116 フライパン英雄、貴族社会の秩序を破壊する!?
116 フライパン英雄、貴族社会の秩序を破壊する!?
晩餐会場には、未曾有の混乱が広がっていた。
貴族たちは顔を青ざめ、震える指でワイングラスを握りしめている。
何人かは、まるで世界の終焉を見たかのように呆然と立ち尽くしていた。
その中心で、王女セシリアはカインに倣い、
優雅に微笑みながらグラスを一気に飲み干す。
「ぷはっ……美味しいですわ♪」
「」
貴族たちはセシリアを見て、もはや言葉も出ない。
「せ、せ、せ、セシリア王女がワインを一気飲み……!?」
「ありえん……これは貴族の伝統に対する冒涜だ!!」
「これは……革命の始まりでは……!?」
場内の空気が、一気に張り詰める。
そんな緊迫した状況の中、
カインは、まるで他人事のように隣の料理に手を伸ばしていた。
「お、ローストビーフやん。いいね、いただきまーす!」
ナイフとフォークを使うこともなく、
手づかみでガブリと豪快にかぶりつく。
ジュワッ……
肉汁が溢れ、カインの口元から滴り落ちる。
「うんま!!」
「!!!!!」
目の前で繰り広げられる「フライパン英雄の野蛮な食事風景」に、
貴族たちは顔を引きつらせた。
ギルバート侯爵は震える手で額を押さえ、
苦悶の表情を浮かべながら呻いた。
「なんということだ……」
貴族たちは騒ぎ出す。
「こ、これは前代未聞の無作法……!」
「貴族の食事マナーをここまで破壊する者が、かつていただろうか……!」
そんな中、王女セシリアは、
キラキラとした目でカインの食べっぷりを見つめていた。
「……私も。」
「!?」
彼女はフォークを置き、
ローストビーフにそっと手を伸ばした。
ふわり……
美しく整えられた指先が、肉をつまむ。
そして——
ガブリ!!
「!!!!!!?」
場内が、一瞬にして静寂に包まれた。
そして、次の瞬間——
「うわあああああああああ!!!!」
「マナーの崩壊だああああ!!」
「貴族文化が終わるうううう!!」
貴族たちの悲鳴にも似た叫び声が飛び交う。
ギルバート侯爵は、
まるで心臓を鷲掴みにされたような顔で、
ガタガタと震えながら椅子に崩れ落ちた。
「……おわった……我々の時代は、終わったのだ……」
その隣で、カインはローストビーフをもう一口かじりながら、
「うん?」と首を傾げた。
「え、なんでみんなそんな騒いでるの?」
ギルバートは、苦悶の表情のままカインを指差し、
震える声で叫んだ。
「貴様……! 貴族社会の秩序を破壊するつもりか!?」
「えぇ……ローストビーフ食ったぐらいで大袈裟だな……」
その場の貴族たちは、一斉に首を横に振った。
「違う! ローストビーフの食べ方ではない!!」
「お前が食べたのは『貴族のマナー』そのものだ!!」
「えぇ……(困惑)」
そんな中、セシリア王女は微笑みながら言った。
「……これ、とても楽しいですわ」
「」
貴族たち、絶句。
セシリア「今までの晩餐会は、退屈で仕方なかったのです。でも——」
彼女は、カインのほうを向き、
嬉しそうに微笑んだ。
「カイン様と一緒に食べる食事は、とても美味しいですわ♪」
パアアアアッ……!
まるで王宮に太陽が差し込んだかのような明るい笑顔に、
貴族たちは完全に息を呑んだ。
ギルバートは、魂の抜けた顔で呟く。
「……もうダメだ……王族がカイン殿に影響されてしまった……」
貴族たちも口々にささやく。
「フライパン英雄……なんて恐ろしい男なんだ……!」
「これが……庶民文化の侵略……!」
(えぇ……俺、ローストビーフ食っただけなのに……)
こうして、カインは「貴族社会の秩序を破壊する男」として、
晩餐会の歴史に名を刻むこととなったのだった——。




