9/20
揺らぐ群衆
黄金のヒーローの声が広場に響く。
「怪物に騙されてはいけません! 少女も操られているのです!」
だが、先ほどの冷たい一言を聞いた者の心には、不安が芽生えていた。
「……今の、聞いたか?」
「なんか……笑ってなかったか?」
ざわめきが広がり、人々の表情は歓喜から動揺へと変わっていく。
「本当に……怪物なのか?」
「でもヒーローが言うなら……」
「いや、見たぞ! 怪物が子供を助けるのを!」
賛否が入り混じり、群衆は二つに割れた。
正義を信じる声と、不信の影がぶつかり合う。
「俺はヒーローを信じる!」
「いや、あれは違う! 本当の怪物は……!」
言葉は次第に怒号に変わり、ついには人々同士が突き飛ばし合いを始めた。
誰が正義で、誰が悪なのか――答えのない混乱だけが膨れ上がっていく。
少女は怯え、黒き男の背にすがった。
「みんな……どうしちゃったの……?」
彼は静かに群衆を見渡す。
その瞳に映るのは、恐怖に支配され、自ら正義を見失った人々の姿だった。
(……これが、“作られた正義”の末路か)
黄金のヒーローは群衆の混乱を見て、薄く笑った。
「さあ……選ぶんだ。私か、怪物か。どちらが正義かを。」
広場は熱と狂気に包まれ、秩序は完全に崩壊していった。




