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20DAYS  作者: 松笠醤油
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第肆話 弐日目-その2

「蒼、このゲームでギフトを使うことはないとさっき言ったが、訂正する。

論理的に考えて今くたばるよりか、寿命削ったほうがマシという結論に至った。

——今からギフトを使う。」

修次郎の目は洞窟の外に広がる、百メートル先の森を真っすぐ射抜いていた。

そこに浮かぶ赤い光点は一つ、二つ……いや、数十。

群れを成した狼の瞳が闇の中できらめいていた。

「狼の数は……10、いや17。持久戦は・・・クソッ無理かよ!」

そう計算するように呟いた彼は、瞬時に洞窟の奥へ駆け出す。

棚に並べた理科室まがいの装備から複数の試験管をもぎ取るように手にした。

「おい、それは……」

俺が声をかけると、修次郎は明らかに動揺したまま制止も聞かずに返す。

「見れば分かるだろ!試験管だよッ!」

普段冷静沈着な彼の焦りに、思わず俺は鼻で笑った。

「いや、なんでその試験管を持ってきたんだよってことだ。……あと落ち着け。」

鋭い指摘に修次郎は数秒静止し、深く息を吸い込む。

呼吸を整えると、ようやくいつもの理数科オタクの顔に戻った。

「……俺のギフトで生成した物質を入れる容器だ。これがなきゃ“近接戦闘”しかできなくなる。論理的に考えて、それは致命的だろ。あと、今すぐ洞窟から出るぞ。理由は言わなくてもいいな?」

洞窟の中だと逃げ場がない・・・そういうことだな。

そう察した俺は走り始めていた修次郎の後を追った。

よく見ると、試験管を握る修次郎の掌からは、すでに微かな光粒が滲みだしていた。

それは蛍光塗料のように淡く輝き、空気を揺らがせる。

まるで原子や分子そのものが組み替えられていく過程が「可視化」されているかのようだった。

「おい……もう始めてんのか?」

「当然だ。狼の嗅覚は人間の数千倍。走ったら時速5~60kmだ。人間が全力疾走したってせいぜい45km、すぐ追いつかれる。だったら先手を取って、“毒”か“光”で群れを混乱させるのがベストだ。」

修次郎は俺の方を振り返りもせず言い放つ。

声には震えがなく、眼はひたすら論理の炎を燃やしていた。

俺はリボルバーを握り直し、撃つ準備をする。

左後方を見ると狼の群れが方向を変えて追いかけてくるのがわかった。

「で?これからどうするんだ?ずっと逃げてるわけにもいかねぇし・・・」

「一つ手がある。」

そう言った修次郎の目は、逃げ道ではなくその先にある勝利を見据えていた。

「敵のギフトはおそらく、”狼を出現させて操る”だ。そうでなきゃ、この島に狼がいて俺達を襲ってきてる理由にならねぇ。そんで、おそらく敵の出現可能な狼の上限は20~30体ぐらいだ。無制限ってなら100体ぐらい出して一気に制圧できるしな。で、出現場所はおそらくギフトの持ち主だ。どこにでも出現可能ってなら洞窟の中に10体ぐらい出せば済む話だ。これを踏まえて俺達がやるべきことは・・・」

「大丈夫だ。何となく分かった。実行に移すぞ。ちなみにお前、何作ったんだ?」

「クロロベンジリデンマロノニトリル・・・簡潔に言うと、催涙ガスだ。ちなみにこの試験管の中にパンパンに入れてある。かなり圧力は高い。さあ、作戦を実行しよう。しかしクッソ・・・ギフトなんざ使うんじゃねぇな・・・」

そう言った修次郎の鼻からは鼻血が出ていた。おそらくギフトの副作用だろう。っつーかさっきのクロロベン・・・なんとか。法律的に考えたら公安出動案件じゃねぇか。

「あ、というかそれ、クロロホルムじゃあだめなのか?」

「は?あんなん少量吸っても麻酔作用なんてねぇよ。漫画の読みすぎだわ。逆にこっちのクロロベンジリデンマロノニトリルはガチにあの米軍で使われてっからな。それに、こっちの方が使用元素的に空気中にあるやつが多いからリスクが少ないんだよ。さ、分かったならさっさと実行に移せ。」

なるほど。

そう俺が思った直後、修次郎は走るのをやめた。ここぞとばかりに狼たちがスピードを上げると、修次郎が試験管を投げた。その数秒後、狼の群れのうちの1体が試験管を踏んだ。その瞬間、試験管が割れて高圧のガスが噴出した。狼たちは鼻と目から鼻水や涙を滝のように流し、自分の目を自分の爪で掻きむしったからか涙が赫色になって動きを止めていた。

さて、こっちは修次郎に任せていいな。修次郎は今のでヘトヘトだ。俺しか発生源に向かえない。かなり避けたかったが、ソロで行くことにしよう。で、この群れをけしかけたやつが次に取る行動は・・・・・・良し。3,4分後くらいまでは予測できた。

準備を整え、俺は敵がいるであろう地点に向かって走り出した。途中、敵が逃げることも考慮して何回か方向を変えた。そして予測した地点と全く同じ場所で、敵と会敵した。

あ、敵と会敵したって頭痛が痛いみたいだな。しかし予測が当たるのは気分がいい。

敵は俺より少し年上、おそらく20代ほどの人間だった。彼の近くには狼を2体従えていた。「お前が・・・敵か。」

そう言って俺はリボルバーを構えた。彼は戦闘に慣れているらしく、俺の射程距離20m、というか俺と50mほど離れている。まあ、射程距離内に近づいたところで証拠がないから有罪にはできねぇんだけどな。彼は冷静な目つきでこう言った。

