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かゆみ

作者: いかなるぎすぎすみたねもーしーもねたみすぎすぎるなかい
掲載日:2026/06/18

緑色のカフェで、女は氷を口に含み、スマホをのぞき込む。

電子マネーの決済が奏でる軽快な調子と、店内の背景音楽が、人々の囁きと笑い声との合間合間に、天井や床に反響しては消えていく。


ぼそぼそとした食感の、小麦粉を固めて焼いた、舌触りの粗さが際立つカタカナ横文字の製品を、値段を確かめもせずに購入してしまったが、この普段馴染みのない化学的なフレーバーは、自炊では味わうことのできない経験に見出だせる価値の証明であるならば、高い低い概念など単に個人の納得の範囲に収まることは疑うべくもない。


ストローを包んでいた白い紙が、机に押し当てて中身を引き抜かれると、山と谷が交互に並んだ、規模の小さな細長い提灯ライクの形状でテーブルに転がっている。


アイスラテの上澄みは、濃度の薄い、水っぽさの代表的な層が、低密度で浮遊していて、甘くない割には存在感だけは一丁前なんだと感心しつつ、咥えていたストローをまさに半透明なそこに突き刺す。


軽く息を吐いて、止める。

人いきれを相殺するクーラー全開の店内を、眼球だけ左右に動かして見渡す。

その最中に吸う。

ストローの内壁を濡らして、濁った液が重力に逆らい駆け上ってくる。

冷たい液が口腔に到達する前に、また息を止める。止めたらコップから引き抜かれたストローの端部を指の腹に沈める。


垂直方向にひっくり返すと、咥えていたストロー端部からひとしずくも漏れることなく、アイスラテの上澄みは、ストローの内部に蓄えられたまま動かない。


空気の通り道がなくなったパイプは逆さまにしても中身が落ちることがなくなる。

女がこの仕組みに初めて気がついたのはいつの頃だっただろうか。

カフェにはドーナツを貪り食う子どもが、唇をアイシングでねろねろに光らせながら目を座らせている。

あんな子どもだったような、そうでなかったような、どちらともつかない記憶をなぞっていると、指圧が緩んでストローの先端から液が数滴垂れた。


真っ直ぐに、ストローを包んでいた紙に向かって落ちていったそれらは、またたく間に紙面に吸収されて拡散する。

すると紙はうねうねと、あたかも命を有するかの如く、小気味良くのたうつ。


つづらとでも言えば良いのか、包み紙の圧縮は、アイスラテの上澄みによって開放されていく。

ほんの僅かな時間にも関わらず、こども心を惹きつけて止まないこの一部始終を、大人になっても時折繰り返すことを、女のなかに残っている童心が、成長と呼べるものの非対称性を嘲笑っている気がして、顔のほころびが刹那に凍結する。


待ち合わせの場所として緑色のカフェを指定する理由はとくになかったけれども、改めて考えると、伸びきってしまったストローの包装紙の、あからさまな不可逆性を、オーブンに入れて加熱したら元通りに収縮しまいか、いやしまいな、と独りごちることこそが、ここに足を運んだ事実を目的化している。


既読のつかないメッセージの上に堆積した歴史をスワイプ一つで遡れはしても、涙が画面の上に何滴こぼれ落ちたとしても、その行間は決して活き活きとしないばかりか、あまりの剛直ぶりに、さっきまでの包装紙の物理を、もう一度やり直したくても、飲み終わったアイスラテはストローの新調を求めてはいない。

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