5 京都弁少女、誤解する
5 京都弁少女、誤解する
「――はっ!」
俺は草原に寝転がったまま、勢いよく目を覚ました。
(や、やられた……)
一体何が起こったのか? 思い返すまでもなく、光の洗礼を浴びて即死したのだ。
「おぉ……確かにまたちょっと強くなった気がする……」
転生四回目。体が軽い。視界もさらにクリアになっている気がする。もはや人間を超え始めているのでは?
「……いや、そんなことより!」
俺はガバッと起き上がり、先ほどの場所へダッシュした。
(あの少女だ! 俺を殺ったあの京都弁少女!)
森の中を駆け抜け、さっきの開けた場所に戻る。そこには、さっきと同じ少女がいた。
「……はぁぁぁぁぁ、怖かったぁ……!」
なんと、少女は腰を抜かしていた。がくがく震えながら、未だに俺のことを警戒している。
(あ、やっべ……完全にトラウマ与えてる……)
俺はそっと近づいて、できるだけ優しい声で話しかけることにした。
「あの~、大丈夫ですか? 俺、ゾンビじゃないんで――」
「で、出たぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「待て待て待て!? なんでだ!?」
少女は地面を這うように後ずさり、顔面蒼白で俺を指さした。
「お、おかしいやろ!? さっきあんた、うちが浄化魔法で塵にしたはずや!」
「そ、それは……えっと……」
正直に「俺は死ぬたびに強くなるスキル持ちで、さっきも普通に生き返っただけです」って言っても、多分信じてもらえない気がする。
(どうする……どう説明すれば……)
悩む俺を尻目に、少女はガタガタ震えながら、目をぐるぐるさせていた。
「ひぇぇ……これはもう確定や……あんた、絶対幽霊さんや……!」
「いや、違う違う違う!!」
「なら証拠見せてぇや!! ほんまに生きてる言うんやったら、米とか塩とかぶっかけたるから、それで反応せんかったら信じたる!」
「なんでお祓い前提やねん!!」
「うちの浄化魔法も効かへんのに、普通の人間なわけないやろぉぉぉ!!」
そう言いながら、少女はどこからか布袋を取り出し、塩を取り出そうとしている。
「ストップストップ!! やめろ、俺に塩を振りかけるな!」
「ほな、証拠見せんかい!」
「証拠って言われても……ほら! ちゃんと息してるし!」
俺は胸をドンッと叩いた。
「ふん……ほな、心臓の音は?」
「……」
(え、これもしかして俺、心臓止まってたりする……?)
怖くなって手を当ててみるが、よく分からない。今まで気にしてなかったけど、スキルのせいでもしかして俺、ゾンビっぽくなってる説が……?
「……な? おかしいやろ?」
「ま、まぁ、それは置いといて!」
「置いとけへんわ!」
少女はふるふると震えながら、さらに俺との距離を取る。
(やばい、このままじゃ完全に誤解されたままだ……どうすれば……)
すると、その時――
「って、あれ?」
少女がふと俺をまじまじと見つめる。
「……なんやろ……さっきより、ちょっとかっこよなってへん?」
「え?」
「なんか……死ぬ前はボロボロで、薄汚れた浮浪者みたいやったのに……」
「ちょ、それひどくない?」
「でも、今は……なんか顔もシュッとしてるし、雰囲気も……ちょっと騎士様みたいやな……」
少女は腕を組み、うーんと唸りながら俺をじろじろと見てくる。
(もしかして……スキルの効果で、死ぬたびにちょっとずつ見た目も整ってる……?)
確かに、体の調子はどんどん良くなってるし、視界もクリアになってる。もしかして、転生を繰り返すことで、イケメン補正までついてきたのか……!?
「……いや、でもやっぱり胡散臭いなぁ」
「えぇぇぇぇ!?」
せっかく少女が俺の見た目を褒めてくれたのに、まだ信用されてない! くそぉ、どうやったらこの誤解を解けるんだ!?
そんな俺を見ながら、少女は警戒心を解かないまま、ちょっと困ったように呟いた。
「……まぁ、取りあえず名前ぐらいは聞いたるわ」
「おお、やっと俺を幽霊扱いしない気になった?」
「まだ信用はしてへんで?」
「……それでもありがたい」
俺は一つ咳払いをし、改めて自己紹介をした。
「俺の名前はカイン。カイン・レヴェナント(なぜか知ってる。適当につけたわけじゃないよ)。……お前は?」
すると少女は少しだけ逡巡し、ぽつりと名乗った。
「……うちの名前は、ルナや」
「ルナ、か」
「せや。精霊王の娘、ルナ・アストレアや」
「せ、精霊王の娘!?」
なんかすごい肩書が出てきた!! 俺は思わず目を丸くした。
こうして、俺とルナの最悪な出会いは、少しずつ転がり始めるのだった――。