表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

二話 夜を歩くもの

いつから?そんな事は知らない、あれはずっと其処にいた。

最初から、底に生きていた、闇の底で俺達を見ていた――――――。


もしかしたら、アレらも日の光にあこがれただけなのかもしれない、日の下でまどろんで見たかっただけなのかもしれない、ただ、俺達と相容れる事は決して無い、それだけの話しだ―――――。




住宅街の中に立ち並ぶ家の一軒、河原と表札が掛けられた玄関の扉をくぐって外に出ると、空はすっかり月と星に支配され、それ以外の光と言えば、申し訳程度の街灯が並ぶ住宅街の光景が広がっていた。

時期的に言えば、まだ少し張り詰めたような冷たい空気が残る季節だ、吐き出す息がほのかに白い雲になって立ち上って行くのを何と無く眺めながら、街灯の寂しい光の下を歩いていく。


時折、遠くに聞こえる警察のサイレンをBGMに、徘徊半分お使い半分くらいの気持ちで住宅街をぬけ、駅前商店街のメインストリートを横目に通り過ぎる。

そのまま、数本通りを越えると、お目当てのコンビニが見えてきた、この時間、街の中で一番の盛り上がりを見せ始める繁華街の端、通りの角に位置する二十四時間営業のリース契約で有名なコンビニの自動ドアをくぐる。


「いらっしゃいませ~」


少し眠たげな挨拶がカウンターの奥からかかる。

その声を聞き流しながら、俺のほかに客のいない店のなかを、奥にある飲み物のコーナーを目指して歩き出す。

その俺の背中に、先ほど聞こえた気だるげな声が飛んできた。


「お客さん~、何を買いに参りましたん~」


その声は、予想外に店の中に響きながら俺の耳に届いた。

後ろを振り向くと、さほどと変わらずカウンターの後ろには気だるげな定員が立っている。


「...情報屋、何かうまい話は入っているのか...」


自分の声が思っているより低く出た気がした。

名前も知らないこの気だるそうな店員、まあ、聞いたとしても覚える事はできない気がするが、こいつは多分そういう奴なのだろうから。

こいつが、時たま今のように話しかけてくるときだけ、俺はこいつの事を情報屋と呼んでいた。

まあ、家がある住宅街にもコンビニは存在するのだが、こいつが時たま話しかけてくるからワザワザここまで買い物に来るわけだし。

いままで、こいつの情報がはずれだった事も無い。


「ん~、お客さん、警察のサイレンは聞こえましたやろ、今日当たり誰か襲われたんとちゃいますかな~」


変に間延びした話し方と、虚ろな瞳から紡がれる予言。

何度も聞いてはいるが、場所が占い屋敷や路地裏などではなく明るいコンビニなのがあいまって、なんともシュールな光景になっている気がする。


「種別は?」


まあ、今必要なのは自分の価値観などではなく適切な情報だ。

気分的な違和感など無視して構わない。


「影にもぐる形無き闇、影種えいしゅのようですね~、手際としても初犯じゃないようです~


まだ、昇華はしていまへんが影種にしては特性が少々厄介ですみたいですね~


まあ、気をつけてください」


最後だけ真剣実を帯びた声を聞きながら、すでに歩き出していた俺はそのまま店を出る。

この店員が、なぜ其処まで知っているかは気にしない。

こいつが俺の敵ならばそのときは喰らえばいいだけの話でもあるし、今協力してくれるならそれで十分だからだ。


そして、俺はコンビニを出て夜の街に...。


「あ、牛乳買うの忘れてた...」




「まいど、ありがとうございました~」


牛乳を買ってからコンビニから出ると、繁華街の様子が若干だがいつもの喧騒が成りをひそめている気がした。

先ほどまで外に出ていた売り子達は何かを感じたのか店に戻っていき、酔った様子で歩いていたサラリーマン達も寄り道から帰宅へと歩く方向を変えているようだ。


本当、この街の人たちは...。


「察しがいいな......」


まるで、舞台上で引いていく一般人役のように舞台を整え始めた人々に苦笑してから。

俺は、人が引き急速に閑散とし始めた街中を、特に当ても無く歩き出した。




来た道を当ても無く歩いて商店街まで戻ってくる、そのまま自宅の方には向かわず、夜のシャッター街となった商店街の中にふらりと歩く方向を変えた。

昼間はなかなか繁盛しているらしい商店街の中を、上空にかかったガラスのアーチ、其処に反射する天空のプラネタリウムの様にも見えるメインストリートを街灯のスポットライトに照らされながら歩いていく。


空はこんなに綺麗なのに、奴ら無粋にも光に群がってくる...。

人がともした光に、より深くなった影の中を。

...いや、だからこそ奴らはは光にあこがれ群がってくるのか?


闇しか持たぬお前達だからこそ...。

なお、まぶしく見えるのかもしれないな。



「なあ、影よ...」



視界の端、ちょうど魚屋と八百屋の路地裏から、こちらを伺うかのようにチラチラと染み出す黒い影。

まだ、名も無いそれをゆっくりと見据える。



「お前達にも、憧れとかあるのか?」



虚無の塊に、答えのあるはずも無い問いをこぼしてから。


俺は静かに駆け出した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