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闇の中の救い
群衆の声に押され、彼は街の裏路地へと追い立てられていた。
「化け物を捕まえろ!」
「ヒーロー様に渡せ!」
石を投げられ、罵声を浴びせられても、彼は振り返らなかった。
ただ静かに歩を進める――その時。
かすかな悲鳴が、雨音に混じって聞こえた。
路地の奥、小さな建物の陰。
そこには、崩れた瓦礫に押し潰されそうになっている少女の姿があった。
(……っ!)
彼はためらわなかった。
巨躯に似合わぬ俊敏さで駆け寄り、継ぎはぎの腕で瓦礫を持ち上げる。
裂ける筋肉、軋む骨――だがその瞳は揺らがない。
「大丈夫だ。もう苦しまなくていい。」
優しい声が少女の耳に届く。
やがて瓦礫は持ち上げられ、彼は小さな身体を抱きかかえた。
少女は涙に濡れた顔で、恐怖よりも驚きに目を見開いていた。
怪物と呼ばれた存在の腕が、誰よりも温かかったからだ。
だが、その様子を見ていた者がいた。
ビルの屋上で見下ろす黄金のヒーロー。
彼は口元に笑みを浮かべ、通信機に囁いた。
「……奴は利用できる。だが、真実を知る者は消さねばな。」
街の灯が揺れ、正義と悪がすり替えられる夜が、さらに深く幕を下ろしていく。




