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小さな証人
少女は彼の腕に抱かれたまま、震える声で呟いた。
「……ありがとう、おじさん。」
その一言に、彼は一瞬だけ息を呑む。
“怪物”と罵られ続けた彼にとって、礼を言われるなどあり得ないことだった。
「私は……怪物じゃ、ないのか?」
思わず零れた問いかけ。
少女は涙を拭い、かぶりを振った。
「だって、怪物だったら助けてくれないよ。
怪物だったら、こんなに優しくない。」
彼の胸に、温かいものが広がっていく。
誰からも拒絶され続けた自分を、恐れず見つめてくれる瞳。
その小さな信頼は、何よりも大きな救いだった。
だが、その瞬間。
遠くから群衆の足音と、黄金のヒーローの声が迫ってきた。
「皆さん! あの怪物は危険です!
少女を人質にしています!」
人々は歓声と怒号を上げながら押し寄せる。
少女は彼の胸にしがみつき、必死に叫んだ。
「違うの! この人は悪くない! 助けてくれたの!」
しかし、その声は群衆にかき消され、誰の耳にも届かない。
ただ一人――彼だけが、その叫びを確かに聞いていた。
彼の瞳は揺らがない。
例え誰に否定されようとも、少女が信じてくれる限り、自分の正義を貫こうと心に誓った。




