第4話 エルフのコイン狂騒曲!
無事にライアンを筆頭に、商会が出資を引き受けてくれることになり、そこから話はとんとん拍子に進んだ。まるで酔いが回るみたいに、スムーズに。
爆発事件のせいで、元「酔いどれ亭」の跡地には買い手がつかず、ずっと放置されたままだったらしい。逆にこれはチャンスよ! 立地は最高だし、何より――あの場所を乗り越えてこそ、本当の「酔いどれ亭」になる。
「再建するなら、あそこしかないでしょ!」
そう決めて、工事の準備が着々と進んでいく。とはいえ、お店がすぐに出来上がるわけじゃない。だから、それまでは今まで通り、「酔いどれ小屋」で営業を続けることにした。
そして、そんなある夜――
私はカウンターでグラスを磨いていた。いつものように、常連たちが酒を片手に笑い合い、気持ちよく酔いしれている。
穏やかねぇ、なんて思った矢先――
バァン!!!
突風が店内を駆け抜け、酒瓶がガタガタと揺れた。カウンターの酒樽がゴロンと転がり、客たちが驚きの声を上げる。
「うおっ!? なんだなんだ!?」
「また厄介事か?」
そして、暴風の中心から現れたのは――
「おおおおおお!! ここが噂の酔いどれ小屋か!!!」
妙にテンションの高い男だった。
カウンター越しに観察すると、豪華な刺繍入りのジャケット、ジャラつく金銀銅のコイン、胡散臭いほどの笑顔。
「ふっふっふ…私はフィリップ・ニアス! 世界中のコインを集める者!!」
「また変なのが来たわね」
「そして! この店にはエルフの里の緑のコインがあると聞いた!!」
「……は?」
私は思わずポケットを探る。
――あった。
小さな緑色のコインをカウンターに置く。
「おおおおおおおお!!! それは紛れもなく『エルヴァルド・グリーン』!!!」
フィリップの目が輝き、興奮で震えながらカウンターに身を乗り出してきた。
「やめなさいよ!! そんなに興奮しないで!」
「知らぬのか!? これはエルフの里でしか手に入らない、超貴重な通貨なのだ!!!」
「……いや、普通に使われてるお金よ?」
「そう!! だからこそ貴重なのだ!!」
「いや、普通に流通してるから貴重じゃないのよ!!!」
「譲ってくれ! いくらでも払う!」
「いくらでもって……どれくらい?」
「……銀貨十枚!!!」
私は緑のコインを手のひらで転がしながら考える。
(これ、エルフの里では銅貨一枚くらいの価値よね? ってことは……めっちゃ儲かる!?)
「……交渉成立!!!」
「おおお!! ありがとう!!!」
フィリップは歓喜の声を上げながら、銀貨十枚を私に渡し、緑のコインを握りしめた。
――が、その瞬間。
バタン!!
さらに威圧感たっぷりの男が店に入ってきた。
長身、銀の髪、威厳に満ちた眼差し。
「……リリィ」
「……うわっ、リーヴァン!!」
エルフの族長、リーヴァン・エリステアが、厳しい顔でこちらを見ていた。
「実は今、エルフの里の貨幣を新しくすることになってな。その古い緑のコイン、もうすぐ価値がゼロになるぞ。」
「……え?」
「新しい通貨に変わる。つまり、それはただの金属の欠片だ。」
「えっっっ!!???」
私は反射的にフィリップを見る。
フィリップの顔が、見事に凍りついていた。
「……い、今なんと?」
「だから、そのコイン、もうすぐ使えなくなるの」
「嘘だあああああああ!!」
フィリップが頭を抱えて叫ぶ。
「いや、まぁ、君のコレクションとしては価値があるんじゃない?」
「くっ……だが私は……コインの価値と歴史を楽しむ者……!!」
「まぁ……銀貨十枚は高かったかしらね」
「ちょっと待て!! 返金は……?」
「契約成立だから無理よ」
「ぐあああああああああ!!」
フィリップが悶絶する中、フォルクがグラスを傾けながら呆れたように言った。
「……まさかの転売成功だな」
「いや、私は正当な取引をしただけよ!」
フィリップはしばらく悶絶していたが、やがて静かに立ち上がった。
「……わかった。せめて、この痛みを癒すための酒をくれ……」
「……最初からそう言いなさいよ!じゃあ、最高の一杯を出してあげるわ!」
ベースとなるのは、深い琥珀色のレガシー・ラム。
樽で十年以上熟成されたこのラムは、長い年月を経たものだけが持つ、重厚で複雑な味わい。
そこに、焼いたオレンジの皮とシナモンを加え、ほのかに甘いバニラの香りを纏わせる。
仕上げに、エルフの森で採れた蜂蜜を垂らし、ほろ苦さと甘みのバランスを整える。
そして最後に、金箔を一筋グラスの中に舞わせる。琥珀色の液体の中で、宝石のように煌めく黄金の光。
「さぁ、これが『フォーチュン・カスク』よ。」
フィリップはグラスを手に取り、一口飲む。
「……っ!! うまい!!!」
「でしょ?」
「……くそぉぉぉ!! コインは損したが、この酒が飲めたならよしとしよう!!!」
なんでよ!?
こうして、コイン狂騒曲は幕を閉じた――が。
翌日もフィリップは「もっと珍しいコインはないか!?」とやってきた。
……懲りないわね、本当に。
─
「魔法樽を手放させる計画は、これより第三段階へと移る。」
闇の中、静かに囁かれる声。
「酒ギルドからの妨害は、もはや表立っては難しい…ならば、次は魔術ギルドだ。」
「魔術ギルドの代表も、神々の杯には目がなかった。」
影の一人が口元を歪める。
「当然だ。遠き古代の伝説が蘇るのだからな…。」
「魔法の深淵に迫る――それは、避けられぬ道理。」
「さぁ――酔いどれ亭とやらが完全に復活する前に、魔法樽を手放させるぞ。」
夜の闇に、静かな笑いが溶けていった。
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