第2話 未来は情熱で勝負!
カウンターに突っ伏しながら、私は大きなため息をついた。
どれだけ熱く語っても、商人たちの答えは一様に冷たいものばかり。
「リスクが高い」
「成功する保証がない」
まったくもう、どいつもこいつも保守的すぎる!!
「こうなったら、実際に酔いどれ小屋を体験してもらうしかないわね!」
言葉で伝わらないなら、実感してもらうのが一番! そうして私たちが何とか連れてきたのが、大商人ライアン・フォークナーだった。
「体験してもらったところで、答えは変わらないと思うが?」
「ライアンさん、今日はお越しいただきありがとうございます!」
カウンター越しに深々と頭を下げる。
目の前の琥珀色の瞳を持つ男――冷静沈着で観察眼鋭い彼を説得するには、それなりの覚悟がいる。
ライアンは微かに笑みを浮かべながら、椅子に深く腰掛けた。
「ふむ…君が何を頼むつもりかは、だいたい分かる。」
その視線は店内を巡る。
仮店舗の質素な内装、手作り感満載のカウンター……。
その目がすべてを測っているのが、言葉にせずとも伝わってきた。
「新店舗の建築の件ですね。ただの借金ではなく、一緒に店を作るパートナーを探していて――」
「――断る。」
バッサリ。
「リリィ、君の情熱は分かる。だが、商売は情熱だけじゃ回らない。利益の保証がない以上、リスクは取れない。」
そう言って、ライアンはグラスを置き、ゆっくりと立ち上がった。
――いや、待って!!
「おい、待てよ。」
店内に響く低い声。
カウンターの隅で静かに酒を飲んでいたフォルクが、ジョッキを置いて立ち上がった。
「リスクを取るのが怖ぇんだったら、俺も出資する。だから、考え直してくれねぇか?」
――は!?!?!?
一瞬、店の時間が止まる。
あのフォルクが、お金を出すですって!?!?
私は慌てて彼を見た。
「フォルク、何を言ってるのよ!? これは私の――」
フォルクは静かに言葉を続ける。
「俺が冒険者としてここまで来られたのは、お前のおかげだ、リリィ。」
「お前の作る酒とつまみ、そしてその明るさに何度も救われた。」
フォルクは拳を握りしめ、まっすぐに私を見つめる。
「俺たちが最初に冒険に出た頃、ブロンズランクだった。なんだかんだでリリィと組んで、シルバー、ゴールド……お前が引退してからはソロでやってきたが、今ではミスリルに手が届くところまで来た。」
そして、にっこりと笑う。
「リリィ、俺の人生でお前は欠かせないヤツになった。そして、お前の酒には、それだけの価値がある。だから恩返しをさせてくれ。新店舗を、一緒に作ることでな。」
私は呆然としながらも、思わず拳を握った。
「フォルク……」
店内に広がる静寂。
フォルクの言葉が、鐘の音みたいに胸の奥に響く。
ライアンはじっと彼の言葉を聞いていた。そして、私の方へ視線を向ける。
「……リリィ、君はどう思う?」
私はギュッと拳を握る。
「私は、絶対に酔いどれ小屋を成功させるわ。」
「この場所が、人々にとって特別な空間になるって信じてるもの!」
ライアンの琥珀色の瞳が、ほんの一瞬揺らいだのを、私は見逃さなかった。
「……分かったよ。」
低く、穏やかな声。
「君たちの情熱に負けた。」
ライアンはグラスのエールを飲み干し、微笑を浮かべた。
「ただし、私は情熱だけでは動かない。君たちの計画が筋が通ったものかどうか、しっかり見届けたい。だから、もう一度次の段階の計画を練って持ってきてくれ。それを見て、最終判断をしよう。」
――やった!!!!!!!
心の中でガッツポーズ!
「ありがとうございます! 必ず納得していただける計画をお見せします!」
ライアンの唇が、わずかに上がる。
「いい酒だったよ。そして、その情熱もな。」
そう言い残し、彼は店を後にした。
扉が静かに閉まる音が響き、店内にはしばしの静寂が訪れる。
「……っしゃあああ!!!」
沈黙を破ったのは、私だった。
カウンターに拳をドン! と叩きつけ、フォルクを振り返る。
「聞いた!? 聞いたわよ!? これ、いけるわよね!? いけるわよね!!?」
「お、おう……まあ、第一関門突破ってとこか?」
フォルクが苦笑しながら肩をすくめる。
その横で、ジーナが腕を組みながら、呆れたようにため息をついた。
「……あんた、本当に単純よね。」
「なによ、ジーナ! いいじゃないの! ここは喜ぶところでしょ!!」
「フフ、まあね。でも、これからが本番よ?」
「わかってるってば! だから――」
私は勢いよくカウンターの奥へ回り、材料をガシャガシャとかき集める。
「未来を願って乾杯しましょ!!」
「お、いいねぇ!」
フォルクがニッと笑い、ドラコがカウンターに飛び乗ってくる。
「おいおい、せっかくならド派手な一杯にしろよ? 未来を祝うってんなら、ただの酒じゃつまんねぇぜ?」
「当たり前でしょ!!」
私は意気込んで魔法樽を引き寄せる。
エルフの森のレモングラスをたっぷり注ぎ、ほんのり甘いハチミツと爽やかなミントを追加。仕上げに、特製の魔法スパイスをひと振り。
そして――
「最後に…これ!!」
青く光る発光クリスタルをポンっと魔法樽に放り込む。
「おい、それ何だよ!」
フォルクが目を丸くする。
「安心して、ただの演出よ!」
魔法樽をかき混ぜると、中から淡い青と金色が混ざった液体が現れる。
カウンターに並べたグラスに注ぐと、液体はキラキラと光を反射し、星屑が舞っているように見えた。
「できた! その名も――『フューチャースパークル』!!」
「うおっ、見た目がすげぇな!」
フォルクがグラスを手に取り、じっと見つめる。
ジーナも興味深げに細い指でグラスを傾けた。
「ほら、飲んでみて!」
フォルクがグラスを持ち、一口――そして、目を見開く。
「うわ、何だこれ! レモンの爽やかさとハチミツの甘さ、それにミントが完璧に混ざってる! しかも、後味がスッキリしてて何杯でも飲めそうだ!!」
「へへっ、なかなかやるじゃねぇか!」
ドラコが自分のグラスを尻尾で持ち上げ、器用に口元へ運ぶ。
「くぅぅ~~!!これは最高だぜ!!まるで未来の味って感じがする!!」
「でしょ!!希望の味がするでしょ!!」
私は胸を張って笑う。
ジーナが静かにグラスを傾け、微笑みを浮かべた。
「…悪くないわね。未来を願うには、ふさわしい味よ。」
「でしょ!?」
私は勢いよくカウンターに手をつき、にやりと笑った。
「さあ、これからもどんどん進むわよ!! 次の一杯も最高に美味しいものを作るんだから!!!」
フォルクとジーナが微笑み、ドラコが尻尾をパタパタさせる。
「へへっ、そんじゃあ――」
「未来に、乾杯!!!」
ジョッキとグラスがぶつかり合い、澄んだ音が響く。
もう迷いはない。
ライアンを納得させる計画を練り上げ、新店舗を作る!!
私はもう一度、魔法樽に手を当て、未来を見据えて笑った。
――希望はここに、私たちの店にある。
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