59 フェリシア(帝国の元暗殺者)仲間になる?
59 フェリシア(帝国の元暗殺者)仲間になる?
帝国の暗殺者――それは影に生き、影に消える者たち。
その中でも“最強”と噂される女暗殺者がいた。
「フェリシア・ヴァルガ」
彼女の名は闇の世界では知らぬ者はいない。
だが、その彼女が今、街の屋根の上から 怪物 を睨んでいた。
「……まさか、あの化け物進化ミノタロスを倒すとはね」
フェリシアは街灯の下を歩く黒髪の青年――カイン・レヴェナントを見下し、不敵な笑みを浮かべつつ、静かに小太刀の柄を握る。
(ターゲットの情報によれば、アイツは死んでも生き返って強くなる異常者……殺す意味ないんじゃない? それに生き返るんじゃあ永遠に依頼達成できないのでは??)
フェリシアは息を潜めたまま、屋根から屋根へと影のように移動する。
だが――
「おい、屋根の上の美人さん、ずっと俺のこと見てるけど、ファン?」
「――ッ!?」
次の瞬間、カインがビシッと指をさしてきた。
「なっ……!? なんで気づくのよ!」
「そりゃまあ、俺も暗殺者に狙われるのは慣れてるし?」
「“慣れてる”って何よ!? 普通そんなことないでしょ!」
フェリシアは思わずツッコミを入れてしまう。
いや、落ち着け。これは陽動かもしれない。暗殺者がターゲットに振り回されるなど言語道断。
「まあ、そんなに俺を狙ってるなら、そっちから来いよ」
カインは片手をポケットに突っ込みながら、挑発するように微笑んだ。
その態度に、フェリシアの目が細まる。
(……いいわ。じゃあ、軽く試させてもらう)
シュン!
フェリシアの姿が一瞬で掻き消えた。
「おっと――」
カインが身を翻した直後、ギィン! と鋭い金属音が響く。
フェリシアの小太刀がカインの首を斬る直前、彼はギリギリ、フライパンというふざけた武器を使ってかわしていた。
「ほぉ……反応できるんだ?」
フェリシアは余裕の笑みを浮かべる。
だがカインも同じようにニヤリと笑った。
「いや、さすがに今のはヤバかったぜ。ちょっと死ぬかと思った」
「“ちょっと”?」
こいつ、命の危機に対する感覚がバグってるのか?
「いやー、でも惜しいな。俺、死ぬと強くなるんだよね」
「……」
「だから、むしろ強くなりたいときは、殺してくれたほうがありがたいっていうか?」
「……」
「ん? どうした?」
「はぁ……バカらしい」
フェリシアは呆れたようにため息をついた。
この男、殺せる気がしない。
(帝国は、こんな奴を殺せと言ったの? いや、無理でしょ)
カインを睨みつけたまま、フェリシアは小太刀を収めた。
「……やめたわ。こんな化け物と戦うのは」
「え、降参? 俺まだ何もしてないけど?」
「いいのよ。放っておいたら世界のどこかで勝手に死んで強くなるんでしょ?」
「ひでぇ言い草!」
「まあ、監視任務、要は見てるだけでも暇つぶしにはなるかも」
そう言いながら、フェリシアは静かにカインの隣へと降り立った。
カインが不思議そうに彼女を見つめる。
「え、なんで俺の隣に来たの?」
「監視よ、監視。こんなバカを野放しにするのは危険だもの」
「いやいや、絶対それ監視っていうか仲間になる流れでしょ」
「……」
「……」
「……違うわよ」
フェリシアは静かに顔を背けた。
その横顔が、わずかに赤く染まっていたのをカインは見逃さなかった。
こうして、元帝国の最強暗殺者がツンデレ系仲間として加わったのだった。




