偽りの残響
拳と光がぶつかり合い、広場の石畳が砕け散る。
紅鎧の猛攻に追い詰められた偽りのヒーローは、苦悶の表情を浮かべながら、なおも声を張り上げた。
「ヒーローは……俺なんだッ! 俺しかいないんだよォ!」
その叫びは、怒りに満ちていたが――どこか悲痛でもあった。
紅鎧は拳を振り上げながら、その声の奥に潜む「影」を感じ取っていた。
――視界が一瞬、揺らぐ。
次の瞬間、紅鎧の脳裏に流れ込む“記憶の断片”。
……少年の頃。
誰よりもヒーローに憧れた一人の子供がいた。
仲間たちと遊ぶときも、必ずヒーロー役を譲らなかった。
だが、現実は残酷だった。
「お前なんかがヒーローなわけないだろ!」
罵声。笑い。蔑み。
やがて大人になった彼は、権力者の研究機関に拾われる。
そこで与えられた役割は――「人々の前で、理想的なヒーローを演じる人形」だった。
「お前には“偽り”しかない。それで十分だ」
作られた笑顔。与えられた台本。
どんな悪事を働いても、人々は「ヒーロー」と信じて疑わなかった。
彼自身の心が、どれほど空虚に蝕まれていったとしても。
「俺は……っ、俺はただ……ヒーローに、なりたかっただけなんだ!」
光の奔流と共に、偽りのヒーローが絶叫する。
その声には怒りと同時に、確かな悲哀が混じっていた。
紅鎧は拳を止める。
澄んだ瞳がまっすぐに相手を見据えていた。
「お前の中にも……本当は“なりたかったヒーロー”がいるんだな」
その言葉に、偽りのヒーローの目が大きく揺れた。




