8/20
剥がれ落ちる仮面
少女の叫びは、広場にいた誰もが聞き逃せなかった。
「ヒーローなのは、この人の方だよ!」
一瞬、空気が凍りつく。
人々の視線が黄金のヒーローに集中する。
そこに初めて――疑念の色が混じった。
「え……でも……」
「怪物じゃない……のか?」
群衆のざわめきが広がり、熱狂は迷いに変わっていく。
「……チッ」
小さく舌打ちが漏れた。
マイクを通したはずの音声ではなく、素の声。
それは近くにいた者だけが聞き取った、不快な響きだった。
ヒーローはすぐに笑顔を作り直し、両手を広げる。
「皆さん、惑わされてはいけません!
怪物は言葉巧みに心を操ります!
少女を騙し、同情を引き、そして……皆さんをも裏切るのです!」
だが、その声はどこか焦りを含んでいた。
完璧な演説のはずなのに、響きは少しずつ濁り始めている。
群衆の中から、不安げな声が漏れた。
「さっき……あの怪物、子供を助けてたよな……?」
「本当に……悪なのか……?」
黄金の仮面の下で、彼の目が一瞬だけ冷たく光る。
笑顔のまま、少女を見下ろし、低く呟いた。
「……君が邪魔をするなら、仕方がないね。」
その瞬間――
誰もが“ヒーロー”に期待していた姿とはまるで違う、獣じみた気配が溢れ出した。
黒き男は、少女を背にかばう。
瞳に宿る光は、もはや迷いのない“正義”そのものだった。




