7 逃げるは恥だが死ぬよりマシ
7 逃げるは恥だが死ぬよりマシ
「さぁ、いくでカイン!」
ルナがキラリと目を輝かせ、ぴょんっと後ろに跳び下がった。
「おいおい、ちょっと待て! 話し合いで解決しようぜ!?」
「話し合い? 戦いは拳を交えてこそ分かり合えるんやろ?」
「誰が決めたそんなルール!?」
(ちょっと待て、この子、もしかしてめちゃくちゃ武闘派なのでは……?)
ルナはスッと片手を掲げると、空中に淡い光が集まり、指先で何かを紡ぎ始めた。
「よっしゃ、まずは軽く……」
(やばい、魔法的な何かが来る!!)
直感で察した俺は、
「逃げるは恥だが死ぬよりマシ!!」
即座に反転し、猛ダッシュした。
「ちょ!? いきなり逃げるんかいな!?」
「当たり前だろ!! 俺は無駄死にしないと決めたんだ!!」
「おもんないなぁ! ほな……風よ、疾れ!《ウィンド・ブースト》!」
「ずるいずるいずるい!!!」
ルナの足元に風が巻き起こり、ふわっと体が浮いたかと思えば――
「ぴゅんっ」
「あ、はやっ……!!?」
俺の横を、一陣の風が駆け抜けた。
次の瞬間、
「はい、確保!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
バッと両腕を掴まれ、俺の体はあっさり固定された。ルナは俺の腕をがっちりホールドしたまま、ニヤリと勝ち誇った顔をしている。
「逃げ足だけは速いんやなぁ」
「くそぉ……! 俺の生存本能が……!」
「でもなぁ……うちの方が速いんやで?」
「それはもう……どうしようもないね……」
俺は力なくうなだれた。
***
「ほな、今度こそ……いくで!!」
「ちょ、ちょっと待て待て! 俺、武器もないし、準備もできてないんだぞ!?」
「ええやん、素手で戦お!」
「嫌だぁぁぁ!! 絶対勝てる気がしないぃぃ!!」
ルナはバックステップで間合いを取ると、にこっと微笑んだ。
「せやなぁ……ほな、カインがうちの攻撃を一回でも避けられたら勝ちでええよ」
「マジで!?」
「うん。簡単やろ?」
(いや、でもこっちは初心者なんだが……)
とはいえ、これならワンチャンあるかもしれない。
(とにかく、一撃避ければいいんだ。一発避けたら勝ち! そう思えば楽勝……!)
俺は意を決して構えた。
「よっしゃ、いくで! カイン、覚悟せぇ!」
「来い!!」
ルナの体がスッと沈み、風のような動きで踏み込んでくる。
(ここだ!! 予測して避ける!!)
俺は反射的に後ろへ跳び――
「あ、こっちやで?」
「え?」
ゴンッ!!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!?」
俺の意識が、ふっと遠のいた。
……こうして、俺の“初めての人間との出会い”は、“初めての人間に殴られて死ぬ”という悲劇的な結末を迎えたのだった――