「まあ待て待て。俺だって戦闘狂じゃあない。あ、いや、いきなり戦闘を仕掛けてきてるんだから戦闘狂かもな・・・あ、話がそれたな。まあそれは良いとして、今回の襲撃も”殺れたら良いな”程度の感じだ。本来の目的は”そこにどんな奴がいるか”だからな。俺としてもお前のギフトがわからない状況での戦闘・・・つまり苦戦は避けたい。お前もそうだろ?できれば楽して勝ちたい・・・そんな奴と見た。いや、効率厨か。ま、そんなわけで今回は撤退させてもらうよ。」

は?おいおい待てよ。逃げんじゃねぇよ。・・・いや、冷静に考えてみるとこちらとしても好都合か。できるだけ戦闘は避けたいし、多勢に無勢だ。

「そうか。また合うときは・・・敵だな。」

「ああ。今度は本気で行く。最後に俺の名前を言っておこう。坂井・・・坂井 煌一狼だ。」

そう言って彼は・・・坂井煌一狼は去っていった。後ろから息を切らして歩いてくる修次郎も、その姿を見ていた。

「あぁ?何も戦ってねぇじゃねぇか。」

「普通に考えてみろ。バトったところで仲間の加勢は来ない、使える武器はリボルバーと俺のギフト、ギフトを使おうにも確たる証拠は大してない。お前、ギフトを使ったやつ以外無傷だろ。それは恐らく、煌一狼が俺達のギフトを知らなかったからだ。もし、俺達のギフトが”フルカウンター”・・・攻撃された分だけ相手にダメージが入るとかだったら、それこそ攻撃することがリスクだからな。で、そんな劣勢の中、相手はまだ狼を2体操れる。そんな状況だぞ?」

修次郎は2秒ほど考えたあと

「責めてすまなかった。合理的に考えても、感情的に考えてもその結論になる。」

そう修次郎が言うと、グギュルルルルルと大きな音が俺達二人の腹から同時に鳴った。そういえばもう夕方だ。

「飯にすっか。お前何作れる?」

そう言い出したのは俺だ。俺としては2日連続で飯当番、というのは避けたい。

「うーん・・・炒飯かな。」

そう言って修次郎は夕焼けの赤い光を浴びながら、元いた洞窟に歩いていった。



ただの炒飯

材料 野鳥の卵で作った溶き卵 米(あらかじめ吸水済み) 自生していた長ネギ A(醤油、塩コショウ、鶏ガラスープの素) ごま油

作り方

長ネギをサバイバルナイフ(修次郎の武器。こいつがあるからか箱の中には包丁は入っていなかったらしい。)でみじん切りにする。

フライパンを中火で熱してごま油をひき、(洞窟の奥にあったあの青い炎。火力調整は俺。)1を入れて炒める。しんなりしたら溶き卵を入れて炒める。

卵に火が入ったらご飯を入れて強火で炒める(空気を送るのが超絶きつい)。ご飯がほぐれたらAを入れてさっと炒め合わせる。

全体が馴染んだら火から下ろす。皿がなかったため、自分たちのフライパンに盛り付ける。

「さて、食べるとしますか。」

そう修次郎に言われ、俺も食べることにした。

「うわ、美味いな。ちゃんと米もパラパラだし、隠し味(?)の鶏ガラが効いてる。」

「どうだ。これが俺の技術だよ。」

なにげに苛つくな。まあ、実際技術は高いんだがな。

「っつーか、お前鍋振り上手いな。米1粒すら落としていない。それなのに完成品はちゃんとパラパラだ。プロ並みかよ。」

「いや、俺はまだまだだ。父曰く、本物の中華料理屋はもうメッチャクチャこぼしまくるらしい。」

俺はフッと笑うと、

「いや、こぼしまくったら米がもったいないだろ。」

とツッコんだ。しかし、このゲームをしている最中に笑うことができるとはな。精神的にもありがたい。

「飯食い終わったならさっさと片付けて俺は寝るわ。お前はどうする?」

どうしよう。まあ、1人よか2人のほうが襲われるリスクは低い。ここで睡眠を取るとするか。

「俺も片付けんの手伝うぜ。」

そう言って俺は飯の片付けをすることにした。この匂いにつられてくまやらプレイヤーやらでも来られたら困るからな。

「そういや、ギフト使う時の寿命削りとかって大丈夫だったのか?」

俺はふと気になったため、修次郎に聞いた。

「あー、今回からだから生成した元素は少なかったから鼻血程度ですんだな。ただ、空気中にある窒素や酸素やその他諸々以外の元素が作りたいやつに多い場合はもっと反動がでかいと思う。最悪死ぬ。」

なるほど。やっぱりハイリスクハイリターンだが、うまく使えばローリスクハイリターンってことか。

そうこうしているうちに片付けは終わり、眠るために外から落ち葉を集めてきた。毛布代わりにだ。

「そんじゃおやす〜」

「ああ。」

そう言って俺は洞窟の床に寝転んだ。寝る前に機能と同じようにランキングを確認したが、全く動きはなかった。やはりあの3人、他のプレイヤーとはずば抜けて強いな。実際腕輪の機能を使って殺害した人数を調べてみたが、一般プレイヤーはだいたい2~3人しか殺害していないことに比べて、あの3人はだいたい50~60人だ。初日であんだけ減ったのにも納得だな。順位を崩す気配すらない。しかし、毒がないからか今日は人を殺していないからか、今日は久しぶりによく眠れそうだ。


18 days left…


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