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一話 闇でしか生きられぬもの

黄昏を過ぎ、世界を闇が覆う。

人あらざるものしか生きられぬ、闇の時。


昔の偉人が、たとえ闇を照らす明かりを発明したとしても、やはり夜の世界は、人にとってまだ生き辛くどこか人を拒むものであった。


いやそれどころか、光が闇を照らそうとした分、その光によって生まれた影はいっそう重く世界を塗りつぶしているのかもしれない。


そしてまた、その闇のなかでしか生きれない者もいるわけで...―――――。




「......きて、起きて明人、もう夕方だよ」


誰かに、優しくゆすぶられる感覚に意識を覚醒させる。

部屋のライトに目を焼かれながら、ゆっくりとまぶたを持ち上げると、いつもと同じ無表情な少女が、俺を揺り動かしているのが見えた。


「愛莉...後、五分と一時間ほど眠らせてくれ...」


俺の気だるげな言葉を聞くと、少し怒ったような表情をする愛莉が見えた、といっても目じりを一ミリほど吊り上げただけであり、俺にしても、それが彼女の怒りのサインだというのに気がついたのは最近の話しだが...。


「駄目...、もうすぐ姉さんが帰ってくる、帰ってきて明人が晩御飯の席にいなかったら、姉さん悲しい顔する」


無表情に淡々と、でも、付き合いのあるものしかわからない怒りの表情を浮かべながら、拗ねた様に喋る愛莉の表情を見ていると、何か申し訳ない気持ちになってきた...。

それに、真緒姉さんが帰ってくるなら、確かに起きていたほうが良いだろう。

あの人、普段は仕事が忙しいらしくめったに晩御飯までに帰ってくることは無いのだが、時たま早く帰ってくると皆でご飯を食べたがるのだ。

まあ、居候という立場でもあることだし、ここは素直に愛利の言おうとおりにしておいたほうがよさそうだ。

真緒姉さんの機嫌を損ねるとめんどくさいしな、本気で日の当たる所・・・・・・に放り出されかねない。


「わかった、起きるから...、真緒姉さんを持ち出すのは勘弁してくれ、...殺されかねない」


俺が寝転がっていた、ベットに上半身を起こしてから、俺を起こすためにベットの横に座っていた愛莉の頭をポンポンと撫でる。

少しだけ、猫のような気持ちのいい髪触りを堪能してから、よいしょっと、勢いをつけてベットから起き上がる。


「さて、ご飯にするか、今日の晩飯はなんだ愛莉」


と、俺は開け放たれた部屋の扉の向こうから漂ってくるいい匂いに期待しながら、座っていた愛莉が立ち上がるのに手を貸してから訊ねた。


「いつも通り、味噌汁とホッケの開き」


俺のベットを直していた愛利から返事が帰ってくる。

ふむ、コノ匂いはホッケを焼いた匂いだったか、ぐうぅ~、とお腹と一緒に期待しながらリビングに行くと、其処には愛莉が言っていた通り、味噌汁とホッケの開きが...。


「ただいま~~」


と、俺と同じように匂いにひかれたのか、玄関の扉を勢いよく開けると、この家の大黒柱が帰還の叫びをあげた――――。




この家の大黒柱の愚痴とホッケの開きそして味噌汁をおかずに白米をかっ込んでいく。

やっぱり、愛利の味噌汁はおいしいな。

何か、ホッとするような味がする、なんというか哀愁を感じるというか、いうなら母親の味かな?

俺の母親の味と似ているわけではないのだが、なぜかそんな気がする不思議。


「ちょっと~、明人?聞いてるの~」


突然、その聞きなれた声と共に鼻に違和感が、目をあげると愛利に好奇心を沢山詰め込んで表情を豊かにしたような女性が、俺の鼻先を器用に箸でつまんでいた。

俺の味噌汁についての考察は、そうして大黒柱が絡んできたことによって中断されたようだった。


「やめてください、真緒姉さん」


鼻がとっても痛いです、きゅっといった感じのつまむではなく、ぎりぎりと箸の先端が食い込んでくる気がする。

はっきり言ってかなり痛い。


その後、酒まで入って質の悪くなった真緒姉さんの絡みを三時間ほど、カラカラと笑いながら真緒姉さんが酔いつぶれるまで聞かされる羽目になった。


「はあ、疲れた...」


真緒姉さんを、彼女の部屋に寝かしつけてからリビングに戻ってくると、愛莉が台所でカチャカチャと茶碗洗いしているのが見える。

愛莉はいつも働きものだなと感心しながら、真緒姉さんを寝かしつけてきた事を伝えると、愛利に労われる。


「お疲れ様明人、明人のおかげで姉さんが機嫌いいから助かる」


労われた?のか。

何か厄介ごとを押し付けられているようにも感じられるが、まあ、二人がそれでいいなら良いのだろう。



こんなことが二人の助けになるなら嬉しいことだ、所詮俺は居候なのだから。




愛莉の茶碗洗いを手伝った後、適当な外出服に着替えて外出することにした。


「それじゃあ愛莉、俺は出かけてくるよ」


そう言って玄関の扉を開けると、茶碗洗いを終えてテレビを眺めていた愛莉から俺の背中に声がかけられる。


「いってらっしゃい、あ、帰ってくるとき牛乳買って来て、もう冷蔵庫の在庫切れてるから」


あいよ、とその声に返事をしてから扉を出る。



―――夜の世界、闇の世界へと.........。

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