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たった一人の盾



石を握りしめた群衆が、黒き男へと詰め寄る。

黄金のヒーローが声を張り上げる。


「怪物を倒せ! 皆さんの正義の力を、今こそ見せるのです!」


その言葉に煽られ、群衆の目は狂気に染まっていった。

“悪”を前にしていると信じることで、自らの行為を正義だと思い込んでいた。


石が振り上げられる――その時。


「やめて!!」


甲高い声が広場に響き渡った。

黒き男の前に、小さな身体が立ちふさがる。


少女だった。


「この人は怪物なんかじゃない!

私を助けてくれたの! 本当は……本当は誰よりも優しいの!」


群衆は戸惑い、石を握った手を止めた。

だが、ヒーローは表情を崩さない。

むしろ微笑を深め、少女に歩み寄った。


「……騙されているんだよ。

その怪物は巧みに人の心を惑わせる。だから君を守るために、私が代わりに――」


少女は首を振り、涙を流しながら叫んだ。


「違う! 私の目で見たの! この人は悪くない!

ヒーローなのは……この人の方だよ!」


ざわめきが群衆を揺らす。

誰もが「ヒーロー」と呼んできた存在と、「怪物」とされた男。

その価値観が、少女の一言でひっくり返されようとしていた。


黒き男は静かに少女を見下ろし、そっと背中に手を添える。


(……ありがとう。君がそう言ってくれるなら、俺は“悪”で構わない)


その瞳には、確かな正義の光が宿っていた。






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