wish
ー家族同然の仲間に出会いたいー
そう願ったのはいつだったんだろう。
ジリジリジリーーッッッ!!!!
目覚ましの音が家に響き鳴る。
「五月蝿いなぁ…」
今日も朝がやってきた。いや、やってきてしまった…
私の名前は夕暮 飛鳥。
歳は21歳。大学3年生。得意なことはダンス。苦手なことは勉強。夢もやりたいことも何もない。
周りがどんどんやりたいことや就職先を見つけていくのに対し自分は何にも決まってないことに焦っている真っ最中。
元々大学はやりたい事がなかったから社会学系大学に進学した。
いろいろなことを学ぶうちにさらに自分のやりたい事がわからなくなってしまった。こんなことなら芸術大学みたいな専門的なところにすればよかったかもしれないと本気で悩んでいるところ。
今日の大学は午後からなんだけど、久しぶりに幼馴染と会う約束をしているから10時には家を出ることにした。
久しぶりに会うので少しくらいオシャレをしていこうと思い、前に友達に選んでもらった服を着て待ち合わせ場所に行く。
しばらく待ってると ちょっと遅れるほんとごめん とメッセージが来ていた。あの子にしては珍しい。
ゆっくり来てと返しておいた。
それから5分後くらいに
「遅れてごめん!!!」
と待っていたあの子が来た。
「何着て行こうか悩んでたら遅れちゃって…本当にごめんね、」
と言って謝ってくる。
「問題ないよ。5分くらい」
私の家族は連絡もなく1時間くらい遅れてくるから5分なんてなんともない。
「ありがとぉ〜!!!」
といい抱きついてくる。
この子は暁 燕
歳は3つ上の24歳。大学には行かず高校卒業後アイドル事務所を立ち上げ、今ではある程度知名度のある事務所の社長。
今日は燕の方が話したい事があるという話だったのでランチをする約束をしていたんだ。
燕が個室のレストランを予約していてくれたおかげですぐに中へ入れた。
「飛鳥は最近どう?」
「普通だよ」
「またまた〜w」
本当に普通。毎日朝起きて大学があるなら大学に行って大学がない日は基本バイト。
友達も殆どいない。それが私だ。
「燕は?」
「大きなオフィスに引っ越しをしたくらい」
オフィスを引っ越すことをくらいと言ってしまう。やっぱり私の幼馴染はすごい。
「それでさ、話があるんだけど…」
そういえば今日は燕の話を聞くために会っていたんだっけ、すっかり忘れていた。
「なんの話?」
「飛鳥さ、良ければ私のとこでアイドルやってみない?」
「アイドル!?なんで私が!?」
本当になんで!?歌は下手なわけじゃないけど特別うまいわけではないし、ダンスは得意だけど、勉強だってダメダメ、人と話すのも苦手だ、
バックダンサーとかならまだしもアイドルはフリートークとかがあるけど私はダメダメだから無理だと思う。
「飛鳥には人を魅了する力があると思うの!それに努力をし続けれるし、この業界において努力し続ける事ができるというのは相当な強みになるし、何よりダンスがめっちゃ上手いし!!!」
人にこんなに褒められるのは久しぶりだから嬉しかった。
だけどーーー
「私は歌が特別上手いわけじゃないし、話すのも得意じゃないもっといい子がいると思うよ」
アイドルとして歌が上手くないのは大問題
「歌が上手くなくったって問題ないよ」
え?
「トークだって出来なくったって問題ない」
「何を言ってるの?」
「だって私が言ってるのは新しい形のアイドルグループのお誘いだから」
どういう事だと悩んでいると燕が口を開いた
「実は得意を活かせる性別関係なしのアイドルグループを作ろうと思ってて、メンバーは6人、それぞれ歌、ダンス、音楽作成、トーク、演技、運動能力、それらがずば抜けて得意なメンバーを集めているところなの。その中のダンスで飛鳥に入ってもらえないかと思ってて、苦手な面は得意なメンバーがカバーをできるように、だからできなくっても問題ない」
意味はわかった。だけどすぐに決断することは流石にできない。
「まぁすぐに決断してくれとか求めてないし興味ないなら断ってもらっても全然構わない。だけど昔言ってた家族同士の仲間に出会いたいっていう願いを叶えるチャンスなんじゃないかな?」
高校生の頃組んでたバンドが解散した時に言った言葉だ。覚えていたんだ、
「…ちょっと考えさせて、」
「勿論、ゆっくり考えて、これからの人生を左右することだし。また結果が決まったらご飯でも食べに行こ」
と笑顔で言ってくれた。
今日は大学があるからとその話が終わってから意外とすぐに解散することになった。
お昼ご飯代は燕が「社長だし年上の私に任せなさーい!」と言って払ってくれた。
ありがたい。
大学へ行く途中にアイドルの話を考えていた。
ダンスが得意なのは確かだし、大会で優勝したりもしているから役には立てるだろうけどグループとなると他のメンバーとの相性だってあるし…
あぁ、考える事がいっぱいで今日の講義は集中できそうにないな