6 京都弁少女、さらに誤解する
6 京都弁少女、さらに誤解する
「精霊王の娘、ルナ・アストレア……か」
俺はルナの名前を反芻しながら、改めて彼女を見つめた。
(なるほど……言われてみれば、それっぽい雰囲気はあるな)
ルナはふわりと揺れる銀色の髪に、湖のように澄んだ青い瞳を持っている。服装はどこかエルフっぽいが、装飾は派手すぎず、どことなく高貴な雰囲気を醸し出している。
(っていうか、冷静に考えたらめちゃくちゃ美少女じゃね?)
俺がそんなことを考えていると――
「……なぁ、カイン?」
ルナが眉をひそめて、じーっと俺を見てきた。
「え? どした?」
「なんか、めっちゃ見られてるんやけど……」
「えっ、いや! そ、そんなことないぞ!?」
「ほんまかぁ?」
「ほんまほんま!」
俺はぶんぶんと首を振る。
(やばい、変な誤解されたら終わる……! ここはクールに振る舞わないと……!)
「……ほな、聞くけど」
「うん?」
「なんでさっきから、うちの服の胸元ばっか見てんのや?」
「ぶふぉっ!!?」
俺は思わず変な声を出してしまった。
「ちょっ、待っ、それは誤解だよ!!」
「ほんまかぁ? さっきから視線がそこに吸い寄せられとるで?」
「いや、違っ、ちがっ、これはアレだ、あの……!」
(落ち着け、落ち着けカイン! こういう時は冷静に説明すれば――)
「ほな、なんで顔が真っ赤なん?」
「ぐふっ!!」
詰んだ。
俺はもう何を言っても信じてもらえないと確信した。
(くそぉ……! 俺はただ、精霊王の娘ってどんな感じなのかな~って観察してただけなのに……!)
「まぁ、ええわ」
「えっ、信じてくれた?」
「エロい目で見とることは確定やけど、うち、心が広いし」
「いや、だから違うって!!?」
俺が必死に否定していると、ルナはふと腕を組み、何かを考え込むように視線をそらした。
「……ふむ。まぁ、幽霊かと思うたけど、幽霊やのうて、変態やったってことで納得しといたるわ」
「だから誤解がひどいんよ!!?」
俺は地面に突っ伏して絶望した。
***
数分後、なんとか誤解を解くため、俺はルナと対話を試みた。
「なぁルナ。そもそもお前、なんでこんなところにいるんだ?」
「ん? ちょっと精霊たちと遊びに来たんや」
「遊び?」
「せや。でも、途中で迷ってもうてなぁ……」
「……それ、大丈夫なのか?」
「まぁ、しばらくしたら、おとんが迎えに来るやろ」
「おとん……あの精霊王が……?」
(なんか、すごいフランクな娘だな……)
「まぁ、せっかくここで会うたし、もう少しだけ付き合ってもらおか」
「付き合うって、何を?」
するとルナはニヤリと笑い――
「うちと勝負や!」
「はぁ!?」
「さっきは不意打ちでやってもうたけど、カインがほんまに強いんか、ちゃんと確かめたいんや!」
「おいやめろ! 俺、さっき死んだばっかなんだぞ!?」
「せやから、また死ねばええやん?」
「やめろぉぉぉ!!!」
こうして、俺は出会って早々、精霊王の娘とバトルするハメになったのだった――。