31 カイン、フライパン剣士への道!?
31 カイン、フライパン剣士への道!?
「……これ、どう見ても剣じゃなくて、フライパンなんだが……」
俺は 目の前の黒光りする鉄の塊を、まじまじと見つめた。
取っ手の部分までしっかり作り込まれ、まるでプロの料理人が使いそうな本格的なフライパンだ。
(いやいやいや……俺が求めてたのは、敵をぶった斬る剣であって、目玉焼きを作る道具じゃないんだが!?)
「おお、見事な出来栄えじゃ!」
親方が 満足そうに腕を組み、ドヤ顔で頷く。
「どこが!? 俺、剣を作る試練受けてたんですよね!? なのになんで料理道具が完成してるんですか!??」
「フム……カイン、お前は『物の本質』を見極める力があるようだな」
「どういう意味だ!!」
「剣を作ろうとするあまり、本来の鍛冶の目的……つまり、『使いやすく、丈夫で、美しいものを作ること』 に自然と目が向いたのだろう」
「で、出来上がったのがフライパン!??」
「そうだ!!」
「いや、納得いかねぇぇぇぇ!!!」
俺が 頭を抱えて絶叫している横で、ルナがフライパンを手に取った。
「おぉ……なんやこれ、めっちゃ軽いし、持ちやすいなぁ!」
「うん、バランスがいいな。鍛冶師としての才能はあるかもしれん」
「えぇ……いや、これどうすんの……俺、戦うんだけど……」
「カイン、お前は『フライパン剣士』になればええやん♪」
「ならねぇよ!!」
「なんでや? 斬撃より叩きつけた方が強いんちゃう?」
「そんなアホみたいな戦い方があるか!!」
「まぁまぁ、試してみたらええやん♪」
ルナは にっこり微笑みながら、俺の手にフライパンを押し付ける。
「……しょうがねぇ、試しに……」
俺は 試しにフライパンを軽く振ってみた。
「……お?」
(めっちゃ軽い……! しかも、空気の抵抗がほとんどない……!)
「どうや? ええ感じちゃう?」
「いや、まぁ……確かに振りやすいけど……これで敵と戦うのはさすがに……」
「なら、試しにワシを叩いてみろ」
「え?」
親方が 腕を組みながら、ドンと胸を叩いた。
「そのフライパンの威力を確かめてみろ。ワシの体は鍛え上げられとるから、ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともせんぞ!」
「……いいんですか?」
「構わん! 思い切り振るってこい!」
「……じゃあ、いきますよ?」
俺は フライパンをしっかり握りしめ、全力で——
ブンッ!!
ゴシャァァァァッ!!!!
「——ごぶふっ!?!?」
親方が壁まで吹っ飛んでいった。
「……え?」
俺は フライパンを振ったまま硬直する。
親方は 壁にめり込み、ピクピクと痙攣していた。
「……親方ぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「う、うぐ……な、なにを……鍛冶の技術を学んだばかりのやつが、なぜこんな破壊力を……!!」
「し、知らないっすよ!! 俺、ただ普通に振っただけなのに!!」
「これは……凄まじい打撃力やな……」
ルナが フライパンの表面をコンコンと叩きながら感心したように呟く。
「……まさか、俺の力が強くなりすぎてるとか……?」
「いや、違うな。」
親方が 壁からズルズルと抜け出しながら、震える指でフライパンを指した。
「これは……『神鉄』……神々の祝福を受けた、伝説の金属で作られている……!」
「は???」
「普通の鉄ではありえん硬度と耐久性、そして軽さ……! さらに攻撃力まで備えておるとは……!!」
「え、これただのフライパンじゃなくて、めっちゃやばい武器ってことですか!?」
「そうだ!! これはもはや、フライパンの形をした戦闘武器……名付けて——『神鉄の灼熱鍋』!!」
「名前、ダサッ!!!」
「これさえあれば、どんな敵でもぶっ飛ばせる!!」
「だから、俺は戦場で料理すんのかって!!」
俺は 額を押さえながら絶望した。
こうして——
カイン、まさかの『フライパン剣士』デビュー!?