63 暗殺者、初めての食レポ
63 暗殺者、初めての食レポ
ルナ特製のシチューが 完成 した。
テーブルに並べられた ホカホカのシチュー からは、いい匂いが立ちのぼっている。
「おお! うまそう!」
カインが 感動しながらスプーンを手に取った。
「ほな、いただきまーす!」
「……いただきます」
イリスとフェリシアも 手を合わせた。
それぞれスプーンですくい、一口――
「……うまぁ!!」
カインが 勢いよく叫んだ。
「せやろ? うち、料理の腕には自信あるねん!」
ルナが 得意げに胸を張る。
「うん、ほんとに美味いよ。ルナ、お嫁に来てくれ」
「えっ!? ちょっ!? そ、そない急に言われても……///」
ルナが 顔を真っ赤にして湯気を吹き出しそうになった。
「って、冗談だって!」
「……バカ!! そないな冗談、言うもんちゃう!!」
ルナが スプーンでカインの額を軽く叩く。
「いった!?」
「……イチャイチャしすぎや」
イリスが ジト目で見ている。
「フェリシアも食べてみ?」
カインが フェリシアの方を向くと――
「…………」
フェリシアは じっとシチューを見つめたまま、動かない。
「……どないしたん?」
ルナが 首をかしげる。
「……こういうものなのか?」
「え、どういう意味?」
「……食べ物が、こんなに温かいとは……」
「……!?」
カイン、ルナ、イリス、全員の動きが ピタリと止まる。
「フェリシア、お前まさか……」
「……暗殺者時代、温かい食事を食べた記憶がない」
フェリシアは ポツリと呟いた。
「……任務中は基本、保存食か……食べ残し だったから……」
「帝国の扱い、酷すぎるやろ!?」
「……味がすればいい方だった」
「やめて! その話、聞いてるだけで泣きそうやわ!!」
「あんた……そんな状態でずっと生きてたんか……」
イリスが 珍しく真剣な顔をしている。
「……だから、このシチュー、温かくて……不思議な感じ」
フェリシアは じっとスプーンを見つめたまま、一口……
「…………」
「ど、どうだ?」
カインが ゴクリと息をのむ。
「……甘い」
「そうだろ? ルナ特製だぜ!」
「……優しい味がする」
フェリシアは じんわりと目を細めた。
「おぉ……!」
カインは 少し感動した。
「……美味しい」
フェリシアが ぽつりと呟いた。
「フェリシア……!」
カインが グッと胸を熱くする。
しかし――
「……だが、ひとつ疑問がある」
「ん?」
フェリシアが スプーンを置き、真剣な表情でカインを見た。
「これは……食べ物なのか?」
「待て!? 今までの流れからして、その質問はおかしいだろう!!」
「……今まで食べてきたものと違いすぎる」
「いや、それは良いことじゃん!? 普通に食べて!? 「食べ物なのか?」って聞かれるルナがかわいそうだぜ!!」
「……確かに」
フェリシアは 納得したように頷き、再びシチューを口に運ぶ。
「……ああ、これは確かに……食べ物だった……」
「だから何で毎回そんなにしみじみ確認すんだ!!!」
カインの 叫びが宿に響いた。
「せやな、フェリシアは今までまともな飯を食べてへんかったんやな……」
ルナが しみじみと呟く。
「……今夜からはしっかり食べるんやで?」
イリスが 優しく微笑んだ。
「……うん」
フェリシアは こくりと頷いた。
「……ただ、ひとつ言っておきたい」
「ん? なんや?」
「……カインの料理も、一度は食べてみたい」
「「やめとけぇぇぇぇぇ!!!!!」」
こうして、フェリシアの「食の再教育」 は始まったのだった。




