119 天翔の霊草の試練!
119 天翔の霊草の試練!
ようやく登り切った山頂は、まるで雲海に浮かぶ天空の庭園のようだった。
眼下には白い霧が広がり、遠くの峰々が島のように点在している。その幻想的な風景の中、ひときわ目を引くものがあった。
――青白く発光する、一株の草。
風にそよぐその姿は、まるで天へと舞い上がる羽のように儚げで美しい。
「……あれが”天翔の霊草”だな」
カインが慎重に一歩を踏み出した、そのとき――!
「グォォォォォォッ!!!」
突如、地鳴りが響き渡り、大地そのものが揺れるような衝撃が走った。
「な、なんや!?」
ルナが驚いて声を上げると、霊草のすぐ傍の岩が大きく盛り上がり、まるで生きているかのように動き出した。
ゴロゴロと崩れる岩の中から現れたのは、巨大なカメだった。
黒曜石のように光る甲羅は岩肌と一体化しており、体の一部はコケや蔦に覆われている。目には不気味な緑の光が宿り、ゆっくりとこちらを見据えた。
「……これはヤバいやつや」
イリスが青ざめた顔でつぶやいた。
“霊山の守護者・ガルドン”――この地に伝わる伝説の魔物。
天翔の霊草を狙う者に試練を与える存在とされ、その巨大な体はどんな攻撃も跳ね返す鋼鉄の要塞のようだと言われている。
「……うん、こういうの絶対出るよな!」
カインは苦笑しながら、背中のフライパンを握り直した。
「だけど、こっちには最強の調理器がある!」
彼は意気揚々とフライパンを掲げた。
「いや、カインが作ったフライパンやろ!? それ、どう見ても普通の調理道具やん!」
イリスが思わずツッコむ。
「これで倒せるかどうかは、やってみなきゃ分からん!」
「「えええええええ!?」」
ルナとイリスの絶望的な叫びを背に、カインはフライパンを片手に果敢にも巨大カメへ突撃するのだった――!
「グォォォォォォッ!!」
ガルドンが吠えた瞬間、その巨体が信じられないほどの速さで突進してきた。
「でっか!? しかも速っ!?」
カインは紙一重で回避しながら、目を見開く。山ほどもある体躯に似合わぬ俊敏な動きに、イリスとルナも戦慄した。
ズドンッ!!!
ガルドンの足が地面を踏みしめるたび、大地が大きく揺れ、岩が砕ける。
「こんなん、まともに攻撃通る気せぇへんのやけど……」
イリスが冷や汗をかきながら呟く。実際、ガルドンの黒曜石のような甲羅はどんな刃も通さないとされている。
「つまり、弱点を狙うしかないってことだな!」
カインは地面を蹴って跳躍し、フライパンを振り上げた。
「おらぁぁぁぁ!!」
ガンッッッ!!!
鈍い金属音が響いた。
カインの全力の一撃を受けたガルドンだったが――びくともしない。むしろ、フライパンのほうがわずかにしなっていた。
「……ん?」
「ええ加減気付けぇぇぇ!!!」
イリスの怒声が響く。
「フライパンで巨大カメの甲羅ぶん殴ってどうするんや!? 鍋蓋叩いてるのと一緒やろ!」
「……うーん、たしかに」
カインはしばし考え込むが、すぐに悪巧み顔を浮かべた。
「じゃあ、カメの中身を直接焼けばいいんだな?」
「「いや、どういう発想やねん!!?」」
ルナとイリスが同時にツッコんだが、カインはすでにガルドンの動きを観察していた。
(……アイツ、突進したあと、一瞬だけ甲羅から頭が出る)
そして――
「見えた!」
カインはガルドンが次の突進を繰り出す瞬間を見計らい、絶妙なタイミングでジャンプ。宙返りしながら甲羅の上に飛び乗った。
「いっただきまーす!」
ガツンッ!!!
「グォォォォォッ!??」
カインのフライパンが、ガルドンの首元にクリーンヒット。
高熱を帯びたフライパンの打撃が、じゅわっと焼き跡をつけた。
「い、いけるんか!?」
「せや、アイツ、熱には耐性がないんや!」
カインは勝利を確信し、次々と強烈なフライパンアタックを叩き込む。
ジュワッ! ジュワッ! ジュワァァッ!!!
「グ、グォォォォォォッ!!?」
ついにガルドンは耐えきれなくなり、のそのそと後退した。
「ふう……これで試練クリア、だな」
カインが肩を回しながら言うと、ガルドンは最後に一声「グォォ……」と鳴き、静かに山の奥へと引き下がっていった。
「ま、まさか……フライパンで勝つとは……」
イリスが呆然とつぶやく。
「……せやけど、途中からええ匂いしてなかった?」
ルナが鼻をひくひくさせながら言うと、カインは得意げにフライパンを掲げた。
「ほら、ちょっと焦げ目ついてる」
「「……何を焼いとんねん!!」」
ルナとイリスの怒声が響くなか、カインはケロッとした顔で天翔の霊草を摘み取ったのだった――。




