第5話 星霜の一杯!
バァァァン!!!!
扉が勢いよく開き、冷たいマナの波動が店内を包み込む。一瞬、酒場の喧騒が凍りついた。
フォルクがジョッキを傾ける手を止め、ドラコの尻尾がピクリと揺れる。ジーナはグラスを拭く手を止め、静かに視線を向けた。
「――この店の店主、リリィ・グラスフィルはどこかしら?」
立っていたのは、深紫のローブに金の刺繍を施した長身の女性。精巧な魔杖を携え、鋭い眼差しで店内を見渡している。
魔力がわずかに漂い、ただ者ではない気配を醸し出していた。
「……あなた、誰?」
私がグラスを拭く手を止め、静かに尋ねると、彼女は冷然と答えた。
「魔術ギルド中央評議会幹部、ルシル・アルヴェイン。」
店内がざわめく。
「魔術ギルドの幹部が、こんな酒場に……?」
「おいおい、違法魔術でもやらかしたのか?」
「やってないわよ!!」
即座にツッコむ私を見て、ルシルは口角をわずかに上げ、クスリと笑った。
「なるほど……あなたが《酔いどれの魔酒使い》と呼ばれるリリィね。」
「そんな二つ名、誰がつけたのよ!?」
「魔術ギルド内では、あなたの噂はかなり広まっているわ。」
「で?」
私は腕を組み、警戒を強める。
「幹部様がわざわざ訪ねてくるってことは、何か面倒ごとでしょ?」
ルシルはゆっくりと魔導書を開きながら、静かに言った。
「ギルドが所有する貴重な素材を、あなたの技術で最高の魔法酒に仕上げてほしいの。」
「……は?」
ルシルは懐から小瓶を取り出す。
淡い青い光を放つ液体が、ゆらめいていた。
「こ、これは……!」
ジーナが目を見開く。
「星霜のエリクサー……!」
「なにそれ?」
ドラコが首を傾げると、ジーナが呆れたように言った。
「伝説級の霊薬よ。月と星の魔力を凝縮し、通常の錬金術では到底精製できない希少な素材……!」
私はゴクリと唾を飲む。
「……で、これをどうしろって?」
ルシルは静かに微笑んだ。
「あなたの技術で、カクテルに仕上げてほしいの。」
私はカウンターを軽く叩き、ニヤリと笑う。
「……いいわ。腕の見せどころね。」
ベースは、神秘の銀葡萄酒。夜間にしか収穫されない葡萄から作られ、星空を閉じ込めたような深い味わい。
そこに、精霊樹の蜜を加える。まろやかで優雅な香りが広がり、飲む者の魔力を整える作用を持つ。
最後に、星霜のエリクサーをほんの一滴……。
すると――
グラスの中で、淡い月光のような輝きが生まれる。
私はグラスをカウンターに置き、ルシルに差し出した。
「……できたわ。ルナ・オーロラよ。」
ルシルはゆっくりとグラスを持ち上げ、口元へ運んだ。
ゴクリ……。
「……っ……!」
彼女の瞳が、一瞬だけ銀色に輝く。
「……素晴らしい。」
ゆっくりと息を吐き、彼女はグラスを置いた。
「これは……ただの酒ではないわ。星の魔力そのものを味わっているような感覚……。」
私は胸を張る。
ルシルは微笑みながら、ふと意味深なことを言った。
「けれども残念ね。私たち魔術ギルドのトップが、どうしても魔法樽を手に入れたいとご熱心になってしまっているの。」
「……は?」
「私としては、あなたのお酒に惚れてしまったのだけれど、上のいうことをひたすら聞くだけのおバカな現場担当者が、きっとこれから魔法樽を手放させるべく、営業妨害に来るはずよ。警告しておくわ。」
「ちょ、待って!? 魔法樽を魔術ギルドが狙ってるの!?」
「ええ。上の意図は分からないけれども…。」
「ただ、私は期待しているの。競い合い、戦うことで魔法も、お酒も、さらなる高みに至るものだから。あなたの導く未来……見させてもらうわ。」
ルシルはそう言い残し、カウンターにコインを置くと、優雅に店を後にした。
店内が静まり返る。
「なあ、リリィ……」
フォルクが腕を組みながら、深刻そうに言った。
「……魔術ギルドにまで狙われる魔法樽って、一体なんなんだ?」
「……それが分かれば苦労しないわよ。」
私はカウンターに肘をつき、ぽつりと呟く。
酒ギルドとの戦いの後は魔術ギルド……魔法樽がどうして狙われ続けるのか、私は不思議な気持ちを拭えなかった。
――これは、まだ始まりにすぎない。
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