳パックに納められた乳白液の体積を減らして、ようやく気分が落ち着いてきた。


『――犯人は依然不明、――被害者は行方不明の――――以上、――市から――』


テレビから響くニュースの音を聞き流しながら、一つため息を吐いてから全身を弛緩させるようにして、身体の体勢をそのままソファに預けた。

半分ソファに埋まるような状態で、テレビをボーっと眺める。

いつものスタイル。

このまま、日の出まで何と無くテレビを眺め続ける。






「――以上、無堂市からお伝えいたしました」



何時間こうしていたのだろうか、空が白み始めている。

朝の早い人間ならそろそろ動き出す時間だろうか......。


朝ごはんでも作るか...。


お湯をコトコト、お米はざっと水洗いをして炊飯器に入れてポチッとな。

かつお節をお湯にどば~、サッと水揚げして醤油を一滴。

油揚げとジャガイモを輪切りにして放りこんでコトコト。

残ったジャガイモをゴリゴリ、塩と胡椒をパラリ、輪切りしたキュウリそっと混ぜ込んで完成?


丁度いいタイミングで鳴った炊飯器のご飯を混ぜてから、玄関に新聞を取りに行く。


一面はと、フムフムほとんどニュースで見たな...、目新しい情報は無しと。

...さて、そろそろ二人を起こして朝飯にするかな。


――時刻はそろそろ身体にきつい時間になっていた。



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