3/20
実験体の記憶
彼は実験体であった。
ただただ「悪」を作り出すためだけに合成された存在。
幾度も切り刻まれ、肉体は縫い合わされ、皮膚は継ぎはぎで覆われていく。
人がひと目見れば叫び出すような、恐怖と嫌悪を煽る姿。
――悪の象徴。
そう呼ばれるために生まれた。
だが、彼の瞳は澄んでいた。
実験器具に縛られ、薬液に沈められる時も。
蔑む声と罵声を浴びせられる時も。
その奥に宿るのは、不思議なほど静かで温かな光だった。
「……大丈夫か?」
同じく実験に巻き込まれた囚人たちに、彼はそう声をかけた。
言葉の端々には、優しさがにじんでいた。
彼は、誰も憎まなかった。
自分を実験体に選んだ者たちさえも。
むしろ――自分が彼らの代わりに苦しむことで、誰かが救われるのなら、それでいいとさえ思っていた。
だが、その優しさこそが、彼を「悪」と決めつけたい者たちにとって最大の皮肉となった。




