11 異世界初の絶体絶命!? ルナの洗礼(続き)
11 異世界初の絶体絶命!? ルナの洗礼(続き)
「…………んぐっ!! ごほっ、ごほっ!!!」
俺は涙目になりながら、喉の奥で暴れるスライムおにぎりを何とか飲み込んだ。
……ぷるぷるっ。
……ちょっと待て。今、確かに飲み込んだはずなのに、喉の奥でまだ動いてないか……!?
(…………ひょっとして……飲み込んだ後も生きてるのか……!?)
背筋がゾワッとする。異世界の食べ物、怖すぎる。
「くっ……! こ、これは食い物じゃねぇ……!!」
俺は地面に両手をつき、がくがくと肩を震わせた。
そんな俺を見て、ルナはくすくすと笑う。
「ふふっ、カイン、大げさやなぁ」
「大げさじゃねぇ!! 俺の胃の中で今、何かがまだ生きてるんだぞ!!?」
「そないなこと言うてもなぁ、スライムおにぎりは普通の食べ物やで?」
「何が普通だ!! これ、日本に持ち込んだら食の安全基準ぶっちぎりでアウトだからな!?」
俺は口を押さえながら後ずさるが、ルナはそんな俺を面白そうに眺めている。
そして――
「ほんなら、もうひとつおかわりする?」
にっこり微笑みながら、もう一個のスライムおにぎりを手に取った。
「やめろぉぉぉ!!! 俺の口にスライムを押し込もうとするなぁぁぁ!!!」
俺は全力で逃げ出した。森の中を疾走する。
……が、次の瞬間――
スッ……!
背後に気配を感じたかと思うと、俺の動きがピタリと止まった。
「……え?」
ルナの細い腕が、まるで風のように俺の背中を回り込み、肩を軽く叩いた。
……って、なんで!?
「カイン、動きが単純すぎるで?」
背後から囁く声に、俺は震える。
「な、なんでそんな素早いんだよ!? お前、普通の女の子じゃないのか!?」
「うちは精霊王の娘やしな?」
「異世界チートぉぉぉぉ!!! そんなもんズルだろ!!」
「ふふっ、ゲームやないんやし、ズルも何もないで?」
ルナは俺の前にするりと回り込み、再びスライムおにぎりを手に取る。
……いや、さっきと同じ展開すぎるだろ!!
「さあ、もうひとつ――」
「ま、待て! 俺は人質だ! 俺の命が惜しければ――」
「何を言うとるんや? ちゃんと食べるんやで」
「く、くそっ……!」
俺は必死に腕を振り回し、なんとかスライムおにぎりをかわそうとする。
「無駄やで?」
「ぐぬぬ……!!」
次の瞬間――
バッ!!
ルナの手がひらりと動いたかと思うと――
「……んがっ!!?」
また口の中にスライムおにぎりが突っ込まれた。
ぷるんっ
(うわあああああああ!!!! また喉の奥でぷるぷるしてるぅぅぅ!!!!)
「ん~~、おいしいやろ?」
「おいしくねぇぇぇぇぇ!!!!」
俺は口をバタバタさせながら、必死にスライムおにぎりを押し出そうとするが……
ズルッ
(あ、やべ……)
滑った。
次の瞬間――
ドッシャアアアア!!!
「ひゃっ!? ちょ、ちょっとカイン!?」
俺はそのままルナを巻き込み、勢いよく地面に倒れ込んだ。
ふわっと銀色の髪が舞い、ルナの顔が間近に迫る。
「……あっ」
「…………」
俺の上に、ルナが乗る形になっていた。
至近距離で見つめ合う俺たち。ルナの大きな瞳がわずかに揺れる。
(お、おお……!? これ、なんか異世界ラブコメっぽい展開……!?)
俺の心臓がバクバクと跳ね上がる。
ルナの頬も、ほんのり赤く染まっていた。
そして――
「……ま、また口に入ったやん」
ルナがぽつりと呟いた。
「え?」
「カインの口の中、またぷるぷるしてる」
……あ。
――俺の口の中で、スライムおにぎりがまだ元気に暴れていた。
「うぎゃあああああああ!!! もうやだこの異世界ぇぇぇぇ!!!!」
俺の叫びが、森の中に響き渡った――。